AM 6:00
あぁ、寒いなぁ……。
ビュオオオォ
……あっ。そうだ。
今日、焼き芋やろう
▼前回▼
AM 7:00
12月下旬
激動だった2021年も残すところあと僅か。
そんな寒風吹きすさぶこの時期に、自分の脳裏に思い浮かんだ「焼き芋を焼く」。
アルミホイルで包んだ芋を火の中に放り込みたい。
ねっちょり黄金色のサツマイモを無限に食べたい。
別に、焼き芋を食べるだけならキャンプ場くんだりまで出向く必要もないだろう。
焼き芋欲しけりゃドンキで買える。
本音を言えば、僕は焼き芋そのものより「焚火で落ち着く時間」が欲しかったのだ。
師走の季節。誰もが奔走している。
フリーランスの自分もありがたいことに今月は仕事量も多かった。忙しかった。いつも以上に慌ただしく過ごすことができた。
だが我々は、師走という言葉を盾に、忙しくすることを“是”として肯定しすぎてはいないだろうか。
忙しいとは本来、生物にとってマイナスな状態のはずだ。
忙しいのは美点でもあるが、同時に、大事な何かを失っているんじゃ?
時間とは、我々が最も欲しがるものだが、最も下手な使い方をするものである
,ウィリアム=ペン
時間を有効に使わなければ損をした気分になってしまうのは、ある種、病的な症状なのかもしれない。
だからこそ、あえてクソ忙しい師走の平日に、焚火で芋を焼く必要がある。そんな気がする。
AM 11:00
午前11時「大森駅」到着
今回のルートはこんな感じ
まずは駅付近のスーパーで、サツマイモや焼き芋に必要な道具を調達する。
改めて、今回の「いきなり仲間」である、原宿編集長(左)とらむ屋敷さん(右)。
やはり平日の朝にいきなり誘われたからだろうか。二人の表情はどこか曇り気味だ。
「焼き芋か…」
今回は焼き芋です。
「正直、焼き芋ってそこまでテンション上がらないかも…」
はぁ!? 上がるでしょうが。
「焼き芋だけで腹を満たしたくないって思いもある」
満たせ! 破裂しろ!
「僕、今まで生きてきて、焼き芋ってあんまり食べたことないんですよね」
そうなんですか? 人生って焼き芋を避けて通るほうが難しくない?
「家族で焼き芋はしてたんですけど、食わず嫌いでただ焼くことだけに専念してました」
らむ屋敷さん偏食ですもんね。
この「いきなりシリーズ」は、ホスト(僕)が、彼らをどれだけ満足させられるかの真剣(ガチ)勝負でもある。
しかし、そもそも二人の「焼き芋」に対する期待値がそこまで高くなかった。
「いきなりシリーズ」は第二回目にして早くも暗雲が立ち込める(あるいは、やっぱいきなり誘うのって良くないかもしれない)。
我々はテンション上がらぬまま、付近のスーパーで食材を調達し、キャンプ場へ向かった。
PM 0:30
「城南島海浜公園キャンプ場」に到着した。
こちらのキャンプ場は、事前に電話で確認をすれば、混雑状況次第で当日の利用も可能(キャンプ場の空き次第によるので、原則として、数日前には電話で予約をしておこう)。
そして、薪や炭、着火剤など売店で購入できる。
つまり、食材さえ持っていけば、その日の思いつきでも焼き芋ができる!
料金も安い!
キャンプ場利用料が大人1人300円と破格の値段だった。安すぎて思わず経営とか心配になる。
どうですか! キャンプ場ってテンション上がりますよね! ふ~うう!
「まぁ……」
「……」
全然テンション上がってねぇな…。なんだコイツら。
仕方ない。じゃあ、そんなお二人に、私がとっておきの景色をお見せしますよ。
「なんです?」
「あ…!」
「海だ!」
つばさ浜
この城南島海浜公園は海岸に面した場所にあるため、キャンプをやりつつ、砂浜で遊ぶこともできる。
今回、数あるキャンプ場の中からこの場所を選んだ理由がこれだった。
焚火と海、この2つの組み合わせ、最高に決まってる。
「う、ううう…」
「うおぉ~~~~~~~!」
オモコロ編集長・原宿(40)。寒凪の海を背に、男の咆哮。
編集長の顔にようやく笑顔が訪れた
この撮影も仕事である以上、どんな状況だろうと行わなければいけない。
それが仕事というものだ。
たとえ二日酔いだろうと、恋人と別れた翌日だろうと、無理矢理にでも明るく振る舞わなければいけないのが仕事だ。
だが、たまには素の顔で仕事を楽しんだっていいじゃないか。
広大な自然の前では、誰もが心を解放できるのだ。
「いや~、こういう場所に来たらストレスも無くなるね」
よかった。僕は今日、その言葉を聞きたかったんです。
「オモコロ」の編集長という肩書は、あまりにも重圧。今日ぐらいその肩から荷物を降ろし、心を労ってほしいのです。
これは所属ライター、全ての願いでもあるのです。
あれ…?
なにやってるんですか、らむ屋敷さん?
らむ屋敷さんは流木にヘッドロックを極めていた。
海の魔力がそうさせるのか。彼の理性という名の歯車がイカれはじめた。
見さらせ、これがオモコロ所属のライターだ(そしてこいつらを纏めるのがさっきの編集長だ)。
「……とうとう、ここまで追い詰められましたか」
どうした?
PM 1:00
午後一時。二人のテンションを上げることにも無事成功した。
いよいよ焼き芋の準備に取り掛かる。
水で土を落としたサツマイモを、新聞紙で包んでいく。
新聞紙でサツマイモを包む。小学校ぶりの経験かもしれない。なんだか懐かしい気持ちになる。
ここで焼き芋の基本的な手順を紹介したい
紹介したが、これは撮影後に調べた情報だ。このときの我々はほぼ手探りの状態で芋を焼いた。
どのような結末になるかは、読者の皆様がその目で見届けてほしい(殺し合いが起きるかもしれない)。
我々が焼くのはサツマイモだけに止まらない。
原宿さんは鮭やホタテをホイル包みにするそうだ。美味しそ~。
いよいよ火おこし。
…が、ここでトラブル発生。
火がつかない。何度も挑戦を試みるものの、薪が全く燃えない。
困った…どうしたものか…。
???「炭の位置を変えるといいですよ」
え!?
誰!?
マジで誰?
我々の目の前に、突然、知らないおじさんが現れた。
こういう時、まず思い浮かぶのは「誰かの知り合い?」だ。が、3人の瞬時のアイコンタクトにより誰の知り合いでもないことは判る(こういう場面でのこういうやり取り、生々しくてなんか好きだ)。
そして服装から、キャンプ場の運営者でもない。
ということは、本当に知らないおじさんだ!
知らないおじさんは、火を起こしあぐねる我々に気づいて、火のつけ方をレクチャーしにきてくれた。
知らないおじさん「炭に火がつかないときは、こうやって柵を使って、薪の上に炭を配置するんです」
ふむふむ。
知らおじ「で、着火剤を薪の中に入れて、火をつけます」
なるほど。
知じ「薪が燃えている間は、炭を山のようにどんどん積んでいく。大事なのは、積み重ねた炭に隙間を空けないこと。そうすることにより、熱が炭の中に籠り、火が付きやすくなるんですよ」
へー!
一瞬で火が付いた
そして知らないおじさんは「よかったですね」と笑いながら去っていった。カッコよすぎる。
火がつきゃこっちのもんよ
焼き芋をするには、灰と“おき火”が必要。まずは肉や魚介類、野菜をどんどん焼いていく。
既に美味そう
アルミホイルの中から、ジュウジュウと聞こえる音が耳に心地よい。
薪が燃える匂いと、料理の匂いが鼻腔をくすぐる。
第一陣が出来上がった
「しめじ、えのき、アスパラガスの野菜ホイル包み」だ。
この包みも、我々が作ったと思わせて、先ほどの知らないおじさんが「よかったらどうぞ」とおすそわけしてくれた。知らないおじさんはキャンプ場の足長おじさんなのか?
さぁさぁ。一発目、原宿さんが食べちゃって下さ……どうしてそんな怪訝な顔するんですか!
おっ、味ぽんでいくんですね。 いいですね。
「モグっ……」
お味はどうですか、原宿さん?
「う……ッ!」
毒盛られてた?
「プシッ!」
あっ、酒!
「ぐィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!
ビタビタビタビタビタビタ
めちゃめちゃこぼしてる! 汚ねぇ!
「美味い!」
それはよかった! よかったです原宿さん!
後ろで、ネコがイチャイチャしてます! 原宿さん!
自分も頂戴する
焚火の熱でジワジワと温めたからだろうか。どの野菜もふんわりとした甘さがある。
おじさん、ありがとう!
続いて、長ネギのホイル焼き
こちらもじっくり熱したことにより、口の中に入れた瞬間トロけた。
さらにじゃがいもホイル焼き
問答無用で美味い。塩や調味料を使わずともそのままでいける。酒が、進む。
キャンプ場で焼くじゃがいもは“最高”の二文字だ。
らむ屋敷さん
「ソーセージも美味ぇ~」
キャンプの肉って正義ですからね!
「外で食べる肉が一番美味い…」
!?
急に頭上を見上げる、らむ屋敷さん。どうしました?
「いや…」
「なんか肩に落ちてきたんですけど…。もしかして、鳥の糞(くそ)ついてません?」
え? あ! ほんとだ! 糞(くそ)が肩についてる!
たぶんアイツでしょうね。
「は~~~~~!?」
「 ○すぞ!!! 」
ウケる。
そんな可哀想な糞野郎には「ホタテのホイル焼き」を食べてもらおう。
ポン酢を垂らし、バターをたっぷり乗せて…
「美ぅ~~~味ぁ~~~~~」
よかった。
そして牡蠣
これが脳天突き抜けるほど美味かった。
アルミホイルで包まれたことにより牡蠣の旨味成分が閉じ込められ一層美味しく感じられた(あと、野外で牡蠣を食べれる非日常感もある)。
みんな! 焼き芋では牡蠣も焼こう!
焼き芋は牡蠣が美味い!
PM 2:30 芋、投入
いよいよサツマイモの投入だ。
焼き芋を火の中に入れていく
長かった「いきなり焼き芋」も大詰め。我々は今日、このためにここまで来たのだ。
あとは成功を祈るのみ…。
All I can do now is pray.(祈るのみ……)
PM 3:00
そして待つこと数十分。
芋が焼き上がった(気がする)!
おっ! 表面は良い感じに焼けてる!
パカァ
お~~! まぁまぁ…まぁまぁ良い色じゃないですか?
焼き芋にむさぼりつく原宿さん
さぁ、苦労して焼いた焼き芋の味はどうですか!
あれ?
「う~ん…。いや、美味いんだけどね? 美味いんだけど…。想像よりも想像を超えてない」
えー!?
自分も食べてみる
なるほど。たしかに「焼き芋の味」の水準はクリアしているが、全体的に固さが残っている。
焼き芋に求めていた「ねっちょり感」が足りないのだ。
我々が食べたかった焼き芋はこれでは……ない。
ただ、ほどほどに成功した焼き芋もあった(紅はるかが一番成功率も高かった)。
百発百中ではないので、きっと工程で何かが足りなかったんだろう。
火で熱する時間が甘かったのか…それ以前の下ごしらえに問題があったのか…。
焼き芋って結構簡単にできるもんだと思っていたが、そうでもなかった。
失敗したが、対策も用意している
「焼き芋にトッピングしたら合うモノ」も事前に購入していた。
特にキムチは焼き芋との相性が抜群だった。
皆さんも、焼き芋をする際にはキムチも合わせて用意してほしい。世の中の料理、キムチさえあれば大体なんとかなる。
全体的に消化不良となった僕と原宿さん
ただ、この画像だけなら「100点の焼き芋」だろう。来年のスマホの待ち受けにしたいレベルだ(しないけど)。
しかし、焼き芋を今日初めて食べたらむ屋敷さんは大層喜んでいた。
「焼き芋ってこんなに美味しいんですね!」
「もっと早く知るべきでしたよ!」
と言っていた。
いや……。まぁ、喜んでくれたならいっか。
PM 3:30 撤収
こうして、我々の「いきなり焼き芋」は幕を閉じた。
今回のメインである「焼き芋」は、成功とは言い難い結果となった。
正直、今回食べた焼き芋より、店で買った焼き芋のほうが美味い。
そう考えると、ドンキやスーパーで売っている焼き芋はなんて素晴らしいのだろう。
こうしてキャンプ場に出向かずとも、たった数百円を出せば格別の焼き芋が買える。我々はこの時代に生きれること誇りに思わなければならないだろう(そう言ったものの、実は僕はドンキで焼き芋を買ったことは一度もない。なかったのだ。ドンキの焼き芋って大体レジ横に設置されている。でもなんか、ドンキの店員さんってなんか声をかけるのに躊躇する。なんかちょっと他の店よりも怖いのだ)。
よし。帰り、ドンキに寄ろう。
では、今日の我々の行動はムダだったのか? それも違う。
都会の喧騒を離れ、自然や海を眺める。
その、生産性が存在しない無意味な行為にこそ、かけがえのない意味があるのだ。
そしてそれは「いきなり」でなくてはならない。
人間は計画に縛られて生きる生物だからこそ「いきなり」に救われる瞬間がある(誘った側の言い分じゃないけど)。
今年も、一年が終わろうとしている。
来年も、波乱の一年になるかもしれない。
忙しさに取り憑かれ、疲弊し、何も見えなくなった時には…
思い出してほしい。「ゆとりの時間」が、きっとそばにあることを。
焚火でも海でも、自然のBGMでもいい。
人間、たまには、忙しくない時間に身を置いてみよう。
それが、一番大切なことだから。
午後4時、「いきなり焼き芋」は幕を閉じた
PM 4:02
「ところでさ…」
「今日一日ず~っと気になってたんだけど。たかや、顔、どうしちゃったの?」
こんにちは、たかやです。
え…?
は…?
(おわり)