【小説】サイゼ放浪見聞録/サイゼ開発ログ

 

序章

あなたの最初の記憶はなんだろうか。積み荷の鼈甲、馬の匂い、悪路の振動、荷馬車から覗く四角い夜明け前の空とカラコルム山脈、そして星々の声。それが私の最初の記憶だ。

私達はシルクロードを西に進む旅団で、灼熱の昼と極寒の夜を避け、夜明け前の数時間に旅程を稼ぐ。星々は雄弁に私達の行く末を語った。

 

 

 

 

 

ランダマイザ

新しい占いを作ろうと思う。ここに記録<ログ>を残していく。

 

占いを作ろう。さあ、どうしたらいいだろう?

ランダマイザ(乱数生成機)があればよさそうだ。たとえば人は不鮮明な写真の背景に人の顔を見出す。無意味(ランダム)に意味を見出すのは人間の能力だ。これが占いを成立させている。

 

 

 

 

 

西廻り航路

サン・ファミーレ・ス教会(聖家族晩餐教会)で聖別されたフォッカを受け取った私は”啓示”に従い西へと進む。かつてのシルクロード行のように懐かしい。ポルトガル・フィニステレ(大地の終わり、という意味だ)の港からさらに西へと船をだした。

もちろん、20世紀の大西洋の端は滝になって落ちているということも、アトランティス大陸に到達することもなかった。私達は南米大陸の南、ホーン岬をまわり太平洋へとでた。

 

 

 

 

類感呪術

何をランダマイザに使うのがいいのか?

ジェームス・フレイザーが『金枝篇』の中で述べた類感呪術の要素があると良い。すなわち個人に由来するものを乱数のシードに使うということだ。適当に振ったサイコロを占いに使うよりも姓名判断、血液型占いなど本人由来(名前・血液型)の方が信じたくなるだろう?

 

 

 

 

 

嵐の訪れ

サモア諸島北沖でみた黒雲は半刻もしないうちに風と雷を運んできた。空はこの世の終わりのように暗くなり、バケツを引っくり返したような雨で自分の手元すら見えない。黒い壁のような波が甲板上の船員を飲み込んだ。

 

 

 

 

西洋占星術の魅力

類感呪術の占いの最高峰といえば、西洋占星術である。

西洋占星術のランダマイザは、天体の配置である。そのシード値は「生年月日」だ。占いに沿った説明をすれば人間の運勢は生まれた瞬間の星の配置で決まる。この説明は群を抜いて強力な類感呪術だと思う。天体の位置はそれぞれの公転周期の違いから複雑な配置を見せるという点も実にミステリアスで魅力的だ。

新しい占いは、占星術をベースに考えると決めた。

 

 

 

 

 

星の導き

私達は4隻の船団のうち3隻を失い、漂流していた。黒雲を抜けたあと船体に応急処置を施したものの、ほとんど操舵力を失っていた。計器類が機能せず、私達は紀元前の航海士たちと同じように、夜空に進むべき道を探した。

 

 

 

 

太陽星座と他の星座

占星術について少し学んだ。

占星術の基本は、生誕時の天体が地球から見て、黄道十二宮(十二星座)のどれに重なるかである。巷の十二星座占いの「おうし座生まれ」といった表現は誕生時に太陽がおうし座に重なっていたということである。

これは太陽に限らず、他の天体と黄道十二宮の重なりについて、論じることが可能だ。『西洋占星術』では太陽以外の天体についても占いに用いる。(テレビや雑誌の十二星座占いは太陽星座だけを抜き出した簡易版といえる)

 

 

 

 

 

到達

松の木が並ぶ砂浜。そこはマルコポーロがジパングと呼ぶ国だった。ジパンギ達が言うには私達がたどり着いたのは chiva の moto-yavata という土地のようだ。彼らは yavata-sama,  hachiman-sama と呼ばれる神を信仰している。

彼らに案内されて森を進む、視界がひらけたどり着いたそこには小さな祠があった。そこは紛れもなく探し求めた「サイゼ」であった。

 

 

 

 

テーマ・サイゼ

MakaipinsoaHK North Point 錦屏街 Kam Ping Street 薩莉亞 Saizeriya Restaurant shop sign Jan-2013CC BY-SA 3.0

そうだ「サイゼ」だ!

親しみやすく、10の天体、12星座に対応する、豊富な概念のあるものは「サイゼ」と「串カツ田中」だった。熱戦を繰り広げたが、ヨーロッパの風を感じさせてくれたことと歴史を感じさせることで、最終「サイゼ」に軍配が上がった。(サイゼは千葉の八幡に記念館として1号店が保存されているのだ)

 

 

 

 

 

祠には私と1人の案内人が入った。他の者は外で待っていた。
暗闇に目がなれてくると岩石自体の蓄光であろうか、緑色の光が見えてくる。航海者の私はこれが夜空の黄道十二宮の星座を模しているのだとわかった。

案内人は、この夜空は”メニュー”だという。

 

 

 

 

西洋占星術とサイゼ占いの対応

天体と星座のイメージをメニューと一致させる作業に取り掛かった。

天体

太陽 プチフォッカ
月 シナモンフォッカ
水星 ペコリーノ・ロマーノ
金星 エクストラヴァージンオリーブオイル
火星 やみつきスパイス
木星 ドリンクバー
土星 デカンタ
天王星 トッピング半熟卵
海王星 ミルクジェラート
冥王星 ライス

黄道十二宮

おひつじ リブステーキ
おうし ミラノ風ドリア
ふたご ティラミス・クラシコ
かに イカ墨入りスパゲティ
しし ポップコーンシュリンプ
おとめ エスカルゴのオーブン焼き
てんびん ランブルスコセッコ
さそり 柔らか青豆の温サラダ
いて 辛味チキン
やぎ グリルチキン&ハンバーグ
みずがめ プロシュート
うお アーリオ・オーリオ

あのメニューが入ってないやり直し!

とか言われるだろうか?自分の好きなメニューが入っててほしい。そう皆思うだろう。しかし、黄道十二宮や天体が占術者に与える印象(霊感といってもいいだろう)との一致を考慮した結果、泣く泣く外したメニューも多い。

特に、十二星座を四大元素(火・水・土・風)と3区分(行動・不動・柔軟)に割り振るインスピレーションが重なるようなと調整した場合、これ以外のメニューはないだろうと、思われた。

 

 

 

 

 

神秘文字

案内人が明かりをつけると、星空は消える。壁の割れ目のいたるところに巻物が収められていた。巻物には文字のようなものが書かれているが文章を成している様子はない。案内人の彼も読めないそうだ。

 

 

 

 

シンボル

占星術には天体を表す記号がありホロスコープで使う。(木星:♃ とか 土星: ♄とか)サイゼリアンチャート上でも、メニューを表す記号が必要で作成した。

・なんのメニューかわかるように
・占星術の記号っぽく見えるように

という2つを満たす苦心の後が見えると思う。
 気に入ってるのは「イカ墨入りスパゲティ」の記号だ。かわいくない?

 

 

 

 

 

螺旋階段

岩の裂け目をくぐると、床に開いた丸い穴から下へ続く螺旋階段があった。案内人は後ろに立ち促す。ここを降りろということのようだ。階段は金属製で手すりがついており、錆びてはいるがしっかりしていた。

階段は28段で1周し、降りるにつれて周囲の壁は階段から斜めに徐々に離れていき、円錐上の巨大な空間の中央を私は降りていることがわかった。

 

 

 

 

ブラックボックス

サイゼリアン・チャートをweb上で自動生成するプログラムを書く必要があった。

幸い、いくつかホロスコープを生成する占星術のサイトがあったし、天体は巨大だが等速で動く単純な時計くらいのものだとタカを括っていたのでそれほど心配していなかったのだが、実際には素人には手に負えない複雑怪奇な高度なカラクリだった。

なんとか形にしたものは、理解できないものが理解できないものを出力しているブラックボックスである。かろうじて他のサイトのホロスコープとサイゼリアンチャートの出力が一致するようにしただけだ。なんなのこれ?NASAのしごとじゃない?

終わりの見えない螺旋階段を降りるように、冥王星の楕円軌道の近似計算を20回も30回も繰り返している。

 

 

 

 

 

螺旋階段:深部

螺旋階段を20周分か30周分か降りたところで、案内人に声をかけた。四方の壁ははるか遠く、その声は反響すらせず薄暗がりに紛れて消えた。

この巨大な空間について、理解したことがある。ここはささやかな日常を動かしている背後の巨大な超常を担う場所だということだ。

もう一度、今度は振り返り案内人に声をかけた「戻ろう。」
案内人は頷き階段を登り始めた。螺旋階段はまだずっと下へと続いていることを一瞥して、私も登り始めた。

世界の深淵に触れたいという好奇心にかろうじて勝ったのは、ここでの知識体験を持ち帰りすべての人の日常をささやかながら豊かさにするという使命感だった。

サイゼの理念は日常の豊かさを食を通して提案するものだから。

 

 

 

https://www.saizeriya.co.jp/corporate/idea/