「今って火曜のお昼でしょう?」

無職の朝はコンビニから始まる。あと、15時くらいから始まる。

この日の予定はオモコロ編集部で打ち合わせ。

起きてから何も口にしていないので、ついでに弁当と飲み物だけ買っていこう。

 

・のり弁(2マス×3マス)

 

・お茶(1マス×3マス)

 

・ポテトチップス うすしお味(2マス×3マス)

さて、ポテチのある打ち合わせとポテチのない打ち合わせ、活発に進むのはどちらだろうか。

当然、前者である。

ポテチの油で語り口も滑らか。むしろ揚げた芋を会議室で食わない奴こそ「なってない」と言わざるをえない。

 

・クッキングパパ 147巻(2マス×2マス)

クッキングパパには、ビジネスマンのすべてが詰まっている。

147巻にメインで収録されているのは中国出張回。題して「長沙を調査(ちょうさをちょうさ)編」だ。

このサブタイトル、作中でお調子者の田中が上司に言い放ったダジャレをもとにしているのだが、こんなにも“ちょうど上司に受けるレベルのユーモア”を学べる漫画が他にあるだろうか。

これもまた打ち合わせに必要な教本であり、決して新刊コーナーを見て衝動買いしたわけではない。

 

 

さあ、これらをアイテム欄に貼り付けて移動しよう。

そう思った矢先、通りすがりのおばあちゃんに声をかけられた。

 

おばあちゃん「あら〜。お仕事に精が出るわねえ。お店のキャンペーンか何か? これは貰えるの?」

 

自分が「仕事に精を出す」という状況が現実とかけ離れていて、理解するのに数秒時間がかかった。

どうやら、僕を店員さんだと誤解しているらしい。店頭POPを作っていると思ったようだ。

 

僕「まぎらわしくてごめんなさい。コンビニとは関係ないんですよ」

おばあちゃん「あら? あなた店員さんじゃないの? じゃあ、こんなところで何を……」

 

不審に思われている。

そりゃそうだ。店員じゃないとしたら、店の前で工作してるお前は誰なんだ。

 

僕「えっと、この板はカバンの代わりで、お店で買ったものを貼り付けてるんです」

おばちゃん「なんでそんなことするの?

 

本当になんでだろう。

 

僕「あの、記事の撮影というか、えっと、インターネットの」

おばあちゃん「よくわからないけど、楽しそうでいいわねえ。お仕事は何をしているの?」

 

僕「あ、いや、一応これが仕事みたいなもので。原稿料とか貰いながら」

おばあちゃん「今って火曜のお昼でしょう? こんな時間に若い子とおしゃべりできるなんてうれし◎△$♪×¥●&%#?!」

 

僕「」

○ばア℃→ン「□◇$〜&#◆@☆$!!!!!!!!!??????」

 

 

 

うああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

 

逃げるようにコンビニを後にした。

空虚な気分とは裏腹に、気がつくとアイテム欄はいっぱいになっている。

なぜだろう。無駄な買い物なんてしていないのに。

 

泣きながらクッキングパパを開くと、娘とその友達に「肉巻き海老フライ」を振る舞う荒岩一味の姿があった。

肉巻き海老フライってなんだ。課長に出世したからって“アホの小学生が考えた贅沢”みたいなタンパク質の摂り方が許されるのか。

小さなころから憧れていた荒岩さんの背中が、無職になった今は遠い。

 

 

 

あと、弁当がめちゃくちゃ偏ってもう一度泣いた。

 

 

アイテムがいっぱいです 何か捨ててください

目的地に到着した。濡れた折りたたみ傘って扱いに困る。

しまう前に乾かさないと臭くなるから。

……ん? しまう?

 

 

やばい。傘のスペースを確保するのを忘れていた。

どうする。思い出せ……こんな時ゲームでは何をしていた……?

 

 

調合だ。

それしかない。ポテチをすり潰してふりかけにしよう。

 

 

 

 

・ポテチふりかけ<大> (3マス×1マス)

悲しすぎるビジュアル。「背に腹は変えられない」のイデアかよ。

だけど、なんとか傘をしまって建物に入れた。これから編集長と打ち合わせだ。

 

 

「今日、大事な話だからメモ取ったほうがいいかもよ。これあげるから」

 

・メモ帳(1マス×1マス)
・水性ペン (2マス×1マス)

メモ帳をもらった。とてもありがたい。ありがたいのに受け取れない。

アイテム欄の空きが不足しているから。

せっかくアドバイスしてもらったのに、メモを取らずに後から聞き返すような失礼はしたくない。

考えろ……。デキる男として取るべき行動を……!

 

 

 

 

 

 

   

こうして打ち合わせは滞り無く進み、残りのマスもメモで埋まった。

 

1日かけて真剣に厳選した「大事なもの」が、このアイテムメニューに具現化されている。

 

何かを得るということは、何かを諦めるということ。僕はその事実を認めたくなくて、手に入るあらゆるものをカバンに突っ込んでいた。

でも、それは間違いだったと気づいた。本当のかっこよさっていうのは、自分の目の届く範囲のものや人を大事にできることだったんだ。

この25マスが僕の大事にできるすべて。これ以上は何も望まない。

 

そして、もうひとつ気づいたことがある。

 

 

カバンって最高。

 

(おわり)

 

まな板にしたら便利でした。

 

 

(おしまい)