便利すぎ
7年前、大学に携帯電話販売の代理店が来ていて、そのお姉さんがキレイだった。栗山千明みたいなのが来てた。
なので本当はそんなにスマホにする気がなかったのにアイフォン4に乗り換え。
ガラケーで充分だったのになんて思いながらも、徐々に機能を覚えて操作に慣れていった。
そしていつしか、生活の中心はスマホになっていた。
朝はスマホのアラームで目を覚まし、ニュースと天気予報のアプリで情報をチェック。
乗り換えがわからなければスマホで調べて、退屈な電車はソシャゲに励んだ。
待ち合わせの空き時間もスマホで漫画を読んだりして、飲み会の会計もスマホの電卓とかを使ってた。そしてスマホを握りながら眠る。
あまりに便利すぎて、それが当たり前になっている。
いいんだろうか、それで。
一回離れてみよう。
もうスマホなんか持たないで、外に出てみよう。
明日から、スマホが無い暮らしをするんだ。
不便すぎ
ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
聞き慣れない無機質な音で目を覚ます。
そうだ、俺は今日スマホを使わないんだ。
ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
超うるせえ、音量が狂ってる。調整とか出来ない。
とりあえず音を止めようと試みるが、止め方がわからない。ボタン的なのがどこにあるのかわからない。ないの?
後ろの紐を引っこ抜いたら電池が吹き飛んでいって止まった。止め方がこれで合ってたのかはわからない。
止まったので朝食を摂る。
いつもはスマホのタイマーだがそのくらいは砂時計でなんとかなる。そう思っていた。1分も経って無いくらいで砂が全部落ちるから本当にパニックになった。
何度か時計を反転させ、柔らかい麺をすすった。
今日の予定は、池袋で記事の打ち合わせをして、その後に友人たちと飲みに行く事になっている。
スマホ無しで乗り切ってみせよう。
着替えて家を出た。いつものように。だけれど右のポケットに強い違和感を覚える。
軽い。
いつも必ずスマホが入っていた。ポケットに無いのが不安なので、カバンに入れた事もほとんどない。なので外にスマホを忘れたことは一度もない。だけれど今日は持ってすらない。
少し新鮮な感じで駅に着き、電車に乗った。乗り換えがよくわかんないから駅の看板とかめちゃくちゃ見た。
電車はものすっごく、すっごく、本ッッッ当に暇だった。いつもは動画観たりゲームしたりSNS見たり色々するのに、何も出来ない。乗客を見ると、ほとんどの人がスマホを操作している。
数年前はそんな光景が風刺画になり、スマホ中毒だなんて揶揄されていたのに、気づかぬ内にスマホを操作してない人の方がおかしい世界になっていたみたいだ。
ニュースは新聞を買えばなんとかなる。
それにしてもすごい大荷物だ。スマホの機能をリュックに詰めたらこうなった。とにかく重い。普段リュックなんか旅行の時しか使わないぞ。いつもはこれがポケットに収まっているんだ。
普段、僕たちは情報の選り好みをしている。
ニュースだって、「タバコ窃盗で17歳逮捕『値上げ前に盗んでおきたかった』と供述」などの、自分が気になるニュースしかクリックしない。盗むなら値上げ前も後も変わんねえだろ。
SNSは気になる人しかフォローしないし、不必要ならミュートも出来る。
新聞は違う、書いてあるニュースが全部入ってくる。全然興味無いニュースも否応なしに入ってくる。新聞の長所であり、短所でもある。
使える時間は変わらないのに、スマホから得られる情報はあまりに多すぎる。情報の取捨選択は当たり前だ。もしスマホだったら、「遠い国にスーパーが出来て規制かかるくらいに混雑した」ニュースなんか絶対クリックしなかったと思う。もしくはタイトルだけを見て、知った気になっていたと思う。
スーパーが出来たことでその土地の文化を変えたこと、冷蔵庫が無い国だから魚とか食べなかったけど、スーパーで冷蔵された魚が買えるから食生活が変わったこと。もし今日スマホを持っていたら、一生知らないままだっただろう。
新聞の良さも感じることは出来るが、読む時間を確保するのが難しい。だからこれからも僕は新聞を読むことは無いだろう。ニュースを少し見て、タイトルだけ見て、なんか知った気になるんだろう。
女性誌に載ってた「毎朝、新聞を読んでる人は年収が高い」みたいな謎のデータも今なら信用できる。時間の使い方が上手な人なんだ。
キツすぎ
池袋に着いたので打ち合わせの場所を確認する。地図だ。「東京全域MAP」って書いてあったんだけど全然知ってる駅が無くて1ページ目がまるまる埼玉だった。
スマホ無しで過ごすって言ったらこの地図貰ったんだけど別にスマホを失ってもこのタイプの地図は使わないだろ。
なんとか現在地を見つけることが出来た。2分もかかった。GoogleMapなら2秒で青い現在地アイコンが出るのに。真っすぐ歩いても斜めに歩いていることにされるあれが出るのに。
目立つビルの近くにある場所が打ち合わせ場所だったのでなんとかたどり着けた。時間ギリギリになったが「遅れます!」みたいな連絡が出来ないのですごく急いだ。不便だ。携帯が無い時代ってみんな待ち合わせとかどうしてたんだ。
写真はデジカメで撮ることが出来る。いつもはスマホに同期していて本体に保存はしていない。4枚くらいでメモリーがいっぱいになった。SDにカード無いと4枚が限度だったんだ、知らなかった。
打ち合わせを終えてスケジュールを確認したかったのだが、支給されたのが何故か曜日とか書いてないカレンダーだったので全くわからなかった。絶対31日まであるしなにこのカレンダー? でけえし。1,3,5,7,8,10,12月限定?
普段Twitterばっかり見てるので、それが無いのはキツすぎる。
なのでTwitterを用意した。みんなが思ったことを好きにつぶやけるサービス、Twitter。そのへんの人のつぶやきを聞けば一緒だろう。
公園ではみんなが好きに喋っている。リプライだ。ひとりで呟く人はいないから(たまにいるけどそれはヤバい人だから)僕は常に誰かから誰かへのリプライを聞いていた。
書いたものを見てみるとめちゃくちゃだった。ドラマの歌広ってなんだ。これがタイムラインだったら地獄だ。全然楽しくない。Twitterってみんな好き放題勝手に呟いてるもんだと思ってたけど人に見られる前提で組み立ててるんだな。
暇すぎ
この公園でちゃんと友人と合流することに成功した。
連絡が取れない待ち合わせはわかりやすくて人が少ないところにしないといけない。なんか普通に10分くらい遅刻されたけどすっげえ不安になった。一生会えないんじゃないかと思った。花より男子で道明寺が雨の中何時間も待ち続けてたけど本当に不安だったと思う。よく待ったなあんな雨の中。
待ち時間はゲームをして時間を潰した。
気分が沈んだ時には弓矢で鳥を撃つアプリをやるので、それをやってた。
ちょっとだけ楽しかった。
ちなみにホワイトボードと弓矢の組み合わせは優秀で、アイデア次第でどんなゲームでも出来る。
2人用のゲームも考えたので、友人に合流してすぐにこれを渡した。
怯えきっていた。
公園には将棋をしている人たちがいた。スマホが無いのかもしれない。同志を見つけた気になって嬉しかった。
居酒屋に移動をした。画像は急にフリー素材にしたからギラッギラになった。
話も盛り上がり、スマホなんていらない楽しい時間。
ただ、3時間もいたのでどうしても中だるみというか、エアポケット的な時間がある。
そんな時はたいてい、スマホをいじるものだ。
2人がスマホしてる間、僕は得意のスパイダソリティアで乗り切った。弓矢のゲームは室内だとやり辛かった。スマホならどんな場所でも好きに遊べるのに。
終電間際に解散し、途中まで話しながら歩いた。
1人別方向の電車に乗り、あまりのすることの無さにビックリした。
終電はそこそこに混んでいて、ただ何もせず立ってる時間のどれだけ苦痛なことか。
片手吊り革、片手自由なので痴漢冤罪のリスクまで増す。不便どころの騒ぎではない。
おわり
1日ぶりに操作する通知まみれのスマートフォンは最高に楽しかった。
スマホの無い1日は本当に長く、苦しかった。そう思う私は依存症なのだろう。
普段から本を一切読まないので、いつも電車などの空白の時間を埋めてくれるのはスマートフォンだった。急にそれがなくなると何をしていいのかわからない。「目の前の人は未婚か既婚か当てゲーム」みたいなのを脳内でやるのがいっぱいだった。3人目くらいで飽きた。正解もないし。
もしこれからもスマホから離れれば、本を読むようになるのかもしれないなって思った。
もはや当たり前になっていた行動も、スマホ有りきだった。
スマホを忘れたり、壊したりして1日使えなかった人もきっととても不便で退屈な思いをしただろう。
紹介できなかったものもあるが、使っているアプリを全部実物にしたらリュックがパンパンになるくらい重かった。(クモの巣(ウェブ)、ブラジャー、ウザい人の絵を足して「ウェブブラウザー」ってのを考えたんですがやめました。今年1で正しい判断だった)
自分がどれだけスマホ中心で、どれだけスマホに甘えていたのか。
1日断ってみるだけで色んな事に気が付くことが出来た。
そして、何より最大の気付きをもって、この記事を終わらせていただきたく思う。
(おわり)
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