身長、欲しいよな。あればいいってものではないけど、ないよりある方がいいよな。身長。みんなもそう思うよな。俺(ナ月です)もそう思う。だったら俺たちの想いは一つだ。

 身長、伸ばそうぜ。だって俺たちにはこれがあるじゃないか。

 

『姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會)』がな!!!

 

 これは昭和二年に発行された本で、当時の陸軍の軍医が書いたものだ。

 タイトル通り、身長の伸ばし方が書かれている。これさえあれば身長もノビノビというわけだ。そうに違いない。(以下、本書から文を引用する時は令和人にも読みやすい様に仮名遣をちょっと変えます)

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

「體育國基」

 表紙をめくるなりマッチョお習字を見せられるのでビビってしまう。「體」は体って意味だぞ。

 

マッチョポエムと国を憂うマッチョ

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 緒言。

「世の中に何が大事といっても、自分の身体ほど大事なものはない、すべての事をするのに、先立つものはわが身体で、身体が一番の本である。」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P1より

 ツイッターで筋肉信仰をしている人みたいな書き出しだがこれは戦前の本だ。この後に続く文もかなりポエミーで読み応えがある。身長をの伸ばす前に読んでみるのも悪くないだろう。

「蛍の光、雪の窓、いく年月を重ねて学問をしても、又は粒々辛苦して金を積んでも、自分の身体が虚弱であっては、壊れた船へ荷物を積みこむ様なものである、(略)人の羨む富貴名誉も我が身体が健在して始めてその価値がある、(略)」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P1より

 なんてマッチョなポエムだ。さらにマッチョ論は続く。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

「男としては背高く姿勢良く風采が立派であると、自然に人より尊敬を受け身の貫禄備わりて立身出世の資格ともなるが、身体が短小で見すぼらしいと、誰が見ても男としての貫目が乏しい様であるから、人から見下げられ軽蔑せられ一生の間何につけても大なる損を見なければならぬ、

- 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P2より

 あんまりだ。念のため断っておくと戦前の本だ、思想がこの令和の世の中とはかなり違うということは念頭において読み進めて欲しい。それにこの本は「身長を伸ばすための本」だ。

「しかしながら、文化の力が自然を征服しつつある現代にあっては、先天的に背低く身体の格好わるく生まれても、短小虚弱に生まれついていても、決して悲観することはないのであります。」

- 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P2より

「文化の力が自然を征服しつつある現代にあっては」ってすげえな。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 目次。第1章から『體格の改造に目覚めよ』と強烈な題がつけられている。はい、目覚めます。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 これは当時の各国の兵士の平均身長を比較した後の文。

「いずれの国よりも、我が日本兵士の平均身長が最も低く劣等であって、しかもその差が甚だしいではありませんか、(略)最も肝心なる国民の体格がこの通りの有様であることは、実に嘆かわしきことであるのみならず、等閑に見ることの出来ない大問題であると思います。

― 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P5より

 何もそこまで嘆かなくても、と思ってしまうのは現代の思想だろう。だって、この人こんなに真面目に嘆いてるし。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 身長の伸ばし方はまだだ。日本人の体型を嘆く話はついに進化論まで流れ着く。

「この進化という言葉は、大科學者ダアヰンという人が生物の歴史を研究して、(略)すべての生物が進化の長き道中を経て現在の個体に達したものであることは、最早一点の疑を容れない。

- 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P25より

 大科學者ダアヰン、かっこいい……使いたい……。

 

身長ノビノビ体操実例

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 日本人身長の低さを嘆くこと48ページ、ようやく身長の伸ばし方実例の紹介だ。待たせたな!!

 手始めに当時フランスで流行していた(と書いてある)ニルソン式身長運動というのが紹介されている。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

まず、こうだ。

 

 もう無理、足に手が届いてない。でもなんだか普段伸ばしていないところが伸びる感覚はある。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 次にこうだ。

 

 これあれだな、水魚のポーズだな……ゲームセンターあらしで見たぞ……

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

 のけぞりながら首をグイーーーーーー

 

 気が狂って自分の首を絞めている人にしか見えないかもしれないが、俺は身長を伸ばしたいだけなんだ。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 これは……なんだろう、何?

 

 伸びてるか? これで俺の身長伸びてるのか? 本当に? 信じるからな!!

 

身長ノビノビマシン

 他にも様々な身長伸ばし運動がイラスト付きで掲載されている。しかし本音をいえば、もっと手軽に身長を伸ばしたい。できれば地面を這い回ったりしたくない。

 本書はそんなニーズにも答えている。例えばこれだ。

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

 身長伸ばし器!!!!

 

 これさえ使えば簡単に姿勢が良くなり身長が伸びる。ということらしい。どういう理屈なのか詳しく読んで見たが「見ればわかるだろ、それより勝手にマネすんなよ! 特許取ってんだからな!」というようなことばかりが書いてあった。見ても全然わからん。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 これもなんだかよくわからない機械。身長が伸びる。らしい。

 

他にも役立つ情報色々

 さらに本書は身長の伸ばし方以外にも健康に役立つあらゆることが書かれている。

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 例えばこの「肥える法」だ。この令和の時代に「太りてえ~!」という人はあまりいないかもしれないが覗いてみよう。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

「満腹主義がよろしい。食事は毎回、幾杯と定めて置く必要なない、自分の好きなものを、口と腹とが欲しいだけ食べること」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P99より

 なんて幸せな文だろう。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 当然「痩せる法」も紹介されている。これは気になる読者の方も多いのではないだろうか。

「血液も肉も人体で貴重大切なものであるけれども、これが多すぎても困る。

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會)  P102より

 全くだ。

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

「睡眠=はなるべく少なくし、昼寝などは決してしない様にする

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 そんな……

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

「精神=は常に働かせて安閑として居ないこと」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P104より

 

 そりゃ痩せるかもしれないけどよ。

 

心身の発育と性欲の関係

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 そんなところまでカバーしているとはさすが姿勢矯正身長増加健康法だぜ。

 

「性欲のために能力の発達を害し肉体の発育を妨げ、あまつさえ一生の方向を誤るにいたる青年の多いのは実に嘆かわしいことである

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P128より

「青年の最も戒慎すべきは不自然な自瀆行為である」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P128より

 

 自瀆行為とは要するに自慰のことだが安心しろ!! 今は令和だ!! いくら自瀆行為をしても問題ないと研究結果が出ている!! 令和に生きててよかったな!!

 とはいえ、当時の人間も性欲くらいあったはずだ。ではどうしていたのか。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

「朝目覚めたらば寸刻の余裕もなく床を離れ、刺激興奮性の食物を避け、情欲を挑発するような談話や読み物を避け、耳目を他の方面に転じ、高尚なる意志を持って劣情を打ち消すべきである。

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P130より

 もう方法とかじゃないじゃん、それ。「べきである」って言っちゃってるし。

 

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) より

 

「性欲を禁過すると身体にがいがあるという学説がある」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P130より

 そうだ言ってやれ。

「高尚なる意志を持って劣情を打ち消すようにすれば、性欲を抑制することも容易であり、また決して害はないのである、」

ー 姿勢矯正身長増加健康法(東京野村商會) P130より

 無茶苦茶だ……。

 

 

 以上、『姿勢矯正身長増加健康法』の紹介だった。きっとみんな学んだことを試したくて仕方がないはずだ。

 だが今は令和の時代だ。身長についても健康についても絶対にもっと良い研究がなされているはずだ。落ち着け。これは戦前の本だぞ。

 今出てる本を読め。走って本屋に行け。

 

 

 

 付録:地面でインフィニティを描き続ける俺。