まず、異性にモテたいとする。異性にモテたいとして話を聞いてくれ。モテとは要するに他人によく見られる技術なので、すでにパートナーがいる方も無関係ではない。興味ないぜというような顔をしているお前もモテないよりはモテる方が良いはずだ。ではこれを見てくれ。
創文社『怪奇雑誌』涼風號だ。戦後、出版の自由化を機にドサドサと発行された大衆向け娯楽雑誌、いわゆるカストリ雑誌というやつの一つだ。古本屋で手に入れた。
さすがは怪奇雑誌。「旦那様や★奥様や★恋人の 嬉しい性愛技巧特集」という怪しげな特集が組まれている。(以下、一部旧字体などは新字体に直して表記するぞ)
奥付を見ると発行は昭和24年9月1日。ウィキペディアで調べるとサザエさんの連載が開始された年だという。学術出版社の創文社が設立されたのはこの二年後なので、本書の出版元は多分関係ない同名の会社だろう。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P1より)
表紙を開くなりこれなので面食らってしまう。一応ちょっとエッチなのでモザイク処理してあるが、気になる方のために教えるとモザイクの下にはおっぱいがある。
巻頭カラーは「山を走る裸女」というタイトルのポルノ小説。あらすじはこうだ。
矢口(男)が山中で休んでいると全裸の女が飛び出してきた。矢口が呼びかけると女は逃げてしまった。
矢口は下宿先でこのことを話すと、下宿先の主人は「それは小学一年の頃逃げ出した娘に違いない」という。
矢口は恋人に「そいつを捕まえて普通の女に仕立ててやりたい」と話す。なんやかんやで捕獲。
少しずつ普通の人間の生活を学習していく女。
だがある日矢口が恋人とイチャついていると女が全裸で現れて矢口の恋人を平手で張り倒し、矢口を小脇に抱えて山の中へ連れ去ってしまう。
翌朝、顔面蒼白となった矢口が一人で帰ってきたが、彼はただ震えて何が起こったかを話そうとはしなかった。
全裸の女は出てくるものの、もしかしたらポルノ小説ではないのかもしれない。怪奇雑誌だしな。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P9より)
目次だ。「好色淫魔 河から拾った裸女」「怪奇妖女 睾丸を食べる女」など強すぎる言葉が並んでいて目眩がする。最高。しかし今回紹介したいのはモンスター娘ではなく「性愛講座」の項目。これらをマスターすればモテるに違いない。そういうことだ。
※以下、当時の時世を反映した現代的には不適切な表現や古臭すぎる男女感が雪崩のように出てくるので、ご理解の上お楽しみください。
醜男でも女に惚れられる法
なんてド直球なタイトルなんだ。もうちょっと何か言い方なかったのかとも言いたくなるが、これくらいストレートな方がきっとモテるのだろう。早速見ていこう。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P34より)
こんなカッコいい書き出しがあるか。俺もこんな文が書きてえ。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P34より)
「何か深い芸術的教養をお持ちになっているように感じますが」とか言っておけば、万々間違いない。
本当か? それで行けるか?
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P35より)
言葉遣いには気をつけましょうという話だ。「僕はけちょんけちょんになっちゃった」もダメなのか。他はともかく「僕はけちょんけちょんになっちゃった」はよくない? ダメ?
朝から夜まで良人を満足させる愛情技巧
続いて良人(夫)をもつ妻のためのテクニック集だ。当然夫婦でなくとも応用できるはずだ。多分。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P36より)
ふんふんなるほどなと読んでいたら「編集者の希望である。」だよ、そうなのかもしれないけどよ。では見ていこう。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P36より)
たまの日曜日位は思い切って、横暴な奥様に顎で使われて見たいものである。
そんなレジャーみたいな感じなんだ。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P36より)
一行目でドキッとしてしまった。これはこの令和の世の中でもそうかもしれないな。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P37より)
これは良い。絶対良い。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P37より)
これは幼児的というか、確かに言い方は幼児的かもしれないけど、なんか、なんだろう。
夜から朝まで妻を満足させる性愛技巧
次は逆だ、妻をもつ夫のためのテクニック集だな。夜から朝までと書いてあるようにちょっとエッチなやつだ(言うほどエッチではないのでご安心ください)。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P38より)
本書はどのコラムも書き出しがマジでカッコいい。真似したい。早速見ていこう。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P39より)
夫婦の性生活についてここまで危機感を煽る文を書くことができるだろうか。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P39より)
寝室だけは世の荒波を逃避したこの世の楽園にしなければならない。
素晴らしい文だ。夫婦でなくとも、一人暮らしでもそうありたい。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P39より)
寝室にはいってから、いろいろ生計に関することを話す位、意味のないことはない。
掛け軸に書いて寝室に飾っておきたい言葉だ。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P39より)
寝室の話ばかりだがそれでも本当に良いことが書いてある。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P40より)
急にちょっと本格的にエッチな話になってきた。
女性の体には性的な急所が四十八個所あるとさえ言われている。この全部を知ることは、これこそ男子の一生を費やしても惜しくない大事業である。
そこまでか……いや、知りたい。
色男心得帖
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P46より)
色男。一生に一度言われてみたい言葉ランキング10位以内には入っている言葉だ。その心得とあらば是非知りたい。(一生に一度言われてみたい言葉ランキング1位は仲間のピンチを颯爽と救った時の「遅かったじゃねぇか!」)
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P46より)
色男に金と力があったらその資格がない
希望が見えてきた。俺には色男の資格があるぞ。ないもん、金も力も。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P46より)
健康は大事だよな。健康に気を使えよという話かと思えば「衰えたら薬を使え」と言う話だった。
ヒロポンは中毒の可能性が大きいからなるべくなら用いないがよろしい
大らかな時代だ。令和人のみんなは絶対使うなよ。
色女心得帖
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P47より)
色男の心得があるのだから当然色女の心得も載っている。ちょっとイラストがエッチだったので念のためモザイクをかけた。ねんのためです。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P47より)
いやいやをしながら一旦応じたら舌も千切れよと吸いついてやるこういうキッスが一番彼氏にはこたえる。
色女、凄すぎるぜ。
その他のこともみなこの要領でやれば間違いない。
という一文の頼もしさもすごい。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P47より)
程よく抓る(つねる)こと。
男というものは、好きな女にちょくちょくつねられると、痛いから寄せよなどと言いながらもえへらえへらと喜ぶものである。
みんなはどう思う。俺は、そうだと思う。
ここまで様々な戦後モテテクニックを見てきたが、きっと違和感を感じていることだろう。
そうだ、この雑誌の誌名よ。『怪奇雑誌』なんだよ。もっとムーみたいなやつにつけるタイトルだろ。その点に関しての編集者の言葉を見てみよう。
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P52より)
第一の怪奇が人間の性生活、これが又何とも言えず怪奇ですな。何を信じて良いかわからない世の中でもこの怪奇ばかりは本ものらしいですよ。
最高。
戦後のモテ技術。意外と現代でも通用する話が多かったのではないだろうか(絶対やめたほうがいいのもあったけど)。俺も明日から早速
「何か深い芸術的教養をお持ちになっているように感じますが」
を連発していきたい。
余談
(創文社『怪奇雑誌(涼風號)』P43より)
コンドームの広告がめっちゃ良かった。「産児制限用具」って言い方も良いし「使い心地よくしかも絶対安全な」と言い切っているのも良い。商品名も良い。「フランス土産」ってなんだよ。