お付き合いください。

 

 古書市でこんな本を手に入れた。

 なんか、ボロい本。左上に何か書名が貼ってあったのだと思う。ページが紐で束ねられている。和綴じってやつだ。かっこいい。

 裏表紙。多分所有者の名前らしきものが書いてある。「仲」だけは読めるな。仲間由紀恵かな。

開くとこう。『修訂 小學讀本 尋常科 巻四』これは明治時代の教科書だ。明治三十四年と書いてある。西暦だと1901年。歴史すぎてピンとこない。与謝野晶子とかがバリバリ活動していた頃。「読書」という科目の教科書だと思う。当時は今でいう国語が読書と作文と習字に分かれていたっぽい。多分。調べたらそんなことが書いてあった。
 尋常科とか尋常小學校って何よと思って調べてみたら、この頃は今と義務教育の制度がだいぶ違って、現在の小1~4までが「尋常小学校」というのに通っていたらしい。その後に高等小学校というのがあるけど義務教育は尋常小学校まで。(このあたりコロコロ制度が変わる。詳しくはwikipediaとかを見てね)
 尋常って言葉、「尋常じゃない」みたいな使い方しかしたことなかったな。普通に使ってたんだ。
 巻四ってことは四年生向けか。多分。違うかも。

 目次。項目が「第一課」「第二課」なのがかっこいい。「神功皇后」から始まって「明治の御代」で終わるのもかっこいいな。「食物」とか「雪なげ」も気になる。

第四課 植木


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 五より(現在の書籍とページ番号の振り方が違うから目次のページ数に合わせるね!!)

 中を見てみよう。「第四課 植木」だ。

此の子どもは木を植ゑてあそべり 今は木を植うるによき時なり

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 五より

「この」が「此の」なのがキュンキュンくる。木を植える遊びってなんだよと思ったけどこういう文だと「遊ぶ」という言葉の意味が広いんだった。「あそべり」に横線が引いてあるのもその辺の勉強だったのかもしれない。
 いや、マジで木を植えるって遊びだったのかも。木を植えるの楽しそうだしな……。

 それにしても表紙の状態に比べて中の保存状態がめちゃめちゃ良いな。あんまり読んでなかったのか、めちゃめちゃ丁寧に扱っていたのか。おかげで今俺が読めているのでありがたい。

第五課 果物


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 六より

人のこのみてくふ果物はなしかきぶどーのたぐひなり

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 六より

「梨、柿、ぶどうの類いなり」なんてキュンキュンくる書き出しだ。これは現代人の俺が読んでいるからこう思うというだけの話だが、めちゃめちゃ難しそうな表現で可愛いことが書いてあるとギャップでキュンキュンくる。「實」ってなんだと思ったら「実」の旧字体だった。
 柿もブドウも「あぢはひ(味わい) 甘し」で締められてるのが良い。わかるよ明治の人、果物って甘いよね。

第七課 食物


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 八より

 目次で気になってたやつ。麥って何と思ったら「麦」の旧字体だった。この課も現代人には難しい言い回して内容が可愛くて良い。当時の食事情の言い切りっぷりが面白い。

けものの肉は牛の肉を第一とす。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 八より

 第一とす。消費量の話だろう、多分。日本人が牛肉をバリバリムシャムシャ食べ始めたのって明治あたりからだったはずなので、明治三十四年ともなれば「けものの肉と言えば牛の肉を第一としてるよね〜」となっていたのだろう。
 そのあともかなり良いな。

食物は人の口よりのどをとほり、いぶくろに入りてこなる。いぶくろは又いといふ。食物に心をつけざればいの病をおこす。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 八より

「食物に心をつけざればいの病をおこす」現代語だと「食べ物に気をつけなければ胃の病気になる」みたいな感じだろう。わかる。なるよな。
 日本語で「心をつける」がいつ「気をつける」になったのか気になるな。

第八課 楠正成


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 九より

 歴史にめちゃめちゃ疎いんですけど楠木正成って楠木って書いたり楠って書いたりするんですか。
 本文がめちゃめちゃ良い。

楠正成はちえすぐれ、ちゅーぎあつき人なり。

(中略)

わるものども大軍にて正成の城をかこみたれども、正成少しも困らず、あるときは大木大石を落としててきの大ぜいをうちころし、又ある時はにえゆをかけててきをくるしめたり。

(中略)

つひにわるものをほろぼしたり。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 九より

「わるもの」って言葉選びがたまらないぜ……。(尋常)小学生向けの柔らかい表現でだいぶバイオレンスなこと書いてるのが良い。
 そういえば現代でも歴史の先生ってバイオレンスな内容になるとテンション上がってた気がする。

第十八課 雪なげ


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 十九より

 これも目次で気になっていたやつ。要するに雪合戦だ。書き出しが最高。

見よ。此の子どもは雪なげをせり。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 十九より

 日本語で子供が雪合戦をしていることを伝えるだけの文が書かれた時代だけでここまで印象違うとすごいな。

玉がてきにあたりてくだくる時は、ちょーど軍にて大ほーの玉がはれつせし時のごとし。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 十九より

「雪玉が人に当たって砕ける時ってちょうど大砲の玉が破裂する時っぽいですよね」めちゃめちゃ明治例えだ。令和人が絶対やらない例えで興奮する。


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 十九より

 大砲のような雪玉直撃ボーイ、良い。

第二十課 桃太郎


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十一より

 お馴染み桃太郎だ。内容は我々が知っている桃太郎なのだが、かなり印象が違う。

昔々ぢゝいとばゝあとありけり。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十一より

 もう書き出しから明治を突きつけてくる。小学生むけの教科書でジジイとババアって書いていいんだ。


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十二より

道にて犬さるきじ出で來り、「桃太郎どの桃太郎どの、どこへござる。」「おにが嶋征伐に。」「おこしの物は何でござる。」「日本一のきび團子。」「一つ下されお供しませう。」

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十二より

 会話、キレッキレでかっこいい。そして締めがすごい。

これは昔話なれど日本男兒はたれも桃太郎がごとく、とほき嶋までもおしわたるゆーきを持つべし。

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十二より

 俺は軟弱な平成生まれなので桃太郎の話から何を学べというんだよと思っていたけど、明治の正解はこれだ。

第二十一課 もりうた


金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十三より

 全文良すぎるけど最後の子守唄がストロングすぎて声に出して読みたくなる。(引用でくの字点を横書きで入力するのがダルいので普通に書きます)

ねよねよ三吉 ねむれよねむれ
乳のめ乳のめ 泣くなよ泣くな

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十三より

 この段階では子育ての苦労って今も昔も変わらないんだな〜と思えるけど、この先急に明治になる。

泣くなよ三吉 泣く子はよわい
昔の勇士は だれでも泣かぬ

金港堂書籍株式會社 修訂 小學讀本 尋常科 巻四 二十三より

 すごい。時代すぎる。大人が赤子をあやしてる時にも歌っていたんだろうけど、それを真似して人形遊びで女の子がこれ歌ってるのがすごい。軟弱な平成人には刺激が強すぎるぜ。

明治すごい

 明治時代の多分十歳くらいが読んでた教科書。平成生まれの大人が読んでも十分面白いし勉強になった。現代の国語の教科書と比べても面白そう。

 みんなも古書店を漁ってみてね。