Amazonを見ていたらこんなものを発見した。
人工皮膚。なんだこれ。
説明を読むと、医療実習で注射の練習をするために使うらしい。なるほど。ぶっつけ本番で針を刺されても困るし、最初はこういうもので腕を慣らしていたのか。美容師がマネキンの髪を切る、みたいなことだろう。
買ってしまった。1500円。
横から見ると、皮膚・脂肪・筋肉の三層が再現されている。
触ってみる。やわらかく、ぷにぷにしている。あまり人の皮膚っぽくはない。
しかし、埋め込まれている血管の部分を触ると怖いくらいのリアリティを感じた。皮膚の奥に管が通っているのを確かめる感覚。これ、手首の内側を触ってるときのアレだ。
だが使いみちがない。
「手に直接メモするやつ」を代わりにやってくれる存在として導入するのはどうかと思ったが、それならメモ帳のほうが早い。
用途が浮かばないまま、なんとなく空いたほうの手で触りつつ仕事をしたりしてみた。手持ち無沙汰なときに撫でると気持ちが落ち着く。
そのうち、だんだんと情が湧いてきた。
そうだ。皮膚をペットにしよう。
私はこの皮膚に「絢香」と名付け、飼うことにした。
……もう朝か。
体に重みを感じる。
目を開けると、そこには見慣れた真皮層。
「おはよう、絢香」
うちの皮膚は朝になるとこうやってごはんをねだるのだ。
食後は日がな一日外を眺めて過ごす皮膚。
いいなあ、平和で。
私も皮膚になりたい。
そんな思いを抱えながら職場へ向かう。
ふう、今日も疲れたな。
少し遅くなってしまったが、絢香は寂しがっていないだろうか。
「ただいまー」
無言で皮膚を押し付けて甘えてくる絢香。
よしよし、ご飯にするからな。
ご飯を食べたら元気いっぱい。
単純な奴め。
……だけど、こんな日々はいつまでも続かなかった。
……絢香?
絢香、どこだ?
どこを探しても、絢香が見つからない。
どこに行ったんだ……?
おーい、絢香!