■上と下■
「天は人の上に人をつくらず。人の下に人をつくらず。」
なんていう言葉があるが、それは嘘だと俺は思う。
人間は必ず「上の人間」と「下の人間」とに別れるはずだ。そして俺は「上の人間」だ。
なぜ俺が「上の人間」なのかというと、俺はオセロが強いからだ。
オセロが強いということは、人間として優秀であることの何よりの証明になるだろう。
俺は勉強も仕事も全くできないし、運動神経もゼロに近いが、オセロだけは滅茶苦茶強い。
現在までの勝率は30パーセントを軽く越えている。つまり俺は、「上の人間」なのだ。
そんなことを話していた。
「だから俺は上の人間、オマエは下の人間なんだよ」
俺はそいつにそう言った。午前2時、自宅にて。
すると「下の人間」であるところのそいつは生意気にも口答えをした。
「100歩譲って、オセロが強い人間が「上の人間」だとして、
仮にそうだとして、本当にあんたはオセロがそんなに強いのか。」とかなんとか。
俺のオセロの腕を疑っているようだった。馬鹿なやつだ。
それこそ「下の人間」の考えそうな、愚かな考えだぜ。
でもまあ、それなら俺のオセロの強さを分からせてやればいいだけだ。
俺は立ち上がり
「だったら・・・」
そう言いながら着ていたTシャツを脱ぎ、上半身裸になったのちに
脱いだTシャツをもう一度着て、そして言った。
「だったら見せてやるよ!俺のオセロの腕をな!」
■オセロ盤をつくる■
そんな感じで、俺とそいつは、オセロで勝負をつけることになった。
どちらが上の人間で、どちらが下の人間であるのかを、ハッキリさせる必要があったのだ。
だが困ったことに俺の家にはオセロがない。
深夜だし、どっかで買ってくることもできない。
どうしよう。そうだ。牡蠣があるじゃないか。
俺の家にはオセロはないが、牡蠣はあるじゃないか。
そのことに気付いた俺は、牡蠣を駒に、ダンボールを盤面にしてオセロをすることにした。
まずはダンボールで盤面を用意。
ダンボールにマジックでラインを書き、8×8の升目をつくる。
駒に使うのはモチロン牡蠣。
勝負開始!
■勝負開始
先行は俺。
ビニール製のパックから駒(牡蠣)を取り出し、盤の上に置いて…
駒(牡蠣)と駒(牡蠣)の間に挟まれた駒(牡蠣)を裏返す。
べちゃり。盤の上に飛沫が散るのと同時に、生臭い匂いが漂う。盛りあがってきたぜ。
続いて相手の番。
盤の上に駒(牡蠣)を置き、駒(牡蠣)と駒(牡蠣)の間に挟まれた駒(牡蠣)を裏返す。
俺の番。
相手の番。
やや俺の方が劣勢か。
俺の番。
相手の番。
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????
どっちが黒で、どっちが白なのかわからなくなった。
■仲直り
結局、牡蠣オセロは勝負半ばで中断された。
どちらが白で、どちらが黒だかわからなくなった為だ。
俺達は牡蠣でべちょべちょになったダンボールの盤を眺め、しばらく呆けて、それから互いの生臭くなった指先の匂いを嗅いで、そして笑い合った。
どちらの方がオセロが強いだとか、どちらの方が上の人間だとか、
そんなことはもう、どうでもよかった。
俺達はどっちも優秀な「上の人間」だ。
そんなことより、腹が減った。ゴハンでも食べよう。