A 地点から B 地点へ向かう途中に C という町があって、その町に D という男がいる。
D は、E という妹と、F という犬と一緒に、アパート G に住んでいる。
その D の顔には、H、I、J、の3つのニキビと、ニキビ痕 K、L、があって、ニキビ J と ニキビ痕 K との間には、ホクロ M がある。
また、D の妹 E の顔には、火傷痕 N と、染み O 、P、 Q があり、犬 F の顔には
ハエ R がとまっている。
E の顔の火傷痕 N は、E がまだ幼児だった頃に、D が誤って熱湯 S を浴びせてしまったせいでできた火傷 T が、その後時間を経ても治らず、火傷痕 N になったものである。
D はこの時のことを今でも悔いており、折に触れては自責の念に苛まれる。
E は火傷痕 N のことなんて全然気にしてないと言って、兄 D を慰めるが、慰められれば慰められる程、D の表情は暗くなり、陰鬱な空気が彼らの部屋を漂うのだった。
さて、今からこの、2人の兄妹と1匹の犬が暮らす部屋に、フルーツ U を送ってみようと思う。フルーツ U は兄妹の大好きな果実である。
ついさっきまで D は、台所で手際良く夕食の支度をする妹 E のうしろ姿を、居間の方から何となしに眺めていた。その時にふと、年頃の E が、彼氏とかじゃなく、しみったれたこの兄のために、ああして白菜を刻まなければならないのは、俺があの時、熱湯 S を E に浴びせ、彼女を傷物にしてしまったからにほかならない、と考えてしまい例のごとく暗い気持ちになっていた。
「お兄ちゃん、ご飯できたよ。運ぶの手伝って。」
台所から戻った妹 E が居間に顔を出すと、D が青白い顔をして呟いている。
「俺のせいだ、俺のせいだ、俺のせいだ…。」
すぐに何事かを察した勘の良い E は
「お兄ちゃん、気にしないで。わたしに彼氏ができないのは、火傷痕 N のせいじゃなくて、染み O、P、Q のせいなんだから。」
D の背中に手を置いて優しく言う。
だが優しくされればされるほど、さらに D が自分を責める気持ちは強くなるばかりで手の施しようがない。彼らの部屋を陰鬱な空気が包もうとしている。
その時、玄関のチャイムが鳴る。
D は肩を落としたまま反応しようとしないので、E が居間をたって玄関の扉を開ける。扉を開けると、小包 V を手にした配達員 W が立っている。E は、伝票に判を押し荷を受け取り、D のいる居間に戻ってくる。それから、なんだろうねー、と言いながら包みを開ける。
中に入っているのは、当然、わたしが送ったフルーツ U である。
「お兄ちゃん!見てこれ!」
問題は、このあとである。
夕食のあと、E が切り分けて皿に盛ったフルーツ U を、D がフォークの先に刺して口に運ぶ。D の口の中に、甘み X と、酸味 Y がひろがる。E は D の顔を覗き込み「おいしい?」と聞く。すると、それまでずっと暗い顔をして黙っていた D がようやく口を開く。「うん…。美味い。」そして E の方を見て少しはにかむように微笑む。
その瞬間の、和み。あるいは幸福の兆し、というべきものか。何と呼ぶのが妥当かはわからないが、そのとき、彼らの部屋の空気を微妙に変える、何ものかが訪れる。
もしそのかすかな、気配 Z を察知して、ハエ R が犬 F の顔から飛び立った場合、
その場合、われわれのチームに1点が入るのだ。
なぜなら、それが、ルールだからだ。
(ワタナベの日記)