子供の頃、落語の本を読んでいたのを覚えている。

子供向けに少しわかりやすくした有名な落語がたくさん載っている本だった。

平成生まれの子供が読んでも十分面白くてゲラゲラ笑っていた。

 

 

だが目黒のさんま。あれだけは許せねえ。

 

 

あの目黒のさんまだ。目黒のさんまという有名な落語があるんだ。この落語もその本に載っていた。知らない方は今ちょっとググってほしい。短い話だからサッと読める。読んだ?

 

落語の後半。

家臣が殿の体に触ると悪いからとさんまの油を抜き、喉に刺さると危険だから骨を全て抜く。そしてグッズグズになったさんまを殿様に出すわけにもいかないからつみれにして出す。

このあたりまでは面白かった。子供の俺も笑っていた。

そしてどんなオチなのだろうとワクワクしていた。落語といえばやっぱりオチの一言だぜ。

最後のページをめくった。1ページまるまる使って書かれた挿絵とオチ。

 

「さんまは目黒に限る」

 

うん、そうだよな。目黒で食ったさんまが美味しかったんだもんな。

さんまは目黒に限るって言いたくもならあ。

 

え、オチそれ? それがオチなの?

ただの食レポでは?

 

子供の頃の俺はそう思った。すごくモヤモヤした。

だって、わざわざページまるまる1つ使って言ってるんだぜ。食レポ。

それから長い事、俺の中では目黒のさんまは微妙なオチの落語として記憶されていた。

 

大人になってからだ。いやもう、本当につい最近だ。

「目黒」が別に海に面してる土地じゃないと知ったのは。

 

ハァーーーなるほど、それで殿様の「さんまは目黒に限る」の一言がオチになるわけね。

 

ガハハハハハ。

 

いや、待ってくれ。ちょっと待ってよ。それでこの生まれも育ちも九州の俺が納得すると思って?

そんなの面白いのは「目黒」がどこだか知っている人間だけじゃなくて?

いささか地方民置いてけぼりではありませんこと?

 

ハァー、これだから東京のやつらは。平気な顔して東京ドームいくつ分なんて単位使いやがる。

俺はヤード・ポンド法の次に東京ドーム法が嫌いなんでい。メートル法を使えい。

キーーーーッ!!

 

さらに調べていたらこの「目黒のさんま」は落語の中でも江戸落語というのに分類されることがわかった。

その名の通り江戸(東京)を中心に語られている落語だ。

つまりこいつは江戸の庶民、東京人を対象にした娯楽ってわけだぜ。

 

なるほど、完全に俺が悪かった。俺が間違っていたワン。許してほしいワン。

そもそも対象外のやつに文句言われても困るよな。

成人男性がスクール水着を着て「おいサイズ合わねえぞ!」って言ってるようなもんだったな、ガハハハハ。

 

 

え、マジか……

 

 

あるんだ……

 

 

成人男性サイズのスクール水着……

 

 

あるんだ……

 

 

 

 

他の「文字そば」を読む