赤ちゃん用の綿棒を買うためにドンキホーテを訪れた。元日に。

 

 本来赤ちゃんを所持しない僕だが、IQOSの掃除には赤ちゃん用の細い綿棒が最適なのである。当然、僕が綿棒を買うことで本来それを必要としている人の手に渡らなくなる可能性も考えた。だが元日における綿棒の需要は限りなくゼロに近いはず。こういう所まで考えて行動するのが賢い買い物だと貴乃花巡業部長が感心しています。

 

 とはいえ元日である。福袋目当ての買い物客でごったがえす店内は歩くのにも苦労する。一体どこから湧いてくるんだこいつらは。さては入り口だな?風立ちぬじゃ堀越次郎は庭から入ってきたのに思慮の足らぬ連中め。いつまで正月気分なんだ。

 

 ここはドンキホーテ。高すぎる棚に阻まれ全く周りを見渡せない魔境。過去の反省が活かされていないレイアウトは容赦なく我々に牙を向く。どの角を曲がってもそこに人が待ち構える。大人ならまだいい。子供がいる。憲法9条すら知らぬ彼らは無敵の人だ。

 

 子供というのは背が低いくせに激しく動き回る。よって操作性に難のある僕の体では避けきれず、度々ぶつかっては謝る羽目に。どこだ綿棒は?あっ、ごめんね、こっちかな?うわっ、ごめんねぇ~、息も絶え絶えに這いずりまわる僕の前に突然そいつが現れた。

 

 寵愛そのものな灰色のパーカーに身を包んだ2歳くらいの男児。ファイティングポーズを決めた彼は「ライダ~~~~!」と叫びながら父親役らしき男性を殴り始めた。輪郭の曖昧なグーで叩かれ「いたいっ!いたいっ!」と父親が声を上げる。平素は微笑ましく見守る立場の僕も、心身が疲弊しきっているので流石に苛立ちを隠せない。なにがライダーだ、両手でコップを持たないと牛乳も飲めないくせに正義を標榜するな。貴様なんかに綿棒は渡さない。

 

 男児を危なげに避け、引き続き綿棒を探す。闇雲に歩いてもダメ。頭を働かさねば。綿棒の主な用途を考えればおのずと答えは見えるはず。白く細長い綿棒の形状を強くイメージする。さて、これをどう使う?耳掃除だとすれば、耳掻きや爪切りと同じ場所にあるのでは。よし、行こう!立ち止まる。

 

 それで、耳掻きはどこ?

 

 これじゃ堂々巡りだ。うなだれて髭剃り売り場の角を曲がると、聞き覚えのある声が。

 

「ライダ~~~~!」

 

 また君か。君なのか。先程とは全然違う場所なのに何故ここでもライダーごっこを?ツアー公演?

 

 その後散々歩き回った挙げ句、ようやく綿棒売り場に辿り着く。絆創膏やガーゼと並んでそれは置いてあった。なるほどね、綿だものね。棒をどうするのか知らないが。

 

 綿棒を手にしてレジへ進もうとした途端、ウェットティッシュも買う必要があることを思い出した。くそ、なかなか引退させてくれないな。肩を落とし、棚がひしめく売り場へ戻る。お菓子売り場を通り抜けた先で、何かにぶつかった。

 

「ライダ~~~~~~!!!!!!」

 

 もうやめて。

 

 

 

 

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