俺は現在無職だが、働いていたこともある。これは二つ前の職場の話、俺がたった四日で辞めた職場の話だ。

 

当時百社以上から「お前はうちの会社には要らないけど、よそで雇ってもらえたら良いね。祈ってるぜ!」みたいなことを言われ続けておかしくなっていた俺は

「もう雇ってくれるならなんでも良いワン! 全部応募するワン!」

とヤケクソになりハローワークで目に付いた求人に片っ端から応募していた。どうかしていた。人間は社会的動物だから「お前は要らない」と言われ続けるとおかしくなるんだ。

 

そして百社以上から受けた祈りの効果あってかついに俺を雇ってくれる企業が現れた。従業員十人程度の小さな会社の事務職だった。ヤバいところだった。

今考えてみれば百社以上が要らないと判断するような人間を採用するのだからヤバい所に決まっていた。

 

まず新入社員を受け入れる準備ができていなかった。

事務職なのに机もなければ椅子もなかった。事務職なのに。

面接から入社まで一ヶ月あったはずだ。何してたの? アニメとか見てたの? 俺の椅子と机用意しないで? 違うよね、じゃあ何してたの?

 

代わりに用意されたのは椅子代わりのビールケースと、全然サイズが合ってない折りたたみ机だった。ビールケースに座ると、机の上に置いたノートパソコンの画面が目の高さより上に来た。キーボードを叩くには腕を肩より高く上げなければならなかった。

 

「しばらくこれで我慢して」

 

俺の上司にあたる人物はそう言った。社会ってクッソ厳しいなあ。そう思った。

 

「お前これ、この数字、入力して」

自己紹介もないまま名も知らぬ上司は言い、俺に書類の束を手渡した。

 

「はい」

 

そう答えるしかなかった。他に選択肢があったのなら教えて欲しい。「あ~あの時こうすりゃ良かったのか~!」って言わせてくれ。

 

結局そのまま四日働いた。色々あった。絶対辞めようと思った。

その四日目、辞めたいと思いながら働いていると職場に電話がかかってきた。電話には上司が出た。受話器の音量がでかくて会話の内容が丸聞こえだ。

 

電話はハローワークからだった。

「以前ご紹介しましたナ月さんの件ですが、その後どうなりましたか? 採用のほどは」

 

上司は答えた。

 

「あーちょっとわからないです。どうなったんでしょうね(笑)」

 

アーーーーびっくりした、しかぶるかと思った。(しかぶる:肥後の方言でおしっこを漏らすの意味)

わからないって何、何がわからないの?

俺が採用になったかどうか? 目の前で働いてるのに?

二兆歩譲ってわからなくても逆にハロワの人に聞き返すって選択肢あるの? 無いよね!

「採用になって今は変な姿勢で働いてますよ」以外選択肢無いよ!

 

社会、ヤッベーーーー!!!

 

五日目の朝、もう出勤しないで電話で辞めると伝えたんだワン。

 

 

※お家の方へ、お子さんに読み聞かせる時は「世の中怖い会社ばかりではない」みたいな話を付け足してあげると怖さをやわらげてあげることができます。

 

 

 

 

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