先日、不動産から電話があり、端的にいうと「あなたの家、取り壊します」と言われてしまった。
そのとき私はちょうど家でラーメンを食べており、2つの意味でめん食らったわけだが、不動産に詳細を尋ねたところ、「大家の意向であなたの住んでいるアパートを年内に取り壊すことになった」とのこと。
それはつまり……と思い、「最終的に家を取り壊すなら、支払った敷金も必ず全額返ってくるのですか?」と聞いてみると、「はい、最終的に取り壊すなら現状回復もクソもないですからね」と、不動産は笑って答えた。
これはすごい。
つまりは、何をしても敷金が返ってくるということだ。
今まで敷金に怯えて画鋲の一つも壁に刺せなかったが、突然のジャックポットタイムが訪れてしまった。「確変」どころではなく、「革命」に近い立場の変わりようである。
自分を締め上げていた契約という制約から解放され、身体がフッと軽くなるのがわかる。
そこで、さっそく私は不動産との電話を切り、フローリングに思いっきりシッコをした。シッコをしながら反復横跳びもした。シッコが空中で『M』の字に躍る。
そして勢いそのまま、食べていたラーメンも壁に叩きつけた。輪切りにした長ネギがいくつか壁に貼り付いたので、ネギが貼り付いた部分に釘を1本ずつ打ち込み、釘同士をヒモで結んでできた輪の中にもシッコをした。もちろんシッコをしながら反復横跳びもする。これでワンセットだ。
シッコを出し尽くして身軽になった私は、服を脱いでキッチンへと走った。冷蔵庫から取り出した胡麻ドレッシングを全身に塗りたくり、実家から送られてきたキャベツやトマトを次々とチョップで粉砕する。
すると必然的に大量のサラダが完成するので、それを備え付けのクローゼットに蹴り入れ、その足の勢いを利用して私は「狂(くるい)シッコ」をした。
狂シッコとは、シッコを出し切ったあとに命を削ってひねり出す強酸性のシッコである。身体への負担はあるが、もちろん反復横跳びも忘れない。
………
一通り暴れた私は、変わり果てた部屋の中心に立ち、一連の大暴れを不動産に報告することにした。
「そんなわけで、最終的には狂シッコまでしたんですけど、これだけやっても敷金が戻ってくるんですよね?」
「え? お兄ちゃん? 何? 狂シッコって? どうしたの?」
……どうやら私は不動産に電話をかけたつもりが、間違って妹に電話をかけてしまったようだ。
こんな珍しいことってあります?