ホラー、好きですか?

こう聞くと、その答えは「めちゃくちゃ好き!!!!!」「大嫌い(でぇっきれえ)!!!!」の2つに二極化するのではないだろうか。

これが「ミステリー、好きですか?」「ラブコメ、好きですか?」「セロリ、好きですか?」なら、そうはならない。「うん、まあ……」ぐらいの中間層が圧倒的多数を占めることになるだろう。いや、セロリはならないかも。育ってきた環境が違うから。

 

何が言いたいかと言うと、ホラーは好き/嫌いがめちゃくちゃハッキリ分かれるし、好き派/嫌い派の熱量も高いということだ。嫌いな人は怖いものを視界にも入れたくないし、好きな人は狂ったように怖いものばかり探し求めて人生を終えることになる。

この好き/嫌いを分かつものは何なのか? 

 

今日は、この謎を解き明かすべく4人のライターが集まった。

 

【この記事に出てくる人】

■ホラー好き陣営

原宿:オモコロ編集長。怖いものがあると聞くと、どれぐらい怖いか確かめずにはいられない。

みくのしん:ライター。心霊スポットに行く系のYouTubeをよく観る。

加味條(かみじょう)この記事を書いているライター。自分で創作ホラー記事を書くこともある。

*****************

■ホラー苦手陣営

かまど:ライター。ホラーは全て作り手からの嫌がらせだと思っている。

 

この4人で、さまざまなホラー作品に触れながら、ホラーの本質に迫っていきたい。

「怖」との遭遇座談会スタート!

 

※「怖いって何?」みたいな話をするだけなので、この記事自体は怖くありません。苦手な人も安心してね。

 

 

ホラー好き/嫌いになるキッカケを探したい

今日は「ホラーが好き or 嫌い」になるキッカケを解き明かしていくわけですが……

難しそうなテーマ!

そもそも、子どものときって暗がりですら怖かったじゃないですか。夜トイレに行くとか。

まあ暗闇を怖がるのは、生物としてあるべき姿よね。

そこから「ホラー好き」と言われる我々は、暗がりどころか怖いものに自ら寄っていくような人になっちゃったわけですよね。

なるほど。ホラー好きも、最初から平気だったわけじゃなくて、切り替わるタイミングがあったんじゃないかっていうことか。

 

分岐点で何があったのか?

ホラー苦手な人の拒否反応ってすごいから、そっち側の意見も気になるよね。「目に入るだけでも嫌!」みたいな人、けっこういる。

それで『SIREN』のCMが放送中止になったりしましたよね。

【SIRENのCM放送中止】

ホラーゲーム『SIREN』のTVCM。少女が窓の外から「開けてよ~!」と中にいる両親を呼んでいるが、カメラが回り込むと少女の顔が異形と化しているというもの。「怖すぎる」と苦情が殺到したとして、放送されなくなった。

かまども、目に入るだけでも嫌?

いや、目に入るだけなら平気だけど……。TVCMは不可避だから、やめてほしいって人の気持ちはわかる。映画館で、ふつうの映画を観に行ったのにホラー映画の予告を流されたときは、キレそうになった。

でも、昔のこと思うと怖いもの見られるようになったよね。ホラー映画の『来る』観たでしょ?

え、あれ結構怖いですよね。大丈夫だったんですか?

配信で、画面をこの状態で観てました。

そこまでして観るの!?

僕も小学生のときに『感染/予言』を映画館で観たんですけど、となりで友達がパーカーをこの状態にしてました。

こういう人、意味わからなくない? そんなに嫌なら観なくていいじゃんって思っちゃう。

なんで観たんだろう。

怖いけど、観たくなる何かがあるんでしょうかね……。

 

「不可避」が嫌だって話だったけど、不可避だから怖いっていうのもあるよね? 僕がホラー映画作るなら、ホラー映画って言わずに出したいんですよね。

「普通のマンガかと思ったらちょっとエッチなシーンがあってお得!」みたいなこと?

ちょっと違う。

『クレヨンしんちゃん』のホラー回みたいなことですよね。不意打ちだから面白いというか。

たしかに、オモコロでホラー記事載せるときも、ふつうの記事に見せかけて途中から「あれ?」ってなるのが面白いと思うんだけど、ホラー苦手な人に配慮するとやりづらいんだよね。

バランスが難しい……。

 

子どものときに触れた印象的なホラー

みなさん、最初に触れたホラーって覚えてますか?

一番最初に「恐怖」に触れたのは、たぶん『ゲゲゲの鬼太郎』かな。

鬼太郎!?

昔のアニメなんだけど、「ヘェヘェヘェ♪ ヘェヘェヘェ♪」っていうエンディングの歌があって。曲の最後で、鬼太郎と猫娘が画面の奥に遠ざかっていって、音楽も小さくなっていって……このまま終わるかな~ってところで、急に怖い顔の妖怪が手前にバーンって出てくる

最悪だ。地上波でやっていいことじゃない。

※気になる人は『おばけがイクゾー』で検索してみてね。

そのときに初めて”恐怖”という感情をおぼえたかも。「こんなことしていいの!?」って。

そんなんされたら、怖いもの嫌いになってもいいんじゃないですか?

うーん、でもそれが刺激になったというか、「これ以上のものって世の中にあるのかな」っていう気持ちになった。上を知りたいな、と。

なんだその向上心。

あとは、これね。

『ズッコケ三人組』

ハチベエ、ハカセ、モーちゃんの3人の少年が活躍する児童書シリーズ。基本的に、ホラーではないが……?

これ、僕も子供のころ読みました! 初めて文字で読んだホラーかも。

!? ズッコケ三人組ってホラーだっけ?

一番最初のこの1冊だけ短編集になってて、いろんな楽しい話があるんだけど、1つやばい話がある

『怪談ヤナギ池』ってエピソードなんだけど、めちゃくちゃ怖い。子どものころ読んで「えっ? 子どもの本でこんなことしていいの?」って思った記憶がある。

『怪談ヤナギ池』ストーリー解説 ※ネタバレあり

悪戯好きのハチベエは、「町はずれのヤナギ池にユウレイが出る」と言って、クラスの女子を怖がらせるドッキリを仕掛ける。

作戦は、ハチベエが池に女子を誘ったところで、隠れていたハカセが釣り竿で手作りの死体を池から引き揚げ、さらにモーちゃんがテープレコーダーで「タスケテー」という声を流すという大掛かりなもの。

練習も重ね、迎えた本番。首尾よく池から死体が現れ、「タスケテー」と声が響き、女子は絶叫。大成功かと思われたところで、隠れていたハカセが顔を出して「まだ人形を引き上げてない」と言う。なんと、現れた死体は、偶然そこにあった本物の水死体だったのだ。

この後さらに一捻りあって、それがめちゃくちゃ怖いのよ。

ラストシーンのモーちゃんの挿絵、こんな顔してたな~。

覚えてすぎ。

「小学生が読む本で、こんなに本気でぶん殴ってきていいんだ」ってショックを受けて、同時に「すごいな」って思ったんだよね。大人ってここまでやるのか、と。

すごさってありますよね。本当に怖いものに触れたときって「怖っ!」と同時に「すげ!」ってなる。

リスペクトが生まれるんだよね。

リスペクトと言えば、僕が小学生のときに読んだこれがまさにそうでした。

何これ!?

『恐怖と怪奇名作集』シリーズ

海外の作家が書いたホラー短編小説をまとめ、子供でも読めるように翻訳した全10巻のシリーズ。現在絶版。

小学校の図書館に置いてある怪談本って、『学校の怪談』とか『怪談レストラン』とかだったじゃないですか。

あったあった!

あと『ハニ太郎』とかね。

ごめん、それは知らない。

そのあたりを一周すると、だいたいパターンが見えてくるじゃないですか。お化けがいて、こういうことをすると呪われて……みたいな。

まあ、確かに。

でもこの『恐怖と怪奇』シリーズは、めちゃくちゃこねくり回した話ばっかり出てくるんですよ。一編紹介します。

『今日もいい天気』※ネタバレあり

人口46人のパークスビル村には、アンソニー坊やという少年がいる。少年は人の心を読み、なんでも思い通りにできる超能力を持っていて、村人たちは常にアンソニーを恐れながら暮らしている。

「頭が痛いな」や「天気が悪いな」と思えば、アンソニーが「どうにかしてあげよう」と思うかもしれない。しかし幼いアンソニーに、問題を解決する正しい方法がわかるはずもなく、その結果は恐ろしいことになると村人たちは経験から知っている。アンソニーに何も悟られることがないよう、今日も村人たちは「いいことだね」「良い天気だね」とポジティブなことだけを言い合いながら恐怖の日々を過ごす。

アンソニーが生まれたときから、村の外には虚無の空間が広がっている。アンソニーが村ごと異空間に転送してしまったのか、村以外のすべての世界を消してしまったのかは、誰にもわからない。

こわっ。

子どもながらに「そういう切り口の怖い話もあるのか!」と感動したのを覚えてます。他にも『害虫駆除業者の社長が、狂ったように虫を殺し続けた結果、天敵のいなくなったバクテリアに殺される話』とか『地球が太陽に接近していって、気温がどんどん上がり、人類がゆっくり滅びていく話』とか。ホラーというものに対して、視野が広がる感覚がありました。

「お化けが出てぎゃー!」だけじゃなくて、いろんなアイデアあっていいんだよね。M-1と同じ。いろんな漫才があっていい。

なるほど……? でも確かに、ホラーってクリエイティブですよね。どう怖がらせるかの大喜利というか。

僕の場合、最初に触れたホラーは、夏休みにおばあちゃんの家でテレビの心霊特集を観てたのが最初のキッカケだったかも!『アンビリバボー』とか『USO!?ジャパン』とか。

懐かしい!

USO!?ジャパン:

2001~2003年までTBS系列で放送されていた、ジャニーズタレントが都市伝説や心霊現象を調査する番組。まだ駆け出しのころの嵐が、体を張った心霊スポット突撃ロケなどに挑戦していた。

親も含めて、みんなでドキドキしながら観ていたのがお祭りみたいで楽しかったなぁ。

憶えてる回とかあります?

心霊映像系が好きでしたね。男の子がジャンプしてる後ろのカーテンから、顔がにゅ~っと出てくるやつとか。

あ、見たことある!

※気になる人は『顔にゅ~』で検索してみてね。

あと押井守のトレーナーに描かれた犬がまばたきするやつとか! 寝れなくなった記憶がある。

あと『ほんとにあった! 呪いのビデオ』ね。視聴者が投稿してきた心霊映像をまとめたやつ!

懐かしい、TSUTAYAで借りてたな……。特に良かったのとかありますか?

カップルが公園みたいなところにいるビデオで、途中からノイズがガーって入ってきて、全然関係ない顔が「ぬぼっ」って出てくるやつがあるんですよ。それを高校生のときに見て、めちゃくちゃ怖かった思い出があります。

※後で調べたところ『ほんとにあった! 呪いのビデオ special 3』に収録されている『中古ビデオ』というエピソードでした。

 

みくのしんは、みんなでワイワイ見るのが好きなんだね。原宿さんと加味條さんは「こんな怖がらせ方があるのか!」っていう楽しみ方をしてるけど、みくのしんはイベントとして楽しんでるって感じ?

それもあるけど、やっぱり「リアルですよ」っていう建付けが好きなのかも。心霊YouTuberとかも好きなんだけど、それも自分がいる世界の続きに怖いものがあるっていうか、「自分の家でも起こりうる」っていう近さが怖いんだよなー。

つまり、自分でも心霊体験をしてみたいってこと?

それは嫌だ。

嫌なんだ。

かまどさんは、どうでしたか?

うーん、子供のころに触れたホラーか……。びっくりフラッシュが嫌いだったな~。「ウォーリーを探さないで」とか「間違い探し」とか。

びっくりフラッシュ:

間違い探しなどと称して、「画面をよく観ろ!」と言われるがままに注目していると、突然大音量の叫び声とともに怖いお化けの顔が表示されるやつ。

さっきの『鬼太郎』のエンディングもそうですけど、こういうのって完全に意地悪じゃないですか? ホラー全般、作者からの嫌がらせだと思ってます。

そんなことはない。

「やられた!」っていう悔しさが、怒りにかわって、ホラー苦手に繋がってるのかな?

というか、急に大きい音がしてビビらせてくるって普通に嫌じゃない?

それは、そう。

「怖い」ってそもそも嫌な感情じゃないですか。シンプルに「嫌じゃないの?」って思ってしまうけど、どうなんですか?

 

ホラーってそもそも嫌じゃないの?

ホラー好きの皆さんは、怖いものは「怖い」と思って楽しんでるんですよね? 怖さがマヒしちゃってるとかではなく。

もちろん。怖いものは、怖い。

改めて聞かれると、なんで好きなのかわからなくなってきたな……。

ジェットコースターみたいなこと?

それはあるかもしれません。乗ってるときは怖いけど、あとから爽快感に変わるというか。

でも『残穢』とか『呪怨』とかの日本のホラーって、後に残る怖さじゃないですか。観たあと生活に支障をきたすというか。それって、ジェットコースターとは違いますよね。

支障をきたすなら観なけりゃいいじゃん。

でも観ちゃうんだよなー。なんでなんだろう。

 

もしかしたら、呪われたくて観てるのかも。

はい!?

影響されたいというか、引き出しを開けてほしいというか。

良いホラーって、こっちの想像力を使わせるんですよね。原宿さんの言う「呪い」ってこれのことじゃないですか?

どういうこと?

ホラーって得てして結末を描き切らずに、「このあとこうなったら嫌だな」っていう最悪の事態を想像させてくるんですよ。それが余韻になって、ずっとその作品の世界に脳が囚われちゃうというか。

『リング』とかそうでしたよね!

脳の中に「想像力の部屋」みたいなのがあって、ミステリーとかだと犯人がわかって一回パタッと部屋が閉じるんですが、ホラーって開けっ放しにしてくるんですよ。それがある意味で「呪い」なのかもしれません。

だから子供のとき、怖いものに惹かれたのかもなぁ! ホラーって難しいから。

と言うと?

楽しいこととか面白いことって、自分たちで真似できるじゃないですか。

お笑いとか、スポーツとかね。

でもホラーって真似できないんだよ。子どもたちだけで「怖いもの」を作ろうとしてもできない。だから特別感とか貴重感があって、だんだんホラーにハマっていったのかも……。

なるほど。そう思うと、ホラーってめちゃくちゃクリエイティブだよね。

 

ホラーはクリエイティブ?

たしかに、怖がらせるのって、どんどん新しいことやらないといけないからクリエイティブな作業かもしれないです。

「今一番怖いのは何か?」っていうお題の大喜利みたいになってるよね。『リング』ならビデオを使ったり、『着信アリ』なら携帯電話だったり。

落語にも怖い話あるけど、今聞くと前提知識がないと怖がれないんだよね。『着信アリ』も、100年後に見たらまったく怖くないかも。

「怖くない」で言えば、ホラーものって観る前にちょっとストレスありません? 「これ当たりなのかな?」っていう。

あー! 『ホラー当たりハズレの差、大きすぎる問題』

ホラーのハズレってなんなの?

例えばホラー映画って、得てして予算が無いんですよ。だから単純に、出来がめちゃくちゃ悪いものが多くなっちゃうイメージがあります。ストーリーめちゃくちゃ、CGもチープ、役者も素人同然……みたいな。

でもハズレのやつでも怖くはあるんでしょ?

いや、まったく。

そうなの!?

ちゃんと怖がらせるのって難しいんだよね。だから玉石混交になっちゃうし、本当に怖いものに出会うと感動する。

ハズレを引いた数だけ感動するのかもしれないですね。ギャンブルと同じ。

そうなのか……。でもそういう意味でもやっぱりクリエイティブだなって思うし、好きになりたさはあるんですよ。

かまどさんって、そもそもなんでホラー苦手なんでしょうね。

それは、ヤンキーのせいです。

ヤンキー!?

 

<次ページ:ホラーは「確定するまで」が怖い>