先に触れた「怖さ」でホラー好き/嫌いが決まる?

ヤンキーのせいでホラー苦手になったというのは…?

小学校の頃から学校にヤンキーがいて、不穏な空気とか、このままだとキレるなっていう緊張感をずっと味わってたんですよ。その結果も全部知ってる。だいたいガラスが割られるか、誰かがぶん殴られる。

やば。

「怖い」っていうのを、エンタメより先に実害として経験してるんですね。そうすると、遊びの恐怖で怖がれなくなると。

でもそれ、お化けのホラーと違くない?

いや、ホラー映画の「今から何か起こるぞ~」っていう緊張感って、本質的にそのころ感じてたものと同じなんだよね。

鏡の前で顔洗ってるとか。

ふいにBGM止まるとか。

そうそう。そういうの観ると「もういいよー!」ってなるんですよ。スポーツのドキドキも同じ理由で苦手なんです。

かまどの世界ではBGMが急に止まってたんだ……。

たしかに、戦争や災害のさなかにいたら、ホラーを楽しむ余裕なんてないですよね。安全な状態だからこそ楽しめてるのかも。

緊張感のある怖さじゃなくて、「呪い」みたいなのはどうなの? 「3日以内に転送しないと呪われます」っていうチェーンメールとか、「聞くと呪われる」自己責任系の怪談とか。

ああいうのは、まったくピンと来ないです。やれるもんならやってみろよって思う。

ひとりかくれんぼとか出来る?

全然できる。

ええええええええ!! すごっ!

ひとりかくれんぼ:

誰もいない家で、ぬいぐるみとかくれんぼを行うという降霊術。2007年頃に2chを中心に流行った。

だって、ぬいぐるみが歩き回ったりするんだよ?

だから、歩き回れるなら歩き回ってみろって。

かまどさんは、そもそも心霊を全く信じてない?

完全に信じてないです。だから、夜トイレ行けなくなるとかは全然無かったな。怖い番組見て「怖い」とは思っても、そのあと夜道の犬の散歩とか行けました。

「ホラー苦手」とそこは矛盾しないんだ!?

ホラー好きが夜道怖くて、ホラー苦手な人は平気って直感と逆で面白いですね。我々は日常の延長線上にホラーがあると思ってるけど、かまどさんは全く別世界のものとして受け取ってるから大丈夫なんですかね?

そこに人為的な「怖がらせ」が入ってきたら嫌ですよ。そうなるともう「緊張感のホラー」になるので。

あと、本当に幽霊がいるんだったら、今みたいな扱い方はよくないと思う。

エンタメとして消費する感じが?

そうです。亡くなった人が本当に現れてるなら、もっと興味持って然るべきなのに、怖い話に仕立てて「ぎゃー!」ってちょっと違うんじゃないかなと。

そこは割と同意するかもしれません。エンタメとして消費している側が、逆説的に一番幽霊を信じてないのかも。

 

「確定するまで」が怖い

「緊張感のホラー」「呪いのホラー」っていう分け方は、本質に迫ってる感じがありますね。

「緊張感」で言うと、ずっと何かが起こりそうな状態は嫌なんですが、いざ怖いことが起こるとちょっと安心するんですよね。「主人公が殺されるかも」っていう時間が本当に嫌だけど、いざ死ぬと「良かった~」ってなる

良くはないです。

たしかに、確定しちゃった時点で怖さって無くなるよね。「そういうことか」ってなって、終わる。

怪異の正体とか弱点とかが全部わかっちゃったら、何も怖くないかも。

ホラーゲームってだいたいそうですよね。最初が怖いだけで、対策がわかるとただのアクションゲームになっちゃう。

『バイオハザード』の最初にゾンビが振り返るところとか、犬がバーンって出てくるところとかは怖いけど、最終的に研究所に行ってウイルスがどうとかわかるともう怖くない。そうするともう「ナイフ一本でクリアしよう」みたいなマインドになっちゃいますね。

脳の「想像力の部屋」を使っている、未確定な状態が怖くて楽しいんですね。

確定しちゃえば怖くないって意味では、「大きい音出しません」って約束してくれるならホラー映画でも観られるかも。

約束しちゃうのはダメなんだよな~。

ジャンプスケア肯定派/ 否定派って分かれますよね。

※ジャンプスケア……いきなり大きい音を出すなどビックリさせて怖がらせること。

気持ちはわかるけど、安心して観るものではないよなぁ。ジャンプスケアあるかないかも、未確定の状態が楽しい。

「ジャンプスケア無しでめちゃくちゃ怖い」って言われた方が気になりません?

うーん、そう言われること自体がネタバレって感じがしちゃって嫌ですね。あと、1回は驚かせてほしいかも。完全に無しってなったら、「ああ、この定食タマゴ付かないんだ」みたいな気持ちになる。 

そこは、このなかでも意見が割れるんだ。

ホラー好きも一枚岩ではない。

「わからないから怖い」で言うと、ひとつ紹介したいものがあって……

 

「作為」がわかると怖くない?

いろんなところで言ってるんですけど、僕が見たなかでトップクラスに怖かったYouTube動画があるんですよ。ダラシメンっていうYouTuberの動画なんですけど

【心霊】過去一怖かった廃村・老婆の霊が…(後編) 

寒川集落に行くやつか。ハッキリとババアの声で「お前らばっかり、やらかしゃがって」って声が入ってるんだよね。

※寒川集落……宮崎県奥地にある廃村。心霊スポットとしても有名。

これ何が怖いって、そのセリフを生きてる人間が思いつくはずがないんですよ。怖がらせようと思って1000個書いても出てこない。作り物じゃねえぞっていうのが、一言でわかる感じがするんです。

ババアにしかわからない意図がある気がして怖いよね。

逆にノンフィクションのていの動画なのに、あまりにストーリーがきれいだと引っかかりませんか? 「あ、今怖がらせようとしてるな」って一歩引いた目で観ちゃうというか。

たしかに、作為的だと、引いちゃうのかも。

それで言うと、怪談師とかも作為を感じちゃって苦手だな。

「ここぞ」のところで声を張り上げたりする感じとかね。「ひたひたひたっ!!」みたいな。

「人から聞いた話」っていうノンフィクションのていなのに、「怖がらせよう」っていう作為が入ってきちゃうから微妙に感じるってことでしょうか?

飲み屋でふと聞いたら怖いんだろうけど、怪談ライブとかだと”場”が出来過ぎてて、ちょっと違うなと思うんですよね。

でもこれって「笑わせよう」も同じじゃない?

たしかに、「ここ笑うところですよ~」ってやると、笑いにくくなっちゃうんですよね。笑いとホラーって近いのかも。

ちなみに、話戻るけど、かまど寒川集落行ける?

行ける。

次の記事、『かまど in 寒川集落』やりましょう。

怖くないの? 行けるなら行ってみてほしいけど。

ああ、でもヤンキーとか野生動物とかがいたら普通に怖いな。あと、誰かがわざと怖がらせようとしてきたら怖い。

誰もいないっていう条件だったら?

まったく怖くない。

すげっ。

これを読んでいる方、施錠できて怪奇現象が起きる事故物件とか知ってたら、教えてください。かまどさんに行ってもらいます。

 

「作為」のない「理不尽」が怖い

そういえば、ネットで薦められてたホラー映画を観たら、全然おもしろくなかったんですよ。血が出る系のやつで。

スプラッターか。

ホラーの中でもジャンルが別れすぎてて、「ホラー好き」と一括りで言っても好きなものって全然違うんですよね。僕は心霊系のオカルトホラーは好きなんですけど、ヒトコワと言われるようなサイコホラーとか、グロ系のスプラッターはあんまり好きじゃないです。

ジャンルによって刺さる、刺さらないはあるよなぁ。かまども、ジャンルによっては好きになれるホラーあるんじゃない?

それで言うと、「恐怖」より「畏れ」に惹かれるかもしれない。神様というか、人間には理解の及ばない大いなる存在がモチーフになってる作品があったら観てみたいな。

人間のルールを超えた、理不尽な存在への怖さ、みたいなことでしょうか。

そんな感じです。

合ってるかわからないけど、「未知の何かに理不尽に襲われるホラー」で言ったらこれかな。スティーブン・キングの『ミルクマン』にある、『浮き台』っていう短編。

浮き台:

湖に遊びに行った大学生4人が、湖面に浮いた「浮き台」まで泳いでいく。そして湖の水面に、油膜のような”何か”があることに気付く。

「何かあるな」と思いながら気にしないでいた一同だったが、その油膜は徐々に接近してきて、終いには1人の女子生徒の足に絡みつき、彼女を湖底に沈めて殺してしまう。残された3人は、湖上の逃げ場のない浮き台の上で、正体のわからない”何か”に追い詰められていく。

「意味わからない何かに理不尽に殺される」ってホラーとしては確かに1ジャンルあるよね。

理不尽すぎると、お題のない大喜利みたいに感じちゃって僕は苦手かもしれないです。

こういうの見ると、「死ぬ」ってそういうことなのかなとも思うんだよね。僕らの中には「悪いことしなければ幸せに長生きできる」っていう漠然としたイメージがあるけど、それって関係ないんじゃないかなと。「いいやつも悪いやつも関係なく、死ぬときは突然死ぬぞ」って言われてる気がする。

それってすごく怖くない? 「いろんなことに意味なんて無いんじゃないか」って思えてしまう怖さ。

うーん……。

「死」っていうものの理不尽さを、ホラーがリマインドしてくれてるのかもしれませんね。現代社会って死が漂白されて見えにくいようになってるので、死を思い出させるために機能してるのかも。

 

 

振り返って……

こんな前提からスタートしたこの座談会だが、ここまで話してきて感じたのは、そもそも前提が間違っていたのかもしれないということだ。

 

ひとくちにホラーと言っても、その内実は幅広い。「緊張感を強いるホラー」もあれば「じんわり嫌な気持ちにさせるホラー」もあり、「痛そうなホラー」もある。

ホラー好きの中でも、細かいジャンルの好みはてんでばらばらだし、ホラー嫌いと言っても嫌いなものは特定の1ジャンルのみを指しているだけかもしれない。

 

つまり、ホラー好き/嫌いと簡単に分けられるわけではなく、様々な趣味嗜好が複雑にからみ合って”紙一重”の状態になっているのだろう。

 

……と、「みんな違ってみんないい」のような結論で終わるのも少々乱暴なので、座談会内であがった点を最後にまとめてみよう。

 

・ちゃんと怖いものを作るのって難しい。だからホラーはクリエイティブな試みだし、本当に怖いものに出会うと感動する。

・ホラーを楽しめるのは、平和な環境があるから

・本当に霊を信じているなら、エンタメとして消費するより、真面目に調査した方がいい

・ホラーは「確定するまで」が一番怖い。

・「今怖いところですよ!」という作為を感じると、ちょっと萎える

・理不尽ホラーは「死」のリマインダー

 

あなたのホラーへの認識に、少しでも還元できることがあれば幸いだ。

 

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こういう怖いものの話をしてると「集まってくる」って言うじゃないですか。最後にちゃんと祓っておきましょう

はらう?

原宿さん、会社の倉庫にある備品をいろいろお借りしますね。

倉庫にお祓いできそうなものあったっけ?

一説には、めちゃくちゃふざけることで良くないものを遠ざけられると聞きます。はい、皆さん、これ付けてください。これも、これも。

うおおおお、祓うぞ!!

合ってる!? これ合ってるの!?

 

(おわり)