■この記事の内容

突如としてファミレスに集まった2人の男が、お互いに励まし合って「これまでの人生で、やれていなかったこと」を思い切ってやっちゃう話。

 

 

 

 

 

知らないで注文しちゃったんですけど、ガストのポテトってこんなに大盛りなんですか!?

これはすごい。「山盛りポテトフライ」(¥390)の名に恥じぬ山盛りぶりだ。お得だな~

 

しかも今さ、ガストの配膳って「ロボ」がやってるんだね。初めて見たから感動しちゃったな。

人間がロボに山盛りのポテトフライを運ばせる時代なんですね。思ったより、自分は未来に生きているという感じがしました。

人件費が圧縮された分、ポテトが山盛りになったとも言えるのかも。

 

それで……だ。今日集まってもらった理由なんだけど。

はい。

今日は「今まで何となくやりたいと思っていたけど、やれていなかったこと」をやりたいと思ってて。そういう初めての体験をするのって、一人だと結構パワーがいると思うんだよね。

分かります。

 

僕も今日、原宿さんに言われて「やれていなかったこと」をやろうと思っているんですけど、一人だけだったら多分いつまでもやらないと思います。

そう、一人だと別にいくらでも先延ばしできるからね。でも二人の人間が集まって、お互いに背中を押しあえば、二の足を踏んでいたこともできちゃうんじゃないかと。

そうかもしれません。何となく踏ん切りがつくというか。

じゃあ早速、僕からやりたいことを発表したいと思います。

はい。

「粉瘤(ふんりゅう)手術」です。

え?

 

 

手術するの?

手術する。

本当に? 今日? それはちょっと……。大丈夫なのかな?

分かる、この言葉だけ聞くと怖いよね。でも手術っていっても、規模感的にはぜんぜん大したアレじゃないんだ。ちょっと切って縫うだけ。手術代も保険効いて1万円くらいだし。

はあ。

粉瘤っていうのは、言ったら「おでき」みたいなもんで。皮膚の下に、本来体外へ排出されるはずの老廃物が溜まって、ポコッと膨らんじゃったりするやつなのよ。あ、先に言っておくと、Youtubeで絶対に動画を検索しない方がいいよ。めちゃくちゃキモいから。

やめておきます。

で、この粉瘤が何年か前から俺の右足の太ももにできててさ。これがずっと気になってたのよ。

 

(原宿の右足にできていた粉瘤)

(こんなもんを載せんな)

 

痛くないんですか?

まったく痛くない。

かゆみは?

まったくかゆくない。

放置しておいたらダメなんですか?

大きくなってくる人もいるけど、そこまで急いで処置しなきゃいけないもんでもないらしい。

じゃあ別に、そのままでもいいんじゃないですか?

 

そうなんだよな~~~~~~~

 

めちゃめちゃやりたくね~~~~~~~~~~

なんでそんなにやりたくないことにしちゃったんですか。

せっかくの機会だから、本当に一人じゃやらないことをやった方がいいかなって思ってたんだけど、想像以上に嫌だったわこれ。あ、やめようかな。

やめるの!?

 

いやだって、別にマストでもないのに麻酔を注射して、ほんの少しとはいえ体に刃物を入れるってさあ……

最悪ですよね、完全に。でも気になっていた出来物が、少しの我慢でスッキリすると思えば……

そうなんだけど、少なくとも今日する必要は無いのよ。わざわざそんなストレスを感じに行く意味がないのよ。

だからこそ、ずっとやらずにきたんでしょうね。ただ、ここを逃したらこんなことやる機会は二度とないですよ。

それはそうなんだよね。

 

メスが怖いのであれば、自分じゃなくて「誰か別の人の体」だって思ってみたらどうでしょう?

なんかやべぇこと言ってる?

今、メスで切られているのは、自分ではない。関係ない他人のものだと思い込むんです。自分はただ、そういう映像を見ているだけだと。

なるほど……いや、そんなことしたら粉瘤手術の恐怖だけが独立した別の人格ができちゃわない!?

絶対にそこまでのことじゃない。

 

 

【彩雲視点の物語】

原宿さんはその後、「気持ちを高めないとやってられない」と言ってパンケーキを頬張り、なおも「手術ってこんなに怖いんだ」「なんで今日予約しちゃったんだろ」「こんなことがしたいわけじゃなかった」と、全パターンの弱音を吐いていた。

僕はと言えば、大人になっても人間ってこんなにウジウジしていていいんだと勇気づけられる気持ちと、「早く行けよ」と言いたい気持ちの間で揺れていた。

 

長い逡巡の果てに、いつしか二人の間の山盛りポテトも消えていた。ケチャップが全く足りなかったので、新たにケチャップの皿も追加したが、それすらも配膳ロボットが運んできてくれた。

「ケチャップの皿をロボットに運んでもらうなんて、何だか大げさで申し訳ない」という気持ちになったが、もしかすると、今までの人間が運んでいた時代の方が大げさだったのだろうか? 労働力がロボットに変わっても、ロボットにすら遠慮し続ける人間というのは存在するかもしれない。

 

永遠にも思える愚痴が続いたあと、原宿さんは突如として「もう逆にだわ。逆に行くわ」と言い残し、ここから歩いてすぐのところにあるクリニックに向かった。僕は「たっぷりマヨコーンピザ」の注文を追加し、帰りを待つことにする。施術の所要時間は1時間もかからないらしい。

 

 

途中、原宿さんからめちゃくちゃ気になるメッセージが来たりしたが、言っていた通り手術自体は本当に短時間で終わり……

 

 

 

 

 

いや、めちゃめちゃテンション高くなってる。

すごかった!!!!!!! 全く痛くないまま粉瘤とれた!!!!!!!!! 麻酔ってすげえ!!!!!!!

でも粉瘤じゃなかったんですよね?

あ、そうだ。粉瘤じゃなくて、脂肪腫(しぼうしゅ)ってやつだったのよ。脂肪のできものみたいな感じ。どっちにしろ「良性のおでき」って感じで、このままにしといてもいいけど、大きくなったりする可能性があるから、とるんならとっちゃった方がいいですねって先生にも言われてさ。

ほおほお。

そこから本当に一瞬でチクっと麻酔打って、一瞬で切開して脂肪の塊を取り出すんだけどこれが……

 

まっっっっっっっっっっったく痛くないのよ。

目が怖いな。

何されてたのかも分からなかった。ただ、正確には無感覚ってわけじゃなくて……自分の体に引っ付いてる何かを引っ張られてる感じ? それはあったな。でもこんなに何も感じないなら、麻酔打ったあとに腹をかっさばいて「あけっぱなし」で生活することもできるかもしれない。

「あけっぱなし」は無理ですよ。自分の体から取り出した脂肪腫は見れるんですか?

見た! なんか真っ白だったな。ちょっと魚の白子みたいな、チュルっと食べれそうな感じがした。

想像したくないなあ。

あと「関羽」のことをずっと考えてた。

三国志のですか?

そう。関羽が戦場で毒矢を受けた時に、麻酔なしで毒に侵された骨を削らせたんだけど、その時に手術されながら平然と囲碁を打っていたっていうエピソードがあってさ。関羽がやれるんだから俺も……と、自分を鼓舞していたな。

原宿さんはめちゃくちゃ麻酔打ってますけどね。

 

あと、ちょっと思ったのはあれだね。こんなミニミニサイズの手術でも、待機してる時は不安を感じるんだなと。

直前までやっぱり怖かったんですね。

だからもっと大きな手術とか処置をする人って、俺よりも色々考えちゃうし心細いだろうなと。そういう時に、誰かがそばにいて他愛のない話をしてるだけでも結構気が紛れると思うから、「付き添う」とか「側にいる」ってことにも結構意味があるんだと思ったな。

ミニ手術で、普通にいい気づきを得てる。

正直、一人だったら「今日は気分じゃない」って言ってやめてたなー。「誰かに感想を語ろう」って思うと、自分の中でもちょっと頑張って行こうって気持ちになりやすいと思う。

一人だけだと、「やらなくてもいい」っていう方に流れがちなのかもしれないですね。

なかなか面白い経験だったし、すっきりして良かった! 次は彩雲のやれてないをやってみよう。

よし、やってやります。

 

> 彩雲のやりたかったこと <