それは、ついつい手を伸ばしてしまう憩いの空間。
ただお菓子を乗せているだけのようにも思えますが、そこにはおもてなしの心が詰まっています。
お菓子のチョイスだけでなく、盛り付けや配色、味のバランスなどなど…。
人が菓子盆を作るとき、そこにはあらゆる戦略が求められるのです。
「このお菓子は喜ばれるだろうか」「盆のどこに配置するべきだろうか」
客人をもてなすために、人は己と向き合い、菓子を添え、盆を磨き続けるのでしょう。
今日は、そんな日本人のおもてなし力を競う競技を開催します。
題して『菓子盆選手権』です!
審査員を務めるのはこの人!
日本で唯一菓子盆を審査できる資格を持つダ・ヴィンチ・恐山。
ネクタイを結ぶことはできませんが、盆の審査力には定評のある男です。
これまで、オモコロでは様々なテーマで菓子盆を作り、しのぎを削りあってきました。
今日はどんな熱い戦いが繰り広げられるのでしょうか?
今回のテーマはこちら!
ワンランク上のおもてなしが求められる難しいお題です。
普段は食べることができないようなリッチな菓子盆を作りましょう。
それでは「お金持ちが作る高級菓子盆作り」スタートです!
エントリーナンバーNo.1 ヤスミノ
廉価版のバチェラー?
違いました。菓子盆チャレンジャーのヤスミノでした。
今回のテーマは高級菓子盆なので、参加者には身も心もお金持ちになりきってもらいます。
クリエイターと顧客をつなぐマッチングアプリを開発しています。今度バハマでプロモーションイベントを開催するので是非足をお運びください。
…だそうです。貯金8万しかない彼がイメージするお金持ちがこれなんでしょう。
今のところ異国の結婚詐欺師にしか見えませんが、肝心なのは菓子盆の出来。
一体どんな盆を繰り出すのでしょうか?
【使用したお菓子】
●キャラメル(NUMBER SUGAR)
●バターサンド〈黑〉(PRESS BUTTER SAND)
●ホワイトインカベリー(Far East Bazaar)
●グリーンレーズン(Far East Bazaar)
●パイナップル(Far East Bazaar)
●フンザ・アプリコット(Far East Bazaar)
●つぶつぶいちごポッキー(江崎グリコ)
お金持ちらしく、普段は食べないようなリッチなお菓子を揃えました。
まず手に取ってほしいのは、数字があしらわれたこのスタイリッシュな包み紙。こちらは表参道のキャラメル専門店「NUMBER SUGAR」のもの。香料や着色料などを一切使っていないこだわりのキャラメルです。
その奥にあるドライフルーツは全て砂糖や農薬不使用のもの。お金持ちらしく高品質なお菓子をそろえております。
ちなみに、このドライフルーツは専門店『Far East Bazaar』で買い求めました。
・砂漠の熱風で自然乾燥させた「グリーンレーズン」
・雲よりも高い山中で栽培される「インカベリー」
・桃源郷と呼ばれる秘境の村フンザで採れた「フンザ・アプリコット」
これら一流のドライフルーツが美しく映えるように、丁寧に盆に配置しています。
…とは言いつつも、結局は幼少期に食べ慣れたポッキーも好きなんですよね(笑) 私、こういう庶民的な感覚も持ち合わせているんです。
〜会場の声〜
・すごい…こいつ本気だ……
・リッチすぎて現実感がないな。ショールームのインテリアみたい
・出会い系のサクラが見せる架空の菓子盆か?
情報量で腹いっぱいになる菓子盆ですが、審査員の目にはどう映ったのでしょうか。
放射状に伸びる菓子の直線、折りたたまれた赤い紙ナプキンの鋭角。これらが菓子盆の円形に映えていて、さながらカンディンスキーの抽象画のようです。
特に目立つのは、まるでバラのような花弁を広げるパイナップルのドライフルーツ。
その周辺にも無添加で質の良い乾燥果物が盛り込まれ、ただ贅を尽くすのではない「自然派」のリッチさを味わうことができます。
もはや現代では「そのまま」が一番の贅沢ということでしょう。素朴な甘みを楽しませていただきました。
さらにこういったこだわりの商品には、商品ならではの逸話もつきもの。「砂糖不使用のオーガニック」であるとか「砂漠の熱風で自然乾燥したレーズン」であるとか……。
人によってはそれを御託を並べていると評するかもしれませんが、押し付けがましくなければそれもまた会話に華を添えてくれるはず。これは菓子盆そのものよりも本人の振る舞いが重要でしょう。
それよりも気になることがありました。メインのドライフルーツ、それに各種キャラメル……。アゴをよく使い、何度も噛むことになるこれらの菓子は、社交の場で出る盆にふさわしいでしょうか。
どちらも質の良い高級品で、贈答の品物としては最適。ですが、キャラメルを食べながらの会話はなかなか困難です。
もしかすると、商品にまつわる情報を共有したくてそのチョイスをしたのかもしれませんが……そうだとすれば「御託」の揶揄は避けられないでしょう。
一度このような目で見ると、唯一見慣れた菓子であるポッキーに作り手の不安を感じてしまいます。
腹立つ顔してんな〜
それぞれのお菓子の味は完璧だったのですが、その組み合わせには厳しい目が向けられました。
菓子盆選手権はこんな感じで進みます。
エントリーナンバーNo.2 長島
続いてのチャレンジャーは長島。お金持ちの格好ができると聞いて、一番テンションが上がっていた男です。
憧れのセレブになれて満足しております。感激!
よかったね。
セレブというより、黒い交際が噂されるスポーツ連盟の会長という仕上がりです。秘書が隠し撮りしたパワハラ音源とか流出しそう。
そんな長島が繰り出す菓子盆はこちら!
●明治 エッセル スーパーカップ
●月の小石チョコレート
●ナッツ&ベリー
●カラフルマシュマロ
葉巻はともかく、見慣れたお菓子ばかりですね。高級というよりむしろ庶民派では?
おっしゃる通り! ここにアレンジを加えて、おなじみのお菓子を別次元のモノに仕上げる。それが長島流です。
●ジャックダニエル テネシーハニー
取り出しましたるはこちら!
アイスにウイスキーをひとたらし。これで長島流アイス盆の完成です!
長島盆
金にモノを言わせるのではなく、粋な演出でリッチ&サプライズをお届けする。これが本物のセレブってコトよね。
〜会場の反応〜
・これってセレブなの? OLの贅沢じゃない?
・金持ちの家でこれ出されたら、帰り道でめっちゃ悪口言うと思う
・酒瓶出してきたときの緊張感すごかったな。有無を言わさずぶん殴ってきそうで
テーマは高級菓子盆なのになぜか格安で仕上げてきた長島。たしかに美味しかったものの、やや肩透かしな印象も否めません。
果たして審査員はこれをどう受け取るのか?
あ、審査に入る前にちょっといいですか?
最後に、恐山くんにこちらを……
え?
私セレブなので、ゲストへのお土産にも気を配ることにしているんですよ。
これは…?
さっきの菓子盆でも使っていた珪藻土(けいそうど)のコースターです。こういう細かい気配りができるのが本物のセレブってコトよね。
〜会場の反応〜
・ワイロじゃねえか。審査員を買収するな
・菓子盆からお土産まで、庶民感覚が研ぎ澄まされてる
・金持ちがお土産でこれ渡してきたら、帰り道でめっちゃ悪口言うと思う
なかなか大胆な変化球がやってきました。
なんとグラスに入ったアイスクリームと菓子を混ぜ、さらにジャックダニエルテネシーハニーを注ぐという趣向。さながら大人のアフォガードです。
ちなみに「テネシーハニー」は蜂蜜風味のウイスキー。バニラの甘さと絶妙に溶け合い、アルコールがそれほど得意でない私でも美味しくいただけました。
実質一品のみでの勝負でありながら、ナッツやマシュマロ、ストーンチョコレートのように異なる食感のトッピングが混ざることで変化が味わえます。
個々の食材は高級な品を使っているわけではないのですが、総合的にリッチな体験をしている気分にさせてくれました。素晴らしかったです。作者は狡猾な盆・ジョヴァンニですね。
しかし、冷たく甘いスイーツを味わいながら、ちらりと頭に疑念がよぎりました。果たしてこれは「菓子盆」だったのか……と。
たしかに私はこの甘味に満足しました。大満足です。ときには強引に押し倒してくる菓子盆に身を委ねるのも悪くはないと素直に思います。
ですがこれはもてなしではなく、「懐柔」だったのではないか。ふと考えてしまいます。
装飾の施されたシート、珪藻土コースター、グラス。そして、その下で菓子に関わることなく役目を終える盆。
最後まで肝心なところに触れられることなく、彼の思い描いたシナリオは完璧に演じられました。しかし、ジャックダニエルのほろ酔いが抜けた後に残ったのは、一抹の虚しさでした。
あ、コースターはありがたくいただきました。今も個人的に使ってます。
肝心の菓子盆を無視している点は厳しく評価されましたが、お土産は好評だったようです。
庶民派ゴッドファーザーの策略にまんまとハマっているのでは…?
エントリーナンバーNo.3 モンゴルナイフ
続いては今回唯一の女性参加者のモンゴルナイフ!
「戦後のどさくさに紛れて闇市でマカロンを売りさばき、スイーツ業界の女帝に成り上がった」という設定だそうです。
みなさまをおもてなしするべく、今までにないゴージャスでお城のような菓子盆を目指しましたの♡
そんな彼女が作り上げた菓子盆はこちら!
でかくない?
これは一体……?
英国のアフターヌーンティーをイメージした菓子盆ですわ♡
【使用したお菓子】
●モンゴルナイフプリン
●モンゴルナイフマドレーヌ
●モンゴルナイフマカロン
●モンゴルナイフサンドイッチ
●モンゴルナイフケーキ
こちら全て、あたくしがお作りしましたプライベートブランドのお菓子でござぁます♡
マイベストフレンド匹煮(びきに)ちゃんと一緒に写っているあたくしのパッケージがポイントですのよ♡
タワーを囲んで、モンゴルナイフと弾む会話を楽しんでくださぁましね♡
モンゴルナイフ盆
〜会場の声〜
・菓子盆の領空を侵犯するな
・これを認めたら菓子盆が終わる
・主食じゃん
菓子盆からタワーを生やすという豪快なプレイを見せつけたモンゴルナイフ!
反則スレスレの荒技ですが、審査員はこれをどう評価するのか…?
ダメなのでは?
……すみません。もう一回じっくり見てみます。
……ダメなのでは?
菓子盆を追求すると、必ずぶち当たる壁があります。菓子盆とはなんなのか。なぜ、菓子を盆に乗せなければならないのか。盆に乗っていさえすれば、それは菓子盆なのか。
第二次性徴を迎え、自分自身の存在を見つめるようになった少年が青空を見上げて「自分はなぜ生まれてきたのか。この世界はなんのためにあるのか」と問うように、盆に菓子を積み上げる者は「なぜ菓子盆なのか?」と空っぽの盆の底を見つめて問うのです。
その答えはありません。自分を疑いながら自分で考えていくしかないからです。
さて、モンゴルナイフさんの盆はどうでしょう。
アフタヌーン・ティーの皿が盆の上に鎮座しており、日本家屋に洋館を建て増ししたかのようないびつさが際立ちます。菓子盆に建築基準法はありませんが、なんだか隣の盆の日照権が心配です。
セレブらしく、全ての菓子に顔写真入りのシールが貼られています。この遊び心は楽しいものの、そこはかとない威圧感がありました。
盆に皿を重ね……シールを重ね……。盆の上の菓子は「盛る」ものですが、この菓子盆ではまるで盆が「塗りつぶされている」かのように思えます。
モンゴルナイフさんは、盆にまつわる「なぜ」に十分に向き合えたのでしょうか。私は、盆に皿を重ねてはならないと言っているのではありません。なぜ盆なのかという問いへの答えがそうさせるなら結構だと思います。
しかし、答えが「盆と向き合わず、塗りつぶすこと」だとすれば、認められません。まさにそれは、礎のない「砂上の楼閣」に等しくなってしまうからです。
ド派手な菓子盆でしたが、審査員の目はごまかせなかったようです。
そもそも、お菓子を1個でも手に取るとタワーが決壊してしまうので、普通にダメでした。バランスゲームとしては満点。