俺の名前は水崎 泡太郎、34歳。子どもも2人いて仕事も家庭も順調。
そう、俺の人生は全て上手くいっているはず。
なのに、日々まとわりつくようなこの息苦しさは何だ。
優等生を演じることを余儀なくされ、幸福というネクタイで首を絞められている感覚。
こんなの、ないものねだりであることはわかっている。
わかってはいるが、俺の人生には何かが、そう、何かが決定的に足りないんじゃないか…
「隣、よろしいですかな?」
「え? は、はい」
こんなに空いてるのに隣に? なんだか妙なおっさんだ。
「何か悩まれているようですな」
「…顔に出てましたか? いえ、大したことではないんです。そんな、人様に話すようなことでは…」
「自分は満たされているはずなのに何かが決定的に足りない、ですか?」
「えっ? どうしてそれを…?!」
「わたくし、ルービックキューブが趣味でして」
「え? は、はあ」
趣味か、俺にもそんな夢中になれるものがあれば…。
だが、ルービックキューブには、俺はハマらさなそうだな…。
「恥ずかしながら下手の横好きというやつでして。実は6面揃えるのは初めてなんです。あと1手で人生初のクリアーと相成ります」
「へ~…。それは…、お、おめでとうございます」
「それ、ぐちゃぐちゃにしてくださって構いませんよ」
「はあ?」
「ですから、あと1手で完成のルービックキューブ、修復不能なくらいぐっちゃぐちゃにして構いませんよ」
「な、なんでそんなこと?」
「ささ、どうぞ」
「あ、あの……」
「…本当にいいんですね?」
「どうぞ」
「ああああああああああああああああ!!!」
「はあ、はあ…」
「…いかがでしたかな?」
「なんだか…、不思議な感覚でした…」
「ふむ…」
「申し遅れまして大変失礼しました。わたくし、こういう者でございます」
「水の泡倶楽部…? 馬武瑠野 水泡(ばぶるの すいほう)…?」
「どうですかな? もしこの後お時間あるようでしたら是非…」
「は、はあ。時間はありますけど…」
「では、参りましょう」
「え、どこに…?」
「ちょ、ちょっと馬武瑠野さん、どこへ向かうんですか?」
「もちろん水の泡倶楽部です。きっと気に入ると思いますよ」
「は、はあ…。近いんですか?」
「ええ、あそこです」
「ちょっ!! ここいらじゃ超有名な高級タワーマンションじゃないですか!!」
「この物件はわたくしが所有しております」
「ええ?!」
「水の泡倶楽部はあそこの1階にございます」
「1階? こんなに高層のタワマンなのに…?」
「はい、2階より上は全てわたくしの倉庫となっておりますので」
「はあ?! 倉庫?! タワマンなのに?! せっかくの景観が水の泡じゃないですか!!」
「あっ…」
「ええ、ですから…。で、ございます」
「(ご、ごくり…)」
「さ、無駄話はやめにして参りましょう。入り口はすぐそこです」
「さあさあ、どうぞお入りください」
「ここが水の泡倶楽部…? 中には一体何が…」
「え? 部屋中カーテンだらけ…?」
「ふふ、カーテンの奥が気になりますか?」
「ええ、それはまあ…」
「では1つお開けしましょう」
「完成間近のトランプタワーでございます」
「はい?」
「こちらの見るからに不器用そうな青年が、必死で作ったトランプタワーになります」
「は、はあ…。あと1段で完成…、ですね」
「では、どうぞ」
「ッッ?! ど、どうぞって?!」
「本当はもうおわかりでしょう? 先ほどと同じ要領ですよ…」
「そ、そんな…、ダメだ…! そんなことしちゃ……」
「おやおや、お早くなさらないとタワーが完成してしまいますよ?」
「ダメだダメだ…。ダメなんだ…。本当はダメなんだ……」
「ふふふ…、どうぞ一息で…」
「ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ」
「わあああああああああああああああああああああ!!!」
「お見事…」
「へ、へへへへ…。なんだか気持ちいいや……」
「とってもお上手でございました。やはりあなたは素質があるようです」
「さあ、どうなされますかな? 次に行きますか? それとももうお帰りになりますか?」
「ズルいですよ、馬武瑠野さん…。次に行くに決まってるじゃないですか…」
「では続きまして、あと1ピースで完成する1000ピースパズルでございます…」
「はははは…」
「この見るからに愚鈍そうな男が、3日かけてようやくここまで辿り着いた1000ピースパズルになります」
「ふふ、いいですね。そうこなくっちゃ…」
「さあ、どうぞ」
「では遠慮なく……」
「あらよっっっっっっっっっっ!!!!!」
「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!!!」
「おおおおおおおおらららららあああああああ!!!」
「ふぅ~、ふぅ~~…。最高だぁ……」
「ふふふ、だいぶ気に入って頂けたようですね」
「もっと…」
「ん?」
「もっとないんですか、馬武瑠野さん…」
「もちろん、ございますとも。この扉の先にとっておきのが…」
「もったいつけないでくださいよ、馬武瑠野さん」
「ただし、この先に進むともう後戻りできないかもしれませんよ…?」
「何を言ってるんですか。ここまで来てもうやすやすと帰れませんよ!」
「ではどうぞ、お入りください」
「え…?」
「おや、どうされました?」
「え? え? だって、これ……」
「本気のドミノじゃないですか…?!」
「で、ございます。ここまで作るのに約5日ほどでしょうか? あと半日あれば完成かと…」
「そ、そ、そ、そんな…! さすがにこれは……」
「おや、どうなさいました?」
「い、いや、さすがにこれをやってしまったら人間じゃないというか……」
「まあまあ、何はなくともそこに立ってみてくださいな」
「いやいやいや…、さすがに…、これは……」
「みんなで力を合わせたこのドミノが無事に成功すれば、一生の思い出になることでしょうなぁ」
「そ、そうでしょう…。だからこれは無理ですって…」
「ええ、絶対にやってはダメですよ。蹴っ飛ばしたりしたらダメですからね?」
「え…?」
「絶対にやっては……ダメですよぉ~?」
「あ、当たり前じゃないですか…。そ、そんなことやっちゃダメなんだ…」
「蹴ったり、ダイブしたり、転げ回ったり、しちゃダメですよ~?」
「ダメだダメだダメだダメだダメだ…………。わかってる、それはわかってる…。わかってるわかってるわかってるわかってる……」
「それをやったら、全てが終わりですからね~? 今までの努力が全て水の泡ですよ~?」
「絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対にダメだ絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に…………」
「あああああああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~!!!」
「あああああああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~!!!」
「あ~~~はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
「イーーーーヒっっヒヒヒヒヒっっっヒヒヒ!!!!!!」
「ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒっっひひひひひヒヒヒヒヒヒ!!!!!」
「ヘヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「ミはははははははははははははハハハハッハハ」
~1ヶ月後~
「おやおやおや…。どうやら水の泡になってしまったのは彼の人生のようですな…」
「チト意外な結末でございます。まったく、これだから水の泡倶楽部はやめられませんねぇ…」
「さて、水の泡と申しますと、最近のわたくしはもっぱら…」
「LINE バブル2でございますな」
「ええ、当記事はLINE バブル2のPR記事でございます」
「こちらはバブルを投げて一気に消すという大変爽快なゲームとなっております。こつこつと築いたものを壊すのは人類共通の快感でございます」
「期間限定で『ぐでたま』とコラボ中でして、恥ずかしながら空き時間でついついプレイしてしまいますなぁ…」
「今なら特別なプレゼントもあるようでございます。あなたの人生に足りない『何か』を埋める一助になるやもしれません」
「さぁ、お時間ありましたら是非に…」
「所詮この世は泡沫の夢にございます。泡の中でまたお会いしましょう…」
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