その日、私はとてもお腹が空いていた。

時間は午後、長い打ち合わせにより集中力が途切れゆく中あることが脳を支配する。

 

白餡などを練り込んで作られた上品な和菓子、ねりきり。なぜかその日はマウスがとてもねりきりに見えたんです。シンプルなマウスのしっとりと丸いあのフォルムがどうにもその和菓子と重なる。みなさまの共感を得られるかどうかわからないのですが……。

 

 

あのお皿に置いてみる。いかがですか?これで少しでも仲間が増えてくれたら嬉しい。

この確証のない細い糸のような気づきをしばらく引きずり、仕事が終わり帰宅しても次の日になっても「マウスのねりきり」が頭から離れることはなく、ついに夢にも出るようになってしまった。夢に出るねりきりは味がしない。

成仏させてやりたい。実際に作って、食べればよいのではないか。

 

マウスのねりきりを作ろう

https://tomiz.com/column/japanese-sweets-nerikiri/

製菓専門店・富澤商店のレシピサイトを参考にねりきり作りに挑戦。

主な材料はこの2つ、あんそして白玉粉。潔いほどに至極シンプルな組み合わせ。お菓子作りってどうしても準備する材料が多くなりがちなイメージがありますがこれくらいシンプルだと取りかかりやすくて嬉しい。

 

ちなみに富澤商店のあんこはそのままでもすんごくおいしい! 糖と豆の、シンプルを突き詰めた上品かつストレートな甘さに脳が痺れる。私はこれで本来使う分の材料まで食べてしまい買い足すことになりました。

ねりきり作りの手順をざっくり示すと、

①白玉粉で求肥もちもちを作る白あんの水分を飛ばす①と②を合体成形

という流れらしい。詳細は先述のURLで確認してください。

 

【求肥をつくる】

白玉粉に水を加え伸ばすと塗料のようなドプン…とした粘体が現れて不安になるが安心してほしい。ここからレンジでこまめに加熱していくと徐々に透明感が現れ、あのよく見知った大福のような物体が現れる。

 

お生命(おいのち)……。

椀にへばりついた餅が美しくないのでワイプになってもらいました

レンジで熱々になった求肥を急いで取り出し、片栗粉をまぶして丸くまとめると途端に手のひらサイズのホカホカの命が生まれる。これかなりハムスターですよ。文鳥でもある。

何よりも「粉と水を練ってレンチンするだけでもちもちが作れる」という手軽さに感動する。もうこれだけでいいから試してほしい。自分が何かを成した達成感が得られる。

厳密に言うと「餅」と「求肥」は材料も製法も違うのでこれは餅とは呼べないのですが、きな粉や醤油をかけて餅に近い楽しみ方もできます。鍋の締めにしてもおいしいよ。

 

【あんを加工する】

話題を戻し、白あんの水気を飛ばす工程へ。あんなになめらかだったあんこを容赦なく校庭の土のごとくモソモソにしていくことへの背徳感を感じながら、ふかしいものような質感になるまでレンジで加熱する。

 

【練り込む】

求肥とあんを熱いうちに急いで練り込む! とにかくちぎって練ってちぎって練ってちぎって練る

あ!? これもしかして「ねりきり」の名前の由来だ!!? 見た目や材料でもなく工程の一部がフォーカスされたんだ!?

 

分量はあん求肥101 らしい。不安になる比率だね、わかる。

それじゃあただのあんじゃないか?求肥のもちもちとモソモソのあんが均一に混ざり合うのか? 否、安心してください。決して不安により求肥を増やさないでいただきたい。

失敗作

なぜなら求肥を多くするとあまりにも餅度が上がりすぎて制御できない状態になってしまうのです。味はおいしくはあるがねりきりの繊細な彫刻は刻めない。「田舎餅」という名前が似合いそうなパツパツねっちりのビジュアルだ。かなりお腹に溜まるので「𝗽𝗼𝘄𝗲𝗿」という名前でもいい。

改めて配合を調整し正しい分量で練り込みます。

 

【成型】

お生命2(おいのちツー)

また生命を産んじゃったね。すべすべでなめらかでほんのりあたたかいねりきりの土台が完成。

餅をこねること、あんを練ることにはヒーリング効果がある。強制的にスマホも触れなくなるのでかなり前向きなデジタルデトックスにもなる。次の時代は餡餅練り(あんもちねり)が流行る。ここから成形していきます。

 

ねりきりを成形するための道具には木でできた三角棒など専用のものがありますが、今回は家にあった未使用の粘土細工用金属ヘラを使うことに。ねりきりのオペみたいだ。こころなしか萎縮しているようにも見える。

あとはひたすら特にコツもなく、粘土を練るようにマウスの形を作っていきます。ここで手にベタつきを覚えたら多分求肥が多すぎるので戻って白あんを加えていこう!

 

う〜〜ん…?

作り始めて数分後、「工業製品は難しい」ことに気づきました。元々の形状がかっちりとしているからこそ少しの歪みやブレがあると途端に違うものになってしまう。ねりきりに花や動物を摸しているものが多いのもそのせいかもと邪推する。

目、目をつけたいよ。耳もつけていい?エレコムのしろちゃんの「・ω・」に路線変更しようかな。

だめですか……。

 

白一色ではごまかしが効かないことを悟り、ブラックココアパウダーを練り込んだ急遽グレーのあんを作成。伸ばしたグレーあんを随所に貼り付け、小手先でメカらしさを加えていきます。なんとかなれ。

 

そうして格闘し、なんとかマウス然としたものができた。

工業製品を模したものを作るときは白一色よりも所々に分割線を入れ、色を分けるとそれらしく見えることがこの作業でわかった。

 

先輩も見守っています。

 

市販の羊羹をカットしたエンターキーも添えた。エンターキーのどっしりとした佇まいと羊羹は相性がいい。

 

しっとりとなめらかに甘い。ガジェットの硬いイメージとは逆方向のほのぼのとした味わい。これが夢にまで見たマウスの味でしたか。

ねりきりは粘土と違い失敗しても食べることができるし、焼き菓子のように焦げたりしぼむなどの大きな失敗をしづらいところに安心感がある。ヒーリング効果もあるのでねりきり作りは手軽な趣味として良いかもしれません。

 

この日以来、マウスのねりきりの夢は見ていない。

 

(おしまい)