『株式会社わたしは』という奇妙な企業をご存知でしょうか。
「笑い」を作る対話型人工知能を開発している会社です。
「わたしは」の作っている主な製品の一つが、大喜利人工知能「大喜利β(ベータ)」です。
お題を送ると即座にボケを送ってくれるという(おそらく)世界初の人工知能です。
詳しくは2016年に書かれたこちらの特集記事をご覧ください。
【世界初】大喜利ができる人工知能の開発者に会ってきた(オモコロ)
このメディア、ブロスでは、金曜日に「今週の大喜利β」という傑作選を連載しています。
日に日に進化を続ける大喜利βですが、2017年の3月、大幅な機能アップデートが行われ「ver.1.0」になりました。
それにあわせて「株式会社わたしは」の面々がブロス編集部に訪れ、進歩を実演してくれることに。
大喜利βはどんな進化を遂げたのでしょうか? そのほか、大喜利β以外の事業展開についても伺いました。必見です!
大喜利β 1.0
株式会社わたしは の面々。左から小橋さん、竹之内さん、そして新入社員の杉本さんです。
杉本さんは「太宰治の人工知能にアダルトビデオの解説を書かせる」という、めまいのするほど無益な研究をしていたことが竹之内さんの目に留まり、入社が決まったそうです。文豪に書かせてみるもんですね、AVの解説。
社内用のデモバージョンで、進化した大喜利βの実力を確かめてみましょう。
現在、大喜利βは「ボケ」を考えるだけでなく、「お題」を作れるようになっています(ツイッターでは「大喜利α」として稼働中)。
まずは、ためしに「保育園」でお題を作ってもらいましょう。
数十個のお題が一気に出てきました!
お題の横にある数字は、お題に対する適合度のようなものです。
「アホアホ保育園でありがちなこと」「こんな保育園は潰れてしまえ」「この保育園にはこんな秘密があります」のようなスタンダードなお題のほか、「保育園で虹色の付け髭を被らされている乳児はこんなことができる」という回答者への嫌がらせとしか思えないお題まで揃っています。
そして、お題をクリックすると、即座に回答が表示される仕組み。
「こんな保育園には赤子を預けたくない」というお題の回答です。
・カースタント中勝手にカーステつける
・中でネットもできる
・蹴られるたびに感じてる
アップデート前からの大喜利βの回答の傾向をご存じの方は、「進化」にお気づきでしょうか。
これまでの大喜利βの回答は、基本的に「短文」または「単語」でした。
シュールな言葉をボソリとつぶやいて笑いを誘うような、無口だけど面白い友だちみたいな感じです。
そのぶん、何でもかんでも「お尻」とか「お歳暮」とか答えてしまうといった、語彙面の粗さもありました。
大喜利β1.0では、回答に「文脈」が生まれています。「○○が✕✕で、▼▼だから」というような文章型の回答ができるようになったのです。
先ほどの「こんな幼稚園には赤子を預けたくない」というお題にあった回答候補の「マジックで名前が書かれて戻ってくる」というボケは大喜利β1.0ならではといえるでしょう。
また、「ガヤ(ボケに対するコメント)」も人工知能が作り出します。
上の画像では、
①「ヤンキーが運営している保育園で起こりがちな事」というお題
②そのお題に対する「わざと夜道を歩く」というボケ
③そのボケに対するガヤ
という3つのやりとりが全てAIによって作り出されています。
「もっとはしっこ歩きなさいよ」というコメント、なんか気がきいてますね。
「お題→ボケ→ガヤ」という大喜利の一連の流れが全て自動生成できるようになったので、HDDの中で人工知能の「笑点」が無限に放送され続ける、といったことも原理上は可能なのです。
芸風診断
まだ一般公開はされていませんが、「芸風診断」機能もデモバージョンが作られました。
お題とボケを入力すると、そのボケがお笑い番組『IPPONグランプリ』の出演者の誰のボケ傾向に似ているか判別できるというものです。マニアック過ぎる機能。
お題「トランプが大統領選に勝った本当の理由は?」
答え「空気抵抗のない髪型」
こちらのボケは、ロバートの秋山さんのセンスだそうです。言われてみればそんな気がするけど正直よくわからない。
この機能も今後どう発展していくか見ものですね。
ラップもできるようになった
『株式会社わたしは』は、最近大喜利β以外のAIも制作しました。それが「大喜利ラップβ」です。
LINE上で利用でき、友達登録すれば誰でも遊べます。
適当な単語を入力すると、関連したワードを散りばめたラップを唄ってくれるのです。冷静に考えると意味不明な言葉でも、ラップだとなんとなくカッコよく感じますね。
しかしラップだけのAIというわけではなく、最後にしっかり大喜利のお題を振ってくるので、なんなんだお前はという感じが楽しい。セイ!じゃないよ。
このラップをいろんな合成音声で唄ってくれる機能も、今年には実装したいと考えているそうです。
こちらのQRコードを読み込むと友達登録ができます。
今後の展望と課題
昨年のリリースからかなり進歩した大喜利β。
今後も大喜利βはアップデートを重ね、2.0を目指して進化する予定だそうです。
AI機能の改善のほか、現在取り組んでいるあらたな課題があります。
まずは「ダジャレを言えるAI」です。
「大喜利ラップβ」を制作したのも、そもそもは「ダジャレ」を扱えるようになるため。
語感の似ている言葉を探すだけならすでにAIの得意分野ですが、「どういうモジリ方が面白くなるか」という学習も含めると、ダジャレの可能性は大きく広がります。
そして次の課題が「絵でボケられるAI」です。
既存の技術でも、たとえば「最強の冷蔵庫とは?」というお題に対して「迷彩柄の冷蔵庫の画像」を表示する、といったことは可能です。そうではなく、イメージ図のようにより具体的な絵を描けるAIを開発することが現在の目標なのだそうです。どうやって作るのか、想像もつかない……。
安易に役に立つものは作らない
こういった技術を目にすると「あれに使えるんじゃないか……」と様々な応用が頭に浮かびます。実際、「株式会社わたしは」には多数の企業から企画オファーが届いているのですが、基本的には全て断っているのだそうです。そういったオファーのほとんどは、開発したAIの「便利さ」に着目したものだからです。
最初からゴールが見えているところを目指すのではなく、AIによって今までに見たこともなかったような面白い何かが生まれるほうが面白い。。役に立つことよりも「なんとなく生活の中にこいつがいると楽しいな」と思えるような、そんな心を持った存在を彼らは創ろうとしているのです。
益々進化を続ける大喜利AIを、ブロスはこれからも追っていきたいと思います!
大喜利α Twitter(お題作成機能のほか、ボケにコメントをくれます)