小学生の頃、なぞなぞやクイズでよく遊んだ。
その中には、意地悪な引っかけ問題も混じっている。
例えば、「ねえ、ちゃんと風呂入ってる?」といきなり問いかけられる。
もちろん自分では清潔にしているつもりなので「うん、入ってるよ」と答える。
すると、問主は大げさに「えっ!?姉ちゃんと風呂入ってるの?えっろ」みたいにからかうのだ。
「ねえ、ちゃんと」と「姉ちゃんと」の区切りを巧みに使った罠だ。
「パン作ったことある?」と「パンツ食ったことある?」も同様の手法で、小学生はよく仕掛けてくる。
これらの引っかけは、いわゆる初見殺しというやつで、予備知識のない状態で対処するのは困難を極める。
私も何度となく、苦杯を舐めさせられてきた。
「ろくぶて」もその思い出の一つだ。
ある日、スイミングスクールのロッカーで着替えていると、同世代の男の子が声をかけてきた。
「てぶくろを反対から読んでみて?」
唐突な質問に戸惑いながらも、苦心して反対から読んでみる。
「ろ…く…ぶて。ろくぶて?」
すると男の子は、いきなり私を6回ほど叩いたのだ。
なにをする。
私が驚いていると、男の子は得意満面な顔でこう言った。
「だって、ろくぶて(6ぶて)って言ったじゃん」
なんという蛮行だ。
悔しい。
てぶくろを反対から読むというタスクをやらされた上に、6回も叩かれてしまった。
屈辱感に顔をしかめる。
自分も誰かをはめてやらないと気が収まらない。
ただ、全く同じ手法を使うのは面白くないと思った。
消毒槽を通りながら、小学生なりに頭を捻る。
すると、素晴らしいアイデアが舞い降りてきたのだ。
「てぶく、そう!てぶくの反対を言わせれば、くぶて(9ぶて)で9回も叩けるぞ!」
自分は、天才のような気がした。
早速、近くにいる子で試し打ちだ。
こういうときの子供は残酷で、なるべく純粋そうで、しかもボーっとした感じの子をターゲットにするのだ。
私は、やや小柄で冴えない男の子を見つけ、先ほどの問いを発した。
「ねえねえ、てぶくを反対から読んでみて?」
くくく。さあ、早く答えろ。そして9回叩かせるんだ。
私は笑みを噛み殺しながら、待った。
しかし、その子はキョトンとしながら、私の方を真っすぐ見て言った。
「……てぶくって何?」
ほんとだ。
てぶくって何だろう。
9回叩くことに囚われすぎて、不自然な問いになっていることに全く気がつかなかった。
「なんでもないよ」
そう言い残した私は早足でプールサイドを横切り、準備体操の輪に加わった。