不良少年というのは、独特だ。
大人と子供の狭間で、不思議な価値観を生み出す。
今日は、そんな彼らの会話を見てみたい。

 

中学1年の9月、野外授業という校内イベントがあった。
これは、市のキャンプ施設を借りて2泊3日するというものだ。
1泊目は自分達で建てたテントに泊まり、2泊目は施設内の宿泊用ベッドを使う。

 

施設は、寮のような感じだった。
4人一部屋で、2段ベッドが部屋の両端にある。
一つの2段ベッドは、私が上で、古川くんという野球部の子が下を使った。
反対側のベッドは、カッちゃんとホリという不良グループに属する子たちだった。

 

消灯時間になり、私と古川くんは大人しく寝ようとしていた。
そこに、隣の2段ベッドから、ひそひそ声が聞こえ始めた。

 

「ねえ、カッちゃん」

 

2段ベッドの上、ホリの声だ。
不良の序列は分かりやすい。
「ねえ」と呼びかけたら相手が格上、「なあ」なら同格以下だ。

ホリは、タバコを吸っていたせいか、かなり背が小さかった。
そのため、喧嘩が弱いという致命的な欠点を抱え、不良グループの中では下位に甘んじていた。

 

「なに」

 

二段ベッドの下で、カッちゃんが答える。
カッちゃんは、ワルさに憧れ不良グループにいたものの、基本スペックの高い生徒だった。
手先が器用で工作や裁縫を得意とし、中学3年時に渋々始めた勉強で急激に成績を上げることになる。
筋トレ好きで、大柄ではないものの筋肉質な肉体を誇っていた。

 

「カッちゃんさ、もし川で溺れてる女の人がいたら、どうする?」

 

暗闇の中、掴みどころのない問いが発せられた。
急になんだ?
助けないことで、悪さをアピールするのか?
そう思っていると、カッちゃんから答えが出た。

 

「助けてあげて、お礼にヤる」

 

衝撃を受けた。
ヤるとは、セックスをするということだろう。
お礼にセックスを望むんだ。
体目当てのレスキュー。
女性側から見たら、いくら命の恩人でも、「はい、喜んで」とはならないだろ。

ホリはカッちゃんの答えに満足したようで、クックックと上機嫌に笑う。
そして、更なる応用問題を繰り出す。

 

「じゃあさ、もし溺れてる女の人がブスだったら、どうする?」

 

えっ、ブス?
ブスだったらどうなるんだろう?
私は、カッちゃんの答えを待った。
カッちゃんは、小考の後、力強く言い切った。

 

「助けてあげて、お礼に、顔に袋を被せて、ヤる」

 

衝撃の第二波が私を襲う。
袋を被せるんだ。
確かに、前者との違いが顔だけなら、覆ってしまえば関係ない。
でも、ブスの女性、心境複雑だろうな。
どっちも一応助けるところは偉いね。

 

あどけない問いと、地元の先輩から聞かされたであろう性のフレーズ。
これぞ思春期の不良少年だ。
短い問答の中に、彼らの考え方や嗜好が高密度で集約されている。

 

「クックック、カッちゃん、エロだなあ」
ホリは、大満足といった調子で、エロ認定を下す。
エロ太鼓判だ。

 

カッちゃんは小さく「フフッ」とだけ笑った。

 

 

 

 

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