学生時代のアルバイト先に、すごくピュアな女の子が居た。ピュア子、なんて呼ばれてからかわれるくらいにピュアだった。
休憩室で談笑し、ちょっとした下ネタとか言うと顔を真っ赤にし、すぐに怒って退室してしまう子だった。
最初は可愛いものだったが、「わき毛」くらいの単語でも余裕で退室されるので、まあまあ困った。判定が厳しくすぐに怒るので、ピュア子が居る時は休憩室の会話も気を使ったものだ。
その対極に、江坂(エサカ)という男がいた。最近入った男で、風俗が大好き。千葉の田舎の風俗をほとんど網羅していて、僕らによくその話を聞かせてくれた。
彼は基本的に夜~閉店のシフトで入っており、店の閉店が23時なので、21時で上がるピュア子とはほとんど関わりの無い男だ。
ある日、退勤してシフト表を見ていたら、たまたま江坂が21時上がりだった。
それはついに、相反する二人の邂逅が起こってしまう事を意味していた。
休憩室には帰り支度を終え、シフトを書いているピュア子と、僕含む数人の男性が居た。
もうすぐ江坂も入ってくる。どうなってしまうんだ。
風を切るように、休憩室のドアが開く。
「この前デリヘルにアナルやってもらったけど最高だったよ、溶けそうだったー!」
すごい。第一声からすごい。お疲れ様ですとかそういうの全部飛ばしてくる。すごい
ピュア子の手がピタリと止まる。単語の意味は知らないだろうが、雰囲気で感じ取ったのかもしれない。
江坂がピュア子に気付いた。「あっ」みたいな顔をしてた。さすがの江坂も、ほぼ初対面みたいな女性にこんな話はしないか。
江坂はコミュニケーション能力が高い。聞き手に対する気遣いも出来る男だ。今は男しかいない23時の休憩室じゃない。21時だ。江坂はそういうのに気付けて、配慮できる男だ。大丈夫だ、きっと。
「アナルってのはお尻の穴の事で、正しくはアヌスって言うらしいんだけど、そこを初めてお金払って10分くらい舐めてもらってさー、感動しちゃったよー」
すごい。すごい丁寧に話し始めた。
聞き手へのホスピタリティが全力でマイナスに作用している。なんなら生々しくなった。よほど聞かせたかったのか。どんだけ良かったんだ。10分は長くないか。
ピュア子を見たら、手がぷるぷるしていた。
この一瞬で顔も真っ赤になっていた。
たった一言で我慢の限界に達したようだ。
ガタッ!と音を立て、ピュア子は立ち上がった
江坂が驚いて目を向ける
ピュア子は江坂を睨みつけていた
そして、大きな声で江坂に怒った!
「エナルさん! うるさい!」
エナルさん????
見たこと無いくらい真っ赤になったピュア子は、僕らをかき分けるように走り去って行った。
穴があったら入りたい気持ちだったかもしれない。