町を見渡すと、ふんわりコピーの大部分はコピーのプロではない店員が自作したものだ。特に手書きのコピーが良い味を出している。
なら、個人商店の多い場所はふんわりコピーの宝庫なのではないか。
戸越銀座でふんわりコピーを探す
ふんわりコピーを見つけるため、戸越銀座に来た。
戸越銀座といえば、戸越銀座商店街だ。
一見よくある商店街だが、全長1.3キロという東京一の長さを誇っている。
たまたま平日の雨の日というロケーションで撮ったため人類が滅びたあとの町みたいな写真になってしまったが、普段はもっと賑わっているし、テレビ取材も多い。
石ちゃんにとってはドラクエ7でレベル上げのために行くクレージュくらいの頻度で訪れる場所だろう。
ここでふんわりコピーを探してみよう。
まごころ仕上げ
「これこれ!」と言いたくなるような、ふんわりコピーの模範例。
クリーニング店ではよく見るフレーズだが、よく考えるとよくわからない。
でも、ないよりはあったほうが確実に良いと思わせるから不思議だ。
疲れた身体を癒やしたいゾウ
ゾウのキャラクターだから語尾を「~ゾウ」にするという脊髄反射。こちらもお手本のようなふんわりコピーである。
それにしても「ハーバル腸セラピー<チ・ネイザン>(ホホバオイル使用)」の分からなさはどういうことだろう。
とにかく何だか良さそうだ、ということだけは分かる。
時代は、泡
たしかに最近「スパークリング○○」を見る機会は増えた気がする。
だからといって「時代は、泡」と言い切ってしまっていいのだろうか。そう訝しむ人もいるかもしれない。しかし、店主が「これからの時代は泡だ」と思ってしまったのだから、もうしかたがないのだ。
超高級婦人ソックスが3足500円で売っていた。超高級業界に微振動が走る事件である。
それでも許せてしまうのは、「超」のそうにょうの思い切りのいい「はらい」が、「書いた人は、本当に超高級だと思っているのだろう」という説得力と味を出しているからだ。
気づいてください 靴のまちがい
たしかに、この靴はいろいろと間違っているような気がする。
ドッキンワゴンセール
土曜と金曜にやっているからドッキン。洒落がきいている。
よく見ると値札にも「うれしい値」「さわやか値」「ビックリ価格だ値」というふんわりコピーが。全体的に「お母さん」のセンスだ。
カットの良さをお試しください。
コピーとはふつう「良い」をいろいろな言葉で表現するものだ。
「良さをお試し下さい」という言葉の愚直さにはめまいがする。正直、ちょっと反則なんじゃないかと思う。面と向かって「良さをお試し下さい」なんて言われたらもう、たじたじになってしまう。
ふんわりコピーではないのだが、床屋がシャンプーの出来る人を募集していた。床屋が設けるハードルとしてそれは高いのか低いのか微妙だ。
戸越銀座商店街ではたくさんのふんわりコピーを見つけることができた。
巣鴨でふんわりコピーを探す
次に、巣鴨にやってきた。
巣鴨に来たのは生まれて初めてで、「しわしわの町」という印象しか持っていなかったのだが、実際に降り立ってみると若い人も普通にいた。
駅でさっそくふんわりコピーを発見する。
「乗れます!」 きっぷだからね。
巣鴨地蔵通商店街。ここでふんわりコピーを探す。
商店街に近づくにつれて周囲の老人濃度が濃くなっていくのが体感できたので「しわしわの町」はあながち間違いではなかった。
店頭のポップもすべて老人基準なのだ。
指先オシャレでマイナス5才!
ふんわりしている。マイナス5才に根拠はないのだろう。
黒いにんにくパワー5倍!
巣鴨におけるステータスの基準は5なのだろうか。
オードリー春日とスギちゃんの写真が貼ってあるのには何か説得力を感じる。
禁煙して余命を10年延ばしましょう!!
巣鴨を歩いて気付くのは「死」を見据えた言葉が目につくことだ。
歳を重ねるとどうしても意識せざるを得ないことに向き合い、そのうえで「生きよう」と投げかけてくるポジティブさがふんわりコピーにも出ているのだろうか。
香りがおいしい!!
そして「ためしてガッテンで話題」の文言が目につく。
高齢者の主な情報源はやはりテレビなのだろう。巣鴨では「テレビ放映」、とくに「ためしてガッテン」で取り上げられることは確かなステータスであるらしく、いろいろな店でガッテンアピールを見た。ここでは「モンドセレクション」よりも「ガッテン」だ。
テレビ放映の靴
いったいどこの番組が取り上げたのか書いてくれないと困る。
しかし、誇らしい気持ちは伝わってくる。
スマートな着こなしはベストを・・
「ベストのスマートな着こなしを・・」ならまだ分かるが、
スマートな着こなしをするならばベストだ、という価値観は謎めいている。しかし、逆にそのせいで気になってしまう。
もしかしたらこれは「キャッチコピー」の範疇なのかもしれない。
商店街の道も終わりにさしかかったときに、ある店を見つけた。
健康アドバイザー 東洋医学食研究所
ガンニなりたくない方
大腸からダイエットアドバイス出来る所は
日本中でここしかない 自分の遺伝子を知る事です
私しは研究者です 自分守る事は国のためにもなる
どうやら独自に編み出した健康食を広めるための店のようだ。
とにかく張り紙が多い。
よく見ると遺伝子は変えられると書いてあるが、
遺伝子ってそんな変えていいものだっただろうか。
このインパクトを前にして考えた。
これはふんわりコピーなのか。
ここに書かれていることはたしかにふわふわしている。
だがここまでくると、もう「ふんわりコピー」に収まらない。そう思った。
ふんわりコピーにしては、あまりにもパッションが濃すぎるのだ。
「それとなさ」は、ふんわりコピーの必要条件かもしれない。
隣には老人名言を貼りまくっている店があった。
「笑う婆あに福来たる。散歩ですか? 徘徊ですか?」
いきなり言われても。
おわりに
実は、戸越銀座と巣鴨を訪れる前に渋谷を散策していたのだが、
ふんわりコピーは全くといっていいほど見つからなかった。
店を運営する「人」が見えるところで、ふんわりコピーは見つけやすい。
ふんわりコピー的な言い回しで表現すれば、それが「人のあたたかみ」というやつなのかもしれない。
そういえば、巣鴨駅の近くに、よくある出会い系喫茶があった。
「30代40代の女性がいっぱい集まっています」
からは「それくらい若い子もいるよ!」という意味が読みとれる。
これもきっと地域と人に根ざした「あたたかみ」であり「まごころ」だろう。
ただ、巣鴨の出会い系喫茶にラブプラスのマナカみたいな女の子はたぶんいないと思う。
というか絶対にいない。嘘をつくな。それとこれとは話は別だ。
(おわり)