画像には注意と大きく書かれて以下の文章が表記されている。
この漫画には恐怖表現が含まれています苦手な方は、ご注意ください。
この漫画は、事実を元に作成しています。

 

場面はファミリーレストラン。男性が二人テーブルを挟んで座っている。テーブルにはコーヒーが置かれている。インタビューを受けている人物は、サングラスをかけ白杖を持った男性である。
モノローグ: このお話をしてくれた矢崎さんは、視覚障害者である。モノローグ: 幼少期から徐々に視力を失う病気を患い、4歳の時点で完全に失明した。
著者: 失明というと完全に真っ暗…という感じなんでしょうか?
矢崎: いえ…

矢崎: 失明にも大きく3つありまして…
矢崎さんが分類を説明する。3つのおおまかに分けた分類が表示される。
1そもそも眼球が無い
2完全に目の機能を失う 
3かろうじて明暗がわかる
脚注に「厚生労働省の定め」と記載されている。
矢崎: 私は、これです。
矢崎さんが「かろうじて明暗がわかる」という分類を指差す。
著者: 目の見えないにも種類があるんですね。
矢崎: そうですね。
著者: 目が見えていた頃の記憶もあるんですか…?
矢崎: あります。あるんですが記憶って、理想的に上書きされちゃうのでどうなんでしょう…
矢崎さんは腕を組み考える仕草をする。

テーブルの上のコーヒーに矢崎さんの顔が映る。
矢崎: 私が幼少期に見たものは、本物だったのか今となっては、もう確かめようがないですから。
著者: なるほど。やはり記憶の中では、美しい思い出になっていますか?
矢崎: ええ~そりゃあもちろん。母の顔がめちゃくちゃ美人になっていますね。実物は、そうでもないと思いますが。
矢崎さんの母親が輝いている描写
モノローグ: お母さんがひどい言われようだ。
矢崎: でもね…

矢崎: 見えないからこそ見たくなるというのは、ありますね。
モノローグ: 見えるもの、見えないもの。今回は、矢崎さんの見えなかったものについてのお話だ。
モノローグ: 矢崎さんの趣味は登山である。まとまった休みがとれると、健常者の友人と山に出かける。

矢崎: 視覚障害者の登山会ってけっこうあるんですよ。
著者: 知らなかったです…!
矢崎: 一番好きな山は高尾山…気軽に登れて身近だからだそうだ。もう100回は登ったかな…高尾山なら目を瞑ってでも登れますよ!
著者: ワハハ、おもしれ。
モノローグ:障害者ブラックジョークである。

モノローグ: その日も一緒に登ってくれる友人と駅で合流し、いつも通りのルートで歩き始めた。
著者: 視覚障害者の方の登山ってどんな感じなんでしょうか?
矢崎: 多くの場合が健常者に先に歩いてもらって、ザックを持ったり、ロープで引いてもらったりします。私と友人は少し工夫をしていまして、友人のザックに取り付けたザイル(登山用ロープ)を30センチごとに結び目を作って距離がわかりやすいようにしています。

著者: その結び目の数で友人との距離を測るわけですね。
矢崎: なくてもだいたいわかりますがあったほうが便利なので。
著者: ロープで距離を作る時は、どんな時ですか?
矢崎: 例えば…狭い道で人とすれ違う時、ある程度距離が自由なほうが便利ですしね。でもね、山というのは、不思議ですね。人とすれ違ったと思って挨拶しても誰もいない…なんて事がたまに起こるのです。

矢崎: これ、街中では、そうそう起こらないのですよ。
矢崎さんが街中を歩いている描写
著者: 山の中では、いない者の気配がするという事ですか?
矢崎さんとサポートを行う健常者男性が登山中に休憩をしている描写
矢崎の友人:山神様とか妖怪なんかとすれ違ったのかもな
矢崎:そうかも~
モノローグ: 山だし、そんなこともあるか…くらいに思っていたそうだ。矢崎さんたちは、あまり気にとめず
矢崎: …でも…あの日、梅雨前のまだ涼しい時期です。その日はなぜか気配とすれ違わない。心なしか山が静かな気がしました。

矢崎: なんだか今日の山は澄んでいる感じがするな。
モノローグ: まるで美術館や神社のような涼しい空気が流れている気がします。
モノローグ: 頂上に到着しました。そんなことを思いながら山を登っていると…
矢崎の友人: ちょっと腹が痛くなってきた。トイレに行くからここで待ってて。
モノローグ: 友人にそう言われた矢崎さんは、ベンチで待っている事にしました。

ベンチに腰掛けている矢崎さんの描写
モノローグ: 木のざわめきや風、他の登山者の雑踏を聞いていると…大きな音がしました。何か…まるで大きな鎖を落としたような金属のこすれたりぶつかったりする音です。驚いて周囲を探ったのですが、不思議なほどになんの音もしないのです。先ほどまでの雑音が一切聞こえなくなりました。

モノローグ: 不安になりながらも友人を待ちました。30分くらいでしょうか。「トイレにしては、長いな…」…と思えるくらいの時間が経ちました。不安でした。
不安そうな矢崎さんの描写。周りが暗くなったような不穏な雰囲気が漂う表現。
矢崎さん:もしかして耳が聞こえなくなったんじゃないか…
モノローグ: そう思った矢崎さんは…
矢崎: あのー…えー…すみません…
モノローグ:と…声を出してみました。

モノローグ: 自分の声は聞こえます。少し安心しましたが、事態は変化していません。
矢崎: しばらく声を出し続けます。あのー!すみません、すみません。誰かいますかー。
モノローグ: すると…
モヤのかかった人の形のようなものが矢崎さんの近くに佇む。それは矢崎さんが盲目であるための得体のしれなさと不確定なものに対する心象描写とホラー的なミステリアスな描写である。
女性: どうかしましたか?
モノローグ: …と女性が声をかけてきたそうです。

矢崎: あ…すみません、私は、目が不自由なのですが…。
友人が迎えに来ないので…困っていまして。
女性: ここは、◯◯だから来ませんよ。
モノローグ: 何か地名のようなものを言ってその方は納得した様子です
著者: その地名のようなものは思い出せませんか?
矢崎: 忘れたんじゃなくて…聞きそびれて流しちゃった感じですね。それどころじゃなかったので…

女性: 人のいるところまで連れて行ってあげましょう。
モノローグ: そう言われ手を引かれました。矢崎さんは驚きました。その女性の手がやたらに大きかったからです。
矢崎さんの手と女性の大きな手が重なる描写。
著者: 大きい手…?どれくらいの大きさですか?
矢崎: うーん…普通の猫が手乗りになるくらい…?
モノローグ: 例えがかわいい。

モノローグ: その方に手を引かれ背中に手を回します。
女性: 掴んでください。
モノローグ: ぎゅっと握ると…それは…藁束のような質感でした。藁を荒く編んだ畳のような…そんな質感でした。
矢崎: 籠…?いや蓑か…?
不安になり汗をかく矢崎さんの描写

矢崎: 手も大きいけど…この人…体も大きいぞ…私が手を伸ばしても触れられる…一体…この人はなんなんだ…?
暗い場所を歩く矢崎さんと女性の描写
モノローグ: その人に引かれて歩いているとおかしなことに気づきます。自分は山の頂上にいるはずなのに、平地をずっと歩くのです。下りも登りもしないのです。

モノローグ: そうやって1時間ほど歩いた。
大きな手のついた藁束のようなものに案内される矢崎さんの描写が大きく表現されている。周りは暗く、矢崎さんの不安な様子が心象描写として描かれている。
モノローグ:触れて確認できる時計を持っていたので、この時間は確かだそうだ。

モノローグ:途中…
矢崎: あの…なんか大きいですね。
モノローグ:と声をかけてみたところ
思い切った顔で女性に声をかける矢崎さんの描写。
女性: そうなんですよー。大きいんです。
モノローグ:と、あっさり言われた。
著者:それ以上なんも聞けないですね…気持ちわかります。
矢崎: そうでしょう。はぁ…そうですね、となりますよね…。
著者のイメージと考えの描写が差し込まれる描写
モノローグ:おそらく怪異を目の当たりにしても…
人の顔を持った犬(いわば人面犬のような怪物)が著者に話しかける。
人の顔を持った犬:おれけっこう体が犬っぽくてー毛深いんですよねー
モノローグ:ギャーと逃げ出したりせず…なんか納得してしまうものかもしれない

モノローグ:そして…
女性: ここでもう待っています。
モノローグ:その人がそう言った。
怯えて焦った矢崎さんが心中で喋る描写。
矢崎: 待ってます?「待ってて」とかではなく…?
モノローグ: と不思議に思っていると、ドッと音が戻ってきたそうだ。雑踏が聞こえる。その女性もどこかに消えてしまい…しばらくすると友人がやってきた。

モノローグ: この話を友人にしたところ…
矢崎の友人: なんで携帯使わなかったの…?トイレ行って10分もたっていないと思うけど…
モノローグ: と…言われたそうだ。矢崎さんの時計は確かに1時間以上進んでいたそうだ。
矢崎: しかし…私は、誰とどこを歩いていたのでしょうか…それが今だにわからないのです。
モノローグ: そう言って矢崎さんは、苦笑いした。それが何だったのか、今となっては、もう確かめようがないのだから。

 

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