スプリンクル、それはみんなの夢。
スプリンクルという名に馴染みがなくとも「カラーチョコスプレー」と聞けばピンと来るはず。そう、あのカラフルなチョコのトッピング!あれです。
ケーキやアイスがおもちゃのように彩られる姿は大人になった今見てもときめくもの。むしろ大人になった今、自分の財で買って好き放題トッピングできる禁断の遊びに私ははまりこんでいた。
ハァッ、ハァッ……♡
見た目のかわいさもさることながらシャリシャリと頭蓋骨に響く歯触りもたまらない。
味とかの話じゃない、見た目が楽しいから食べてるの。きっと脳にも良質な刺激信号が行っているに違いないカラースプレー、許されるのであれば毎日好きな時に食べたいし家に常にキロ単位で常備したい。
今なら手の届く夢…
バリッ!
あれ……あなたは……
健康管理アプリ・あすけんのキャラクター、ミキさん……?
そうだ、私ってもうおやつを好き放題食べていい代謝じゃないんだ。軽い気持ちで始めたダイエットから健康意識に支配され、食べたものをアプリで管理することにハマりこんでしまった私の食事にはジャンキーなカラースプレーが入り込むような隙が一切ない。
おやつは1日200kcalまでよ
おやつ1日200kcalまでなんてさ、サク山チョコ次郎1袋で終わりだよ。
サク山チョコ次郎の袋をテープ留めしながら10時間かけて大事に食べることがあるかね。
PRなどではなく、自主的な趣味です
毎日脂質やタンパク質のグラム数をちまちまと調整し食べるものを徹底管理するオートマチックで彩度の低い生活。もうあすけんで100点を取ることでしかくすぐられない快感の部位が脳に出来ている。
チョコも砂糖もむやみに摂取できないこの日々にも慣れてしまったけど、蛍光色が鳴り止まないカラフルなパーティーのようにときめきたい感情も存在する。
彩りのいい野菜を摂ればいいんじゃないかって? それはそうなんだけど……もっとこう…
ごめんて!恐れ入ります!!遊んでるわけじゃなくて!ブラウザバックしないで!
こういうことなんです。しょっぱいカラースプレーのふりかけを作って毎日のご飯に楽しみを添えたんです! これはそんなときめきのための奮闘記。
まずは現存するチョコのカラースプレーを分析する。何がそれをカラースプレーたらしめているのか。何が私をそこまで悦(よろこ)ばせてくれるのか。
絵の具用使い捨てパレット
スーパーなどでもお馴染みの共立製菓のカラースプレーをパレットに取り観察した。どの色も欠かせないみんながオンリーワンの頼もしいチームだ。
一旦この配色を参考になるべく合成着色料を使わないルールを自分に課し、カラースプレーふりかけを作っていく。
カラースプレーってどうやって作ってるんだろ……?
業務用のカラースプレーのメイキング動画を見ても素人が手を出せるようなものではない。今もこの世界のどこかでこの作業がされていると思うと夢が広がる。
今回は粘土で作るフェイクスイーツのチョコスプレーの要領を参考に、細く丸く伸ばした生地をぶつ切りにし焼成する手段を取る。
まずは一番ハードルの低そうな茶色。出汁粉と小麦粉、醤油を合わせて練り、伸ばしていく。
ご飯のふりかけに小麦粉使うってどうなのよと思うが、家にあったコーンスターチや白玉粉などの他の粉では千切れ・ベタつきが大発生してまったく形にならなかった。生地を練りやすくしたいがために油を多用すると天ぷらの衣のように膨らんで変形してしまう。
食べ物って粘土と違って難しすぎる!
生地を伸ばし、切り、両端を丸めるようにちねり、焼くと……
熱帯魚のエサ
ではなく、茶スプレー(かつお)の完成。味もしっかりしょっぱくてサクサク感もありふりかけのテイはギリギリ保たれている。粉を練って焼いているのだからクッキーのようなものなのかもしれない。
見た目には一抹の不安がよぎるがまだ茶色だけだからね、カラー版も作っていこう。
黄色は卵の黄身マッシュににんじんパウダーを、緑はほうれん草パウダーに青汁を混ぜ込んで生地を作った。色味重視で作っているが素材だけ見ると栄養バランスも悪くない。黄色はのりたまの卵の様なほんのりとした甘さもある。
ピンクは梅シソを水につけて色素を取り出す。元のカラースプレーにはない色だけどやっぱり非現実的な色も欲しいので青も作ってみる。バタフライピーという青いハーブティーから色素を取り出してみよう。
天然素材だけでもここまで強い色が出せると嬉しい。リトルツインスターズの概念。
ピンクはそのまま梅のしょっぱい味を活かして味付け、青色はホタテ出汁を一緒に練り込んで生地を伸ばし、切る。
料理の過程であるべきではない瞬間。
地道すぎる。
とにかく過程が地味なので「♡今、かわいいものを作っているんだ♡」と定期的に心臓を強く叩かないと気持ちが折れそうになる。
でもかわいいって1日にしてならずだもんね♪ 白鳥たちだって見えないところでバタ足してるのだから(引用元:Don’t say “lazy”)
チン♪
エコペレットだ
予想以上にくすみカラーなってしまった。これじゃ近年のスリーコインズのおもちゃだよ。食べる分にはこのオーガニックな色合いが安心するけど私が求めているのはそんなヌルい色じゃない。ギンギンでギャンギャンのあの、目の覚めるようなケミカルカラー。
元ネタと比べるとだいぶアースカラーだ。本物と比べてみると、粒の大きさは置いておいてツヤも重要な要素であることがわかる。
あの均一で鮮やかで人工感のあるツヤテクスチャが非日常感を生み出していたんだ。手作りで到達することが難しい領域。
ごめんみんな!!着色料、いきます。
表面にアガーという海藻由来のツヤツヤゼリーをニスのように塗ってツヤを出す。食感はやや損なわれるがこの際わがままを言ってられないのだ。
今回に関わらず、見た目を重視して食物を作ろうとすると、味や食感がおざなりになる。見た目に重点を置いても普通に食べられるものを作れただけで大成功に等しい。映え且つおいしいご飯を出す飲食店の凄さに気づくのだ。
今までかわいいカフェなどで「見た目はキレイだけど味は普通だよね笑」みたいな評価をしてきたことが恥ずかしくなる。
↑本当に言いたいことなのでカラーにしました。
その工程を繰り返して完成。油分も糖分もない、夢と塩分だけがあるしょぱカラースプレーが。
本物と比べるとだいぶホームメイド感はあるが比べずに前だけ見て進む。
細長い粉物を練るのに飽きた頃、シリコン型などを使い星やハート型のチップも作った。そしてやっぱり欠かせない銀色のアラザン!粒状のおかきに食用の銀塗料を塗って表現した。塗料の粒子が荒かったせいかアルミホイル球みたいになっている。一寸法師youtuberが作るアルミ球。
そうして冒頭のおにぎりに戻る。アメリカンなバニラアイスを思わせるような白×カラースプレーのコントラストと日本のおにぎりのコラボレーション。これはもう異文化交流。目を瞑っているときと開けている時で味が変わる気がする。なぜかこれを食べたあと一度39.6度まで発熱した。
味は茶色のかつお醤油が味を強くリードしてくれるおかげでそこそこの調和が取れている。やや緑のほうれん草や黄色のにんじんの主張が強いが、口内でジャムセッションをしていると感じ取ることで見過ごした。
豆腐、毎日の食事にはタンパク質が重要。いつも特に工夫せず食べているのでもはやそこに感情はない、
ぅわっ
カラースプレーをかけてみたら一気に見慣れないなにかになった。
急にドレスアップされた姿に豆腐本人もやや困惑しているように見える。そんなステージ慣れしていない豆腐ちゃん、もっとゴテゴテに甘やかしたくなっちゃう。引っ込み思案の隠れ地味美少女に急にフリフリ衣装を着せたくなっちゃう時のように。
チャッ…
アイスをすくうやつ(ディッシャー)でさらにアイス度を高める!トップには小梅をチェリーに見立ててキッチュでキューティーに。
サーティーワンのいっぱい載せてくれるキャンペーンの関連ポスト、見ないようにミュートし続けてきたけどこれで1/2000くらいは気持ちが落ち着いてきました。
きゅうりだってデコればチョコバナナとタメ張れるよ。
次の夏祭りでは「チョコバナナ・冷やしきゅうり屋さん」として同じ店で横に並ぶことだって遠くない夢。豆腐のときはふりかけのゴリゴリした食感が悪目立ちしていたけどきゅうりとは相性がいい。楽しい食感になった。
嘘ブレックファスト
いや、これはまだちょっと脳への刺激が強いかもしれない。胃が急に元気を失ってくる。しつこいようだが味は悪くないんだよ。
外国ではバニラ味の土台にカラフルチョコスプレーがかかったカラフル状態のお菓子が「バースデーケーキ味」というジャンルとして確立しており、キットカットやオレオなどでもそういうバージョンのフレーバーが発売していたこともあったらしい。𝒇𝒂𝒏𝒕𝒂𝒔𝒕𝒊𝒄なことね。
なので今回の味も「バースデーケーキ味」と制定しパッケージを作った。(実際はやさい味)(やさいでもない)
大人のお子様ランチがあるならばこれも広義の”おとなのふりかけ”かもしれない。
野菜不足が気になったらブロッコリーにかけてみよう。プププランドになるから。
無機質な食事がしょぱカラースプレーによって彩られてゆく。
もうチョコスプレーがざくざくとかかったカフェのケーキのインスタ投稿を怒りのまま非表示にしなくても、いつもの食事でときめけることがあるのならば気持ちは前向きのままダイエットに励めそうだ。あと、正直ちょっと食欲減退もしている。
毎日をパーティーのようにポップでキュートにときめきながら私は、私だけは健康になってやる。
そうでしょう、ミキさん。
ミキさん…?
塩分…オーバーしすぎ……?
……
…
次回は「霞(かすみ)」を作る時にお会いしましょう。
(おしまい)