二段階の教習へ入り、教習内容も応用的なものへと変わった。

技能教習では実際の道路で一般の交通に混ざり練習を行い、学科教習も単なる交通ルールだけでなく、危険予測や交通マナー等、実際の運転において大事な判断に繋がる教習内容へと移行するのだッ!

 

 

 

「今日の学科教習ではタイヤ交換を体験しましょう!」

 

「結構力がいるからね、難しい人は言ってね!」

 

「先生ッ!タイヤが上手く外れましたッ!」

「おぉー、立花さんは力持ちだね!」

「任せてくださいッ!いつも鍛えてますからッ!」

 

 



 

 

「今日は応急救護処置の学科教習です。万一の交通事故現場では、負傷者が出る場合もあります。そんなとき僕たちのような一般市民の一次救命措置が重要な役割を担っています。いざという時のため、しっかり練習しましょうね!」

 

「事故現場では的確な判断や指示が不可欠です。大きな声を出してみましょう!」

 

 

 

「それでは、模範演技を見せましょう」

 

「もしもし、大丈夫ですか?」

 

「もしもし!大丈夫ですか!?」

 

「もしもし!?大丈夫ですか!?」

 

「さあ、やってみましょう!」

 

 

 

「もしもしッ!大丈夫ですかッ!?」

 

「呼吸が止まっていますッ!」

 

「お願いッ!生きるのを諦めないでッ!!」

 

 

「あそこまで真剣にできないよねw」

「チョー恥ずかしいよねww」

「こら!真剣にやってる人を笑ってはいけないよ!それに、もし君たちや大切な人が事故に巻き込まれた時、あんな風に率先して救護をしてくれる人がいたら、心強くないかい?」

「はい…」

「すみません…」

(…とはいえ、立花さんの言動は時々変だ。何が彼女をあんなふうに突き動かすんだろう)

 

 

 

「すごいよ立花さん!立派な演技だったね。どこかでやったことがあるの?」

「いえッ、やったことは無いんですけど、私、前に事故で死にかけちゃったことがあって…」

「!?」

「その時命懸けで助けてもらった私の命で、人助けができたらなって思うと、つい気合いが入っちゃいました。恥ずかしいですよね」

「そんなことないよ立花さん!」

「ッ!?」

「君のその経験が誰かへの思いやりに繋がっているんだね。車の運転に一番大切なのが、その思いやりの心を持つことなんだよ。君はきっと、良いドライバーになる。だから自信を持って君の意志を、貫いてほしいな」

「本当ですかッ!?」

「まあ、運転技量はまだまだだけどね!」

「またまたーッ!普段あまり褒めてもらえないので、もっと遠慮なく褒めてくれてもいいんですよ?」

「調子に乗るな!」

(先生の言葉、すごく嬉しかったッ!私はこれからも私の正義を信じて、握り締めていくんだ…ッ!)

 

 



 

 

「さて、あと少しで卒業検定です!これまで練習してきたことをしっかり思い出しながら、今日の教習も頑張りましょう!」

「はいッ!」

「おっ、早速…」

 

「横断歩道は歩行者優先です。歩行者がいる場合には必ず一時停止を…」

 

「!?」

 

「!?なんだあれは!?」

 

「人が!煙みたいに消滅した!!」

 

「まさかッ!こんなところにノイズがッ!?」

「ノイズ!?あんな怪物が実在するのか!?アニメじゃあるまいし!」

「先生ッ、あれに触られてしまうと身体を炭素に転換・分解されてしまいますッ!逃げてくださいッ!」

「逃げろって言ったって、あんなにたくさんいるのに!」

「ここは私が食い止めますからッ!先生はそのうちに避難をッ!」

「そんな!立花さんだって危険だ!一緒に逃げよう!」

「だとしてもッ!」

「!?」

「私の趣味は、人助けですッ!」

「馬鹿なことを言うな!死んだらどうするんだ!」

「死んでも生きて帰りますッ!」

「!?」

「私は私の正義を信じて握りしめる…だから先生、生きるのを諦めないでくださいッ!」

「あっ、おい!」

 

 

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 

 

「これは…歌?」

 

カッ

 

 

「いっちゃえ響ッ!ハートの全部でッ!」

 

 

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

 

 

 



 

 

「撃槍・ガングニールだあああああッ!」

 

「一番槍、吶喊しますッ!」

 

「最速でッ!」

 

「最短でッ!」

 

「真っ直ぐにッ!」

 

「一直線にーッ!」

 

 

 

(それから程無くして、国連直轄のS.O.N.G.とかいう組織の人たちが助けてくれた。どうやら立花さんはこの組織の一員らしい。立花さんも、あの後何事もなかったかのように、自動車学校で元気な姿を見せてくれた)

 

 

(ノイズと呼ばれた怪物、それに立花さんのあの力…気になることは多いけれど、守秘義務として今回の件は他言しないように約束させられた。関わることで場合によっては家族や身内に危害が及ぶとのことだ。まるで脅しのようだけど、あれだけの脅威なら民間人を巻き込まないためにも仕方ないのかもしれない。俺だって、変に首を突っ込みたくはない)

 

 

 

 

「それはそうと、今回のケースでは教習を規定通り行ったと認められません。今回の教習は欠落です。原簿に判は押せないよ」

「そんなぁー」

 

 



 

 

「先生…無事に免許が取れましたッ!」

「おめでとう、立花さん!」

「これも先生のおかげですッ!免許を取ったら私が運転してドライブに連れてってあげても良いんですよー?」

「それは遠慮しておくよ。立花さんはおっちょこちょいだからね!それに…」

 

 

 

「ドライブなら、さっきから睨みを効かせてる小日向さんを連れてってあげなよ!」

「そうだよ。響と一緒に流れ星を見に行くんだからッ!」

 

 

 

「…立花さんはこれからも、あの力で人助けを?」

「この胸の歌を託された時から、これは誰かを守り、手を繋ぐための力なんです。胸の歌がある限り、私は戦います」

 

 

「…それにこの運転免許証も、誰かを守るための力だと思います。先生に教わったこと、私、決して忘れませんッ!」

「…立花さんの人助け、影ながら応援してるよッ!」

「はいッ!ありがとうございますッ!」

 

 

(こうすることが正しいって信じて握っている…だから、誰かと繋いだこの手も、運転免許証も、簡単には離さないッ!)