某日、オモコロ運営会社・バーグハンバーグバーグにて……

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 

「あ、お疲れ」

「お疲れ様です」

「今日は記事の打ち合わせだっけ?」

「はい。すいません、わざわざ時間作ってもらっちゃって」

「いやいや、全然大丈夫ですよ」

 

 

「どう、オモコロで記事書くのにも慣れてきた?」

「まあぼちぼちって感じですね」

 

「最近は新人のライターさんも勢いがありますからね。彩雲さんにも期待してますよ」

「ははは、ありがとうございま……」

 

 

「………」

「………」

「……どうしました?」

「……無い」

「え?」

 

 

「ヤスミノさんの会話アイコンが無い!!!」

「は?」

「いや、だから会話アイコンが無いじゃないですか!」

「本当だ! 確かに今日ずっと何かおかしいとは思ってたけど……」

「ちょ、ちょっと待ってください。会話アイコンって何?」

「会話アイコンっていったら、よくウェブ記事に出てくるあれですよ! 会話文の前に置いて、誰の発言かわかるようにするための……」

「そう、これだよこれ」

「これですね」

「いやまあ、確かにオモコロの記事にはよく会話アイコンが出てきますけど……」

「会話アイコンが無いと記事に出られないですよ!」

「そんなこと言われても……一体どうすればいいんですか」

「とにかくこのままじゃ困るから、とりあえずこれ使っときなよ」

 

 

「……何ですかこれ」

「ヤスミノさんのGoogleアカウントの初期設定のアイコンじゃないですか」

「こんなのでも無いよりはマシだからさ。本物のアイコンが見つかるまでこれで我慢してよ」

「はあ……」

 

 

「……これで大丈夫ですか?」

「このアイコンで喋ってるとYouTubeのコメントみたいですね」

 

 

「それにしても、ヤスミノさんの会話アイコンはどこに行っちゃったんでしょうか」

「本人は何か心当たりはないの?」

「いや全く……そもそもアイコンを所持した覚えがないので」

「そうか……でもまあ、あるとしたらあそこだろうな」

 

 

「会社の倉庫」

「ずいぶん散らかってますね」

「記事で使ったものとかを全部放り込んでるからね。もしかしたらこの中に紛れ込んでるのかも」

「じゃあ、早速手分けして探しましょう!」

「よくわからないですけど、これって僕も手伝った方がいいんですか?」

「いや、ヤスミノさんはおとなしくしといてください。身体に障るといけないので」

「病人として扱われてる?」

 

 

「あっ!」

「見つかった?」

「いや、あるにはあったんですけど……」

 

 

「なんかめちゃくちゃ笑ってるやつで……」

「豪傑の笑い方だ」

 

 

「なんでこんなものが倉庫に……」

「これ何の写真なんですか?」

「僕が昔書いた記事の写真ですけど……」

「まあ、まずはこれを試してみようか」

 

 

「………」

 

「どうだ……?」

 

 

 

ワーッハッハッハッ!!

「笑った」

「声でっか」

 

 

「まあ、こういう人が一人いると会社の空気も明るくなるんじゃないですか」

「どうだろうな……ヤスミノ自身はどう思う?」

 

 

 

ワーッハッハッハッ!!

「ダメだ、話が通じない」

「一旦取り外しましょう」

 

 

「どういうことなんですかこれ……」

「まさかアイコンがここまで如実に人格に影響を及ぼすとは」

「他のアイコンがないか探してみましょう」

 

 

「あっ!」

「ありましたか?」

 

 

「これは落ち着いてる感じでいいんじゃない?」

「落ち着いてるというか、落ち込んでるように見えますけど」

「これは以前、僕がオフィスでお茶をこぼしちゃった時の写真ですね」

「なんでそんな時のアイコンがあるんですか」

「それはこっちが聞きたいです」

「まあ、とりあえず試してみよう!」

 

 

「………」

 

「いけるか……?」

 

 

 

「僕はなんて駄目な人間なんだ……」

「やっぱりこうなっちゃうか……」

「だいたい予想はできましたけどね」

「何をやってもうまくいかない……生き恥を晒すだけの毎日……」

「この前、街でスターバックスを見かけて入ってみたんですよ……」

「え、何? そういうピン芸人?」

「コーヒーを注文したら『サイズはどうしますか?』って聞かれたんですが、その読み方を間違えて店員さんに笑われてしまって……」

 

 

「恥ずかしさのあまり、つい自分の母子手帳を燃やしてしまいました……」

「尖りすぎじゃない?」

「何をやってもうまくいかない……生き恥を晒すだけの毎日……」

「他のネタを見てみたい気もするけど、もういいです」

「別のを探してみるか……」

 

 

「……あっ!」

「今度こそあった!?」

 

 

「これはすごいですよ」

「スーパーおちゃらけヤスミノじゃん」

「なんでこんな写真ばっかり……」

「まあ、ここまできたらとりあえず試してみましょう」

 

 

「………」

 

「……どうですか?」

 

 

 

「ユーモアとは、人を和ませるような《おかしみ》のこと。日本語ではこうした表現を諧謔(かいぎゃく)とも呼ばれ、『有情滑稽』と訳されることもある」

「は?」

「冒頭では仮に辞書の簡単な説明を挙げたが、実際にはユーモアの明確な定義は困難である。多くの作家や哲学者が定義を試み、解説し解釈しようとしてきた歴史がある。ユーモアは、それがイギリス人の気質と親和性が高いことから、イギリスを中心に発達したものが(世界的に見て)特に知られている。イギリスにおけるユーモアの発展の背景には、美術や文学の分野における古典主義への抵抗があったと考えられている」

「何言ってんの?」

「これは……『ユーモア』のWikipediaを読み上げているようですね」

「なぜそんなことを……」

「おそらく、何が面白いのか考えすぎておかしくなってしまったんじゃないでしょうか」

「そこまで追い詰められた上での『あれ』だったのか……」

 

 

「ユーモアのセンスというのは、聞き手と自分を対等に扱う、という心の姿勢であり、また、受け取り手にとっては自分が使おうとしている表現が一体どう感じられるかということを相手の身になって想像すること、『思いやり』である」

「勉強になります」

 

 

 

 

 

「ちょっといい加減にしてくださいよ! 全然まともなアイコンが無いじゃないですか!!」

「すいません……」

 

 

「一応もう少し探してみたんですけど、あとはしんべヱのアイコンしか見つからなくて……」

「なんでそれはあるの?」

 

 

「やっぱりダメだったか……」

「こうなったらもう仕方ない……」

 

 

「作ろう」

「え、原宿さん会話アイコン作れるんですか!?」

「いや、俺も作ったことないけど。でも発注するとなると1ヶ月はかかっちゃうし、その間ずっとアイコンが無いのはさすがに問題だからさ」

「確かに、僕たちが作るしかないか……ヤスミノさんもそれでいいですか?」

「よくわからないけど、まあいいですよ」

「それじゃあ頑張って作るぞ!!」

 

 

 

〜2時間後〜

 

 

 

 

「……よし、できたぞ!」

「もしかして途中で何らかの薬品を使う工程がありました?」

「まあ、まずは見てくださいよ」

 

 

「どう? 初めてにしてはけっこう上手にできたと思うけど」

「おお……まあ、確かにちゃんとしてるように見えますね」

「いや、まだ完成じゃないですよ。最後はヤスミノさんに仕上げてもらわないと」

「え?」

 

 

「このアイコンを胸に抱いて、自分のマイナンバーを3回復唱してください。そうすることで正式に会話アイコンとして使えるようになりますから」

「なんだそのシステム……ていうか、今マイナンバーカード持ってないんですけど」

「じゃあ、一番好きな『さよなら絶望先生』のキャラの名前を3回でも大丈夫ですよ」

「なんでそれがマイナンバーの代わりになるの? でもまあそれでいいなら……」

 

 

「小森霧! 小森霧! 小森霧!」

 

 

「……これでいいですか?」

「もっと強く抱きしめて!!」

「は、はい」

 

 

「……これで大丈夫です。それじゃあ、試してみてください」

「……わかりました」

 

 

 

 

「………」

「……どうですか?」

 

 

 

「……特になんともないです」

「……え、本当に大丈夫? 意識ははっきりしてる!?」

「はい、大丈夫です。完全にいつも通りですね」

「てことは……?」

「成功だ!!!」

「やったーーーー!!!!!」

 

 

「まさか本当に成功するとは……」

「僕らみたいな素人が会話アイコンを作れたなんて奇跡ですよ。原宿さん、実はめちゃくちゃ才能あるんじゃないですか?」

「マジで? じゃあオモコロ編集長辞めてアイコン職人になろうかな」

「いやいや、オモコロあっての会話アイコンですから(笑)」

 

 

「………」

「……あの」

「……なんか、ありがとうございます」

「どうしたんですか、急に改まって」

「いや、最初はこの人たち何をしてるんだろうと思ってたけど、僕のためにいろいろ頑張ってくれてたと考えると、素直に嬉しくて」

「ははは、なんだよそれ」

 

 

「恥ずかしいことを言うようですけど、良い仲間と巡り会えたなって」

「原宿さんは後輩思いの良い編集長だし、彩雲さんもそんなに関わりのない僕のためにここまで頑張ってくれて……」

「僕、このアイコン大切にしますよ。今までは会話アイコンのことなんて気にしたことなかったけど、これは特別です」

「2人とも、今日は本当にありがとうございました」

「………」

 

 

「……どうしました?」

「……いない」

「え?」

 

 

 

 

「ヤスミノさんのアイコンからヤスミノさんがいなくなってる!!!」

「何言ってるの??」

「アイコンがもぬけの殻じゃんかって!!」

「これはまずいですよ……一体どうしたらいいんだ……」

「さ、さあ……」

「……あれ?」

「はい?」

「なんか戻ってきてません?」

「何!? どういうこと!?」

「本当だ、戻ってきた! どこ行ってたんだこいつ!」

「しかも何か持ってませんか!?」

「怖い怖い!  僕のアイコンで何が起きてるの!?」

 

 

 

「………」

「え……?」

「こいつ何持ってるんだ……?」

 

 

 

「拳銃だーーーーっっっ!!」

「???????」

「外せ! 早くアイコンを取り外せ!」

 

 

「本当だ、確かに拳銃持ってる……」

「なんでこんなことに……」

「おそらく、ヤスミノさんの小森霧を想う気持ちが強すぎたんでしょうね。そのせいで会話アイコンに自我が芽生えてしまい、現実のヤスミノさんと成り代わろうとしたんじゃないかと」

「僕ってそんなに小森ちゃんが好きだったんだ……」

 

 

「……すいません、僕が小森霧を好きすぎたばっかりに」

「いや、ヤスミノは悪くないよ。俺たちが会話アイコンを作ろうってのがそもそも無理な話だったんだ」

「やっぱりプロに作ってもらわないとダメですね……」

「そうだね……じゃ、発注するか」

 

 

 

 

〜1ヶ月後〜

 

 

 

 

「届いたよ、新しいアイコン!」

「やっと来たか……この1ヶ月間、ずっとアイコンがダサすぎるってバカにされてたからな……」

 

 

「どれどれ……」

 

 

「……え?」

 

 

「………」

 

 

「………」

「………」

 

 

 

いや、リクナビNEXTのアイコンやないかい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなことなら……

 

 

 

 

 

こんなことになるなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと、ご先祖様を大事にしておけばよかった…………