「ふー。お疲れ様です」

「あ、お疲れ様です。準備終わってますよ」

 

撮影を終え、原宿さんが再びスタジオに訪れる。

 

俺が禁忌を犯した事などつゆ知らず。

 

 

 

助六る

 

いよいよ仕上げ。寿司を寿司たらしめる工程。

 

 

ばふぁ

 

 

 

 

炊きあがった米に寿司酢を和え、水分を飛ばしながら冷ます。

 

「……やべ!うちわ忘れた!

「これでいこう」

 

 

 

差し出されたのはシート型のまな板だった。

握りづらくてまた握力が破壊される。クリフハンガーに挑まされるのか俺は。

 

 

 

出来上がった酢飯のうち、稲荷寿司の分には煎り胡麻を混ぜておく。

 

 

ここから先の作業は食品用手袋をつけて行う。

衛生上の観点もあるが、手袋をしているとご飯が手にくっつきづらくなり作業がしやすくなる。昔スーパーの惣菜部で弁当を作っていた時に得た経験だ。

 

 

稲荷用のシャリ玉を作っていく。手にお揚げの煮汁を少しつけ、シャリを握る。

 

 

形は詰めた後に整えるので形は大雑把でいい。

 

 

そして煮汁を適度に絞ったお揚げの口からシャリを詰め、形を整える。

 

 

 

本来の握り寿司とは全く違う工程なのに、形を整えようとするとそれっぽい手つきに収束するから不思議だ。

 

 

黙々と稲荷寿司を握り続ける。今この瞬間、俺は間違いなく寿司職人だ。

 

 

 

 

 

多いなー……

多いですね……

 

そして作り過ぎた。3世帯家族の行楽弁当位の量がある。

 

 

 

気を取り直して太巻きに取り掛かる。

 

皆さんは巻きすで巻き寿司を作った事があるだろうか。俺はない。

なんとなく難しそうだが、どう難しいのかも検討がつかない。それ位日常から遠い作業。

 

 

 

 

念の為、前もって「誰もお前を愛さない」用の写真は撮っておいた。

 

 

海苔の上にうっすらと酢飯を広げ、具を載せていく。きゅうり、干瓢、卵焼き、刻んだ椎茸、そして桜でんぶ。改めて見ると太巻きは本当に具沢山だ。

 

 

この際手前側に安定した具材、奥側にバラけやすい具材を乗せるといいらしい。(細かい事はこのページ見て下さい)

 

 

後はこう……なんか……ぐいーっと包むように適当に持っていって……

 

 

なんか……巻けたなぁ……ってなったら

 

 

引き絞るように形を整える。この辺はもう完全に感覚でやった。

 

 

そしてなんとかなった。ちょっと酢飯が偏った気がするが崩壊したりはしなかった。なんとかなるもんだなぁ。

 

 

後は包丁でスパッと……

 

 

 

あ!割れた!

海苔の端が外側に折り畳まれていて、周囲を一周していなかったようだ。

 

 

落ち込む必要はない。取り返しのつく失敗ならやり直せばいい。人生や卵焼きと同じ。

 

 

 

リカバリー完了。

 

 

後はさくさく切っていくだけ。

 

 

一太刀入れるたびに濡れ布巾で包丁をきっちり拭えば難しい事はない。

 

 

 

コツを掴んだのでどんどん巻いていく。精度も上がって市販品と遜色なくなってきた。

 

 

 

がしゃーん
    がしゃーん

太巻きロボだよ

 

ついでにかんぴょう巻も作るすごいやつだよ

 

 

 

仕上げる

 

 

折角なのでパックに詰める。

 

 

助六寿司はパックに詰まっていてこそだからだ。

 

 

 

 

出来た。

 

 

「売ってるやつだ」

 

 

完全に売ってるやつになった。

 

それがいい意味でかは分からない。

何時間もかけて、様々な手間をかけて、万感の思いで作り上げた助六寿司。それが今、目の前で「スーパーとかで売ってるやつ」の気配を放っている。

 

あんなに苦労したのに、最終的になんとなく買い物かごに突っ込まれる弁当の見た目になった。半額シールが似合う。

太巻きが上手く巻けすぎたのが原因かもしれない。あんまり手作りっぽさがない。

 

 

 

ハンドメイドを褒める際の常套句「売り物みたい(お手製とは思えない)」が褒め言葉にならない事もあるのだな。

 

 

 

……とりあえず食べよう。頂きます。

まずは稲荷寿司。

 

 

……

 

 

 

……うま……

噛み締めた瞬間、口の中に溢れ出す煮汁。(二回目)

 

うどんの時は甘さが際立ったが、甘みのある寿司飯と一緒だと、今度は出汁の風味が強調される。

一般的な稲荷寿司より大分甘さ控えめの仕上がり。緩めに絞った分大量の出汁を含んでいて口の中でシャリがホロホロと崩れていく。

 

 

完璧だ。誰に出しても恥ずかしくない稲荷寿司だ。

 

 

 

続いて太巻き。何故か市販品より小さめに感じる。

 

 

……!?

 

 

知らない食べ物だ……

 

口に入れて、まず椎茸の風味が先陣を切る。

その後は全体的に「甘さ」に舵を取りながら、それぞれの具材がしっかりと自己を主張する。太巻きの具材全てに「そこにいる意味」がある。

 

そして桜でんぶ。

今までただ彩りの為だけに使われていると思っていたこいつが。
チョコスプレーやグリーンピース以下の存在だと思っていたこいつが。

今、しっかりと胸を張って「魚介代表」として存在している。

 

 

ちゃんと作った太巻きって、こんなに美味いんだ。

……いや、もしかすると太巻きはずっと美味かったのかもしれない。

自分が苦労して巻いた事で、俺は初めて太巻きと向き合った。そうしなきゃ太巻きの美味しさには気付けなかったのかもしれない。

 

 

俺は、この太巻きに反省を促されているのかもしれない。

 

 

ここまで全部かもしれない運転で来たが、後日スーパーで普通の助六を買ったら全然そんな事なかった。俺の作った助六寿司の方が完全に美味い。

 

 

 

原宿さんにも食べて頂いた。

 

 

 

 

美味い!売ってるやつより美味い!」

 

実際、稲荷寿司を売るなら煮汁をしっかり絞らないとすぐにシャリがベチャベチャになって美味しくないだろう。

でも今回はすぐ食べる前提だったので、店売りと比べて煮汁を多分に含んだまま作れた。手作りのアドバンテージを活かしきったが故の美味しさだ。

 

 

 

美味い!!!

 

「太巻きも美味いね~。これもっと桜でんぶ入れてもいいかも」

 

今回は一般的な太巻きの感覚で桜でんぶを入れたが、もっと主役に躍り出る位の量を入れてもよかった。なんなら桜でんぶだけの巻き寿司を作ってもよかった。そう思う位この桜でんぶは美味かった。苦労が報われたような気がした。もう二度と作りたくない。

 

 

差し入れる

 

 

 

それにしても作りすぎたので、バーグハンバーグバーグ本社の方に助六寿司をお届けする事にした。

 

期せずして、これが人生初めての「作りすぎちゃったんでお裾分け」になる。これ本当にやる人いるんですかね。

 

 

 

まずは仕事中だったARuFaさんに。
(仕込みとかではなくここで仕事をしていた。デスクは……?)

 

 

「すみません。ちょっと助六寿司を作りすぎたので食べてみて貰えますか?」

 

 

「え!?これ全部手作りなの?!

「そうなんです」

稲荷も?

「はい」

太巻きも?

「そうです」

もしかしてガリも…?!

「すみませんそれは売ってるやつです」

 

 

ARuFaさんは結構稲荷寿司が好きとの事で、和菓子屋で売っている稲荷寿司を買ったりするそう。

わかる。団子屋のおにぎりとかもつい買ってしまう。

 

 

 

美味い!!!出汁が活きてる!」

「ありがとうございます!」

 

 

「太巻きもうめー!椎茸が美味い!」

「あざっす!」

 

 

 

かまどさんもいらっしゃったので食べて貰う。(箸は別の物を用意してます)

 

「顔が嘘すぎ」

 

 

 

「……うん。美味しいけど……」

「ありがとうございます!」

 

 

「稲荷も美味しい!」

 

 

「……美味しいけどなんで助六寿司作ったの?なんか変なの入ってたりしない?

 

「それは……」

 

 

 

今日は、助六寿司を作る日だった、という事です」

「???」

 

 

突然助六寿司を作ってくるという状況が不審過ぎて疑心暗鬼にさせてしまった。

……それにしても。

 

 

 

嬉し。

滅茶苦茶大変だったし、この手間を他の料理に費やしていたらもっと凄いものが作れていたかもしれない。

でも、「美味しい」と言ってもらえるだけで、全ての苦労が、苦労した分だけ喜びに変換される。

 

頑張ってよかった。また飯の記事書こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

桜でんぶが余ったので後日こんな弁当を作った。

 

 

トトロに出てくるアレだ。

 

目一杯詰められたご飯の上に、梅干しと小さな目刺し、それに緑の豆とたっぷりの桜でんぶ。「となりのトトロ」を見た人なら結構印象に残っているはず。

子供の頃からずっと「あの弁当何をおかずにご飯食べたらいいんだ」と思っていた。が、今なら解る。

 

 

ちゃんと作った桜でんぶは上等なふりかけだ。程良い甘みと魚の旨味でご飯が進む。

 

 

なんなら追加で山盛りにしちゃう。めっちゃ美味い。

 

この美味しさは桜でんぶに対する意識が変わるので、興味のある人は是非試して欲しい。

俺は二度とやりません。