―某月某日、都内某所
その日、ひっそりと闇賭場が開かれた。知る人ぞ知る会員制クラブである。
ギャンブル中毒の血に飢えた狼が4人、勝負の戸を叩いたのだった。
生まれたときから、親に与えられたおもちゃはチンゲとトランプのみ。
年齢=チンゲポーカー歴だと豪語する、チンゲポーカーの申し子。
卓上ではどんなことがあっても感情を表に出さない鉄壁のポーカーフェイス。
相手のチンゲが最後の一本まで抜かれるその時も、彼は眉ひとつ動かさない。
ブラフ(ハッタリ)を得意戦術とする凄腕チンゲラー。
カジノ客を食い殺す”詐欺師”という通り名で恐れられている。
肌が弱いため、いつも自分でチンゲを剃っているという噂がある。
チンゲポーカーの腕は果たして…?
いずれのチンゲラーも己の強運・技量を疑わないその道のプロばかりだ。
そう、歴史に残る戦いが今始まるのだ…。
誰も一言も喋らなかった。
賭場特有の重たい空気がその場を支配する中、勝負は始められた。
ここで読者のみなさんにチンゲポーカーの説明をしておこう。
チンゲホールデムと呼ばれるこのポーカーは欧米諸国で最もポピュラーなポーカーだ。
その最大の特徴は、初期手札にある。
なんと自分の手札は2枚だけなのだ。
この2枚は交換することも許されず、1ゲームが終わるまではこれで固定である。
配られた2枚を確認するとスモールブラインド、ビッグブラインドと呼ばれる
位置の者が規定の場代を強制的にベット(賭けること)しなければならない。
スモールブラインド=セブ山
ビッグブラインド=原宿
ビッグブラインドは二本。
スモールブラインドはその半分の一本をベットする。
その他のプレイヤーは順番に
コール(掛け額を合わせる)、レイズ(上乗せ)、フォールド(降りる)のいずれかを選ぶ。
「…俺はフォールドだ」
「じゃあ俺はコール」(二本に合わせる)
全員の賭け額が等しくなると、場にフロップと呼ばれる3枚がめくられる。
この場にあるカード(最終的には5枚まで増える)と自分の手札2枚を組み合わせ、
手役が高いほうが勝ちなのだ!
そして、また同じようにプレイヤーはコール、レイズ、フォールドを選択する。
レイズを行う者がいなければ、チェック(何も賭けない)で回すこともできる。
「おりゃあー! レイズじゃあーー!」
「なに? 4本も? こいつどんな手が入ってやがる…」
「くそっ…! フォールドだ…」
「俺はコールだ」
全員の賭け額が同額になると、ターンと呼ばれる4枚目のカードがオープンされる。
画面上部にあるのが、今まで賭けられたチンゲをまとめたポッドと呼ばれるもので、
このゲームの勝者はポッドのチンゲ全てを得ることができる。
「二本のレイズ」
「当然コールだ」
「(ククク、そのシャネルのようなチンゲも、もうすぐ俺のものに…)」
そして最後のカードとなる、リバーが場にオープンされる。
「むぅぅぅぅ~~~~んん!!!」 ぶちぶちぶちっ
「10本のレイズだぁ…」
「10……。く…。コ、コールだ」
リバー(5枚目の場札)の段階で、全員の賭け額が合うと
互いの手札をオープンし、いよいよ手役での勝負となる。
永田の手札は
セブ山の手札は
場札は
場札5枚、手札2枚、合計7枚の中から最強の5枚を選び勝負する。
つまり
永田の5枚は (Kと3のツーペア)
セブ山の5枚は (Kと6のツーペア)
ということで、セブ山の勝ち!
賭けられたチンゲは全てセブ山のものに!
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~~!! チンゲじゃ~~~!!!
大事にしてあげるからね~~! 僕だけのチンゲちゅわ~~~ん!!!」
「クソ、降りるべきだったか…」
第1ゲームから、永田は合計18本ものチンゲを失い、手痛い出費となった。
続く、第2ゲーム。
ビッグブラインド=加藤
スモールブラインド=原宿
「どうした? 早く賭けなよ? あんた、ビッグブラインドだぜ?」
「…だんな、十本回してくれねえかい?」
「は?」
「だからさ、十本ほどチンゲを貸してくれよ」
「はあ?」
「てめえ!さてはパイパンでここに来やがったな!?」
「ひ、ひぃ~!! ごめんちゃい~!!」
「素寒貧に用はねえ!! とっとと失せやがれっ!!」
人のチンゲで博打は打つな
「わははは!! まったく、貧乏人はいやだねぇ」
「って、あああ~~! 俺のチンゲがなくなってるぅぅ~~~!!」
なんと、今のいざこざの間にセブ山のチンゲが吹き飛んでしまったようだ。
「誰や!!俺のチンゲを『ふぅ~~!』ってした奴!?」
「さあ、知らないねえ…?」
「セブ山さん。自分のチンゲぐらい自分で管理しなよ」
「くっそおぉぉ~~!! 俺としたことがぁ~!!」
これで先ほどのアドバンテージも文字通り吹き飛んでしまった。
誰も信じるな。全員泥棒だと思え
しかし、その後もセブ山の好調は止まらなかった。
~2ゲーム目~
「オープン!」
「うっへっへっへぇ~、俺の勝ちぃ~~」
~3ゲーム目~
「ん~、どうしたの? 降りるの~???」
「…フォールドだ」
「うシャシャシャシャ! じゃあ、このチンゲはボクちゃんのもの~~~!!
ンチュパパパパパパパパ~~~!! チュパチュパチュパ~~ン!!」
セブ山好調のあおり食らい、チンゲを払い続ける原宿。
「(おかしいな、そろそろチンゲが尽きてもおかしくない頃だ…。
原宿のチンゲはそんなにジャングルなのか…?)」
次の4ゲーム目も負けが決まったとき、
ポーカーフェイスの原宿にしては珍しく、頭を抱えた。
「くっそ~~!!」
「おっと、そいつはいけねえな。
いくらパーマがかかっても髪の毛はチンゲの代わりにはならないぜ?」
「貴様ぁ~!! さっき俺に払ったチンゲは偽物か!! チュパって損したわ!!」
「ひ、ひぃぃ~~!! 許ちて~~~!!」
命が惜しければイカサマはするな!
とうとう永田とセブ山の一騎打ちとなったチンゲポーカー!
そして、ここでセブ山に勝負手が入る!
エース2枚の初期ハンドは通称”ロケット”と呼ばれる
勝率85%を超える最強のハンドだ!
「(ククク、ここでこれが来るとは…。とことんツいてやがるぜぇ…!!)」
「5本のレイズだ。」
「受けよう。コールだ」
フロップでめくれた3枚は
「(エースの3カード…! これでもう負けるわけがねぇ…)」
「うへへ、20本のレイズ…!」
「…コールだ」
ターンでめくれたのは
「さらに20本レイズ!」
「コール」
そして、最後の5枚目、リバーは
「(おそらく、永田の残りチンゲは約30本と見た…! ここで殺してやる…!)
30本のレイズだ! 」
「ならば俺もレイズ。その30本にさらに上乗せだ」
「レイズだとぉ!? バカな! もうお前にチンゲはないはず…!」
「ふ、まだ金玉の裏の毛が残ってるぜ」
「き、金玉の裏の毛!? よ、よせ! そんなとこ抜いたらめちゃくちゃ痛いぞ!!」
「ぬおおおおおおオオオオオ~~~~~~~~~!!!!」
ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちっ
「オールインだ…」
※オールイン:全てのチンゲを賭けること
「うっ…。コ、コ、コ、コールだ…。
(だ、大丈夫だ、このハンドが負けるはずない…!)」
オープン!!
「どうじゃ!!! 俺のハンドはエースの3カードじゃああ~~!!!!」
「俺のハンドは2と3」
「わははは!!! なんだその弱いハンドは!!!! わはははは!!」
「って、あああああああああ~~~~~~!!!!」
「そう、A・2・3・4・5のストレートさ。俺の勝ちだな」
「グギギギ…。嘘や嘘や…。俺が負けるなんて…。嘘や嘘や嘘や~~!!!」
「ヒョお~~~!!!! このチンゲが全部俺のもの!!!!」
「うっひょ~~!! 億万長者だ~~~~~い!!!」
「そこまでだ!! 貴様を逮捕する!!」
「な…、お、お前は…!」
「素寒貧の加藤!?」
「”連邦警察の”加藤と呼んでもらおう。チンゲ賭博の現行犯で貴様を逮捕する」
「な、なぜ…」
「ここで超高レートの賭場が開かれるって噂を聞いたんでね。おとり捜査さ。
まさか、パイパンでチンゲポーカーに来るマヌケが本当にいると思ったか?」
「くっそ…。よりによってサツに目を付けられてるとは…。ツイて…ねえや…」
「このチンゲは当局が押収する!」
「…好きにしろ」
「ようし、これで誰もいなくなった。ここにいるのは連邦警察の俺とチンゲだけ…」
「なぁ~~んちゃって! 俺がサツのわけねえだろ!
これで、このチンゲはぜぇ~~んぶ俺のもんだ~~~!!! うひゃひゃひゃ~~!
わざわざポーカーで勝つなんてバカのすることさ!! ご苦労さん!」
す~は~す~は~
「ん…。こいつぁ上質なチンゲだぁ…!! ヒノキの匂いがしやがるぜ!!」
す~は~す~は~
「ようし! んじゃいつものアレいっとくか!」
「こうやって、顔にチンゲを貼りつけたら…」
「ダーリンは外国人」みた~~~い!!
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