オランジェットというお菓子がある。

オレンジなどの柑橘の皮や輪切りにしたものを砂糖漬けにし、チョコレートでコーティングしたお菓子。皮の爽やかな苦味チョコの濃厚さのハーモニーがおいしくてついパクパク口に運んでしまう。

でもそんなオランジェット、食べやすさに反して割と高級品だ。いつも1本を舐めるようにチビチビと食べては思う、

心ゆくまで食べたい、と。

 

さらに欲を言うなら、大量に何度も口に運ぶのは忍びないので長くてデカい1本のオランジェットを食べてみたい。

仕方ないくらいデカいオランジェットをやれやれ…笑と思いながら食べきりたい。チュロスのように。ナイススティックのように。

しかしオレンジ1つから取れる皮の大きさは限られている、デカいオランジェットを作るためのデカい皮はどこに……。

 

世界最大級の柑橘、晩白柚(ばんぺいゆ)で作ったら満足のゆくオランジェット……いや、ばんぺジェットが作れるのではないか。

ぺいゆジェットのほうがいい?バンペイェットか?

 

熊本が名産らしい(九州物産展で購入)

そんな夢を抱きつつも数年出会えなかった晩白柚を偶然街中で発見し即購入した。

専用の透明な袋に入っていたため、ボーリング玉のような晩白柚は電車でも人の注目を集めた。

でかい果物を持って街を歩くと少し誇らしくなる。ばんぺパワー

 

でか〜い(上に乗っているのは柚子)

なかなか調理する決心がつかず何日か家に置いていると柑橘の爽やかな香りが部屋中に広がりしばらく気分が良かった。大きな柑橘には大いなる香りが伴う。

 

ぱんぺジェット(晩白柚ジェット)を作る

ゴクリ……

晩白柚を前に包丁を持つと一種の覚悟が生まれる。切るというよりも「捌く」「解体する」という面持ちだ。

せっかくなら通常の縦切りより、最大限皮を長く使えるように一周ぐるりと切ったら良いのではないか、でも縦切りも捨てがたい。失敗できないのでいろんな切り方をしてみよう。

 

スマブラの球?

 

皮の下のワタがふかふかと厚いので可食部は外見ほど巨大ではないがそれでも一房がでかい。香りはグレープフルーツに近いが中身はそれほどすっぱくなく、穏やかに食べられる親しみやすい味だった。

 

はかりが小さすぎて乗り切らずタワーバトル状態に

富澤商店のレシピによると、砂糖は皮の重さの7~80%の分量を入れるらしい。皮だけで375gくらいあるので…砂糖は300g!?恐ろしいこと…

 

 

皮のアクを抜くために4回ほど茹でこぼし、砂糖を加えて30分ほどクタクタになるまで煮込むと透明感も出ておとなしいビジュアルに。

この時点でつまみ食いをしたが、あの大量の砂糖が嘘だったかのように口の中が痺れるようなエグみと苦味とが広がった。こんなに手をかけてもまだアクって取れないの!?

豚肉のアクや米とぎをあんまり理解していない私でもこれだけははっきり言います。

 

<強調します>

アク抜きはめんどくさくてもやったほうがいいぜ!

</強調しました>

 

脱皮みたいだ

ここから怒涛の乾燥ウィークに突入する!乾燥を怠るとベチョベチョするので入念に。

本来であればオーブンを使いたいが持っていないので、魚焼きグリルで1分程度加熱(慎重に!)電子レンジで30秒チン(慎重に!)晴れた日に天日干し(大胆に!)をローテーションし、その後は1週間窓際に放置した。

冬の太陽だよ、晩白柚

   >┴<   ⊂⊃      ⊂⊃
.-(・∀・)- .   ⊂⊃    
   >┬< 
           ~ミ乾燥した風ミ~

  ~ミ乾燥した風ミ~    _🍊_   ~ミ乾燥した風ミ~

 

それでもベタベタする箇所や、長すぎてグリルに入らず乾燥しきれなかった皮は砂糖をまぶして強制的に終わらせた。手のかかる子ね……。

この工程を経るとオランジェットがなぜ高級だったかがわかってくる。手間が多い!!

 

その後は製菓用のクーベルチュールチョコレートでコーティングをしていく。

 

人は、長く柔らかく脆い果物の皮にチョコレートコーティングをしながら写真を撮ることができない!助けて!ロングポテトみたいな1枚しか撮れていない。

コーティングが終了したら冷蔵庫で冷やし、しばらくすると…

 

棍棒

荒々しくチョコレートを纏ったデカめの枝たちが横たわっていた。図工の材料だ。

 

ぱんぺジェット完成

晩白柚の皮をぐるりと切り取って丁寧に作ったロングばんぺジェットは約45cmにもなっていた。

ちょっと長い画像だけどみてみて

「ちょうどいい棒」を拾った時と同じ気持ちになれる!

1本繋がっているだけで、通常のオランジェット6〜7本の量あるこれを一気に食べても良い「赦し」が得られるんだ。ハアハア…

ラッピングにちょうど良い箱がないためネクタイギフト用の箱に入れることにした。バレンタインにこれを贈ればデカさの一本勝負で勝つこともできるだろう。

ネクタイの箱にも入らなかった最長のばんぺジェットをチュロス袋に入れて実食。

 

ムシャッ…バリバリ…モギュモギュ…

あの高貴なオランジェットを……貪り食っている!!

歯でちぎり、顎で噛み砕き、ムシャッ、ムシャッ……という音が顎から頭に響くように確かに咀嚼をしている。いつもチビチビと大事に食べるものと思っていた食べ物を豪快に食べるとこんなにも背徳感で胸がいっぱいになるんだ。

 

棍棒のように荒々しいチョココーティングだったが、クーベルチュールのお陰か口溶けもよくパリッとした食感も心地いい。もちろん市販品のクオリティには全く及ばないがテンポよく何本でも食べられる喜びが………

 

いや……?

大量に食べると苦さが、チョコがかかっていない皮の硬さがスルメのように着実に咀嚼の体力を奪っていく。

そう、自家製ジェットは丈夫さを求めて長く乾燥したので市販品より皮が硬く皮のアクも取りきれていない箇所があるので大量喰いをすると苦渋さでだんだん口がショボショボになってくる。

そもそもオランジェットの魅力であるほろ苦い大人の味って少量食べるからこその良さがあったのかもしれない。

 

でも夢が叶ったのでOKです。

オランジェットを貪り食い、オランジェットで腹を満たす気持ちよさを知りたい人はぜひやってみてください。

(おしまい)