ドラゴン。

 

それは男子永遠の憧れ。ドラゴンが嫌いな男子はいないであろう。多分。

なんなら女子も。多分。

 

きっと家庭科の授業でドラゴン柄の裁縫道具でドラゴン柄のナップサックを作った諸兄も多いことだと思う。
(読者の皆さんこんにちは、ナ月です。自分はブラックバスの絵が書いてある裁縫道具を使っていました。バス釣りやらないのに)

 

ドラゴン。
神話の時代から現代まで様々な物語に登場しているが、空想上の生き物だ。

 

だがどうだ、空を飛ぶ巨大な爬虫類の伝説、すなわちドラゴンの伝説は世界各地に残っている。
インターネットもない時代からだ。

 

それはなぜか。
俺は実際にいたからじゃないかと思う。

それはさておき、ある日俺はドラゴンのタマゴを手に入れた。

 

 

 

これがそうだ。ドラゴンのタマゴだ。ドラゴンのタマゴと書いてある。

 

観光地の土産物屋に売っていた。

 

 

 

サイズは鶏のタマゴ程度。丁寧に注意書きのシールが貼ってある。

そうだドラゴンのタマゴは食用ではない。覚えておきたい。

 

このタマゴを水に浸しておくだけでドラゴンが孵化するという。

 

あなた「いくら水に浸しておくだけとはいえドラゴンの孵化作業なんて、自信ないよぉ〜!」

 

もしもあなたがドラゴンのタマゴを手に入れても、そう思ってひるんでしまうかもしれない。

俺も最初はそう思っていた。だが大丈夫だ。

 

 

 

育て方の注意についての説明書きが封入されている。

 

「ドラゴンがふやけてしまいます」

 

の一文が強烈だ。

一生使わないだろうな、「ドラゴンがふやける」って言葉。

 

早速俺はこのドラゴンのタマゴを水につけた。

そして24時間後。

 

 

 

孵化した。本当に水につけるだけで孵化した。

タッパーの中で。

 

生命の神秘だ。

伝説の生物、ドラゴンの誕生だ。

 

 

 

まず生まれたのはオレンジ色のドラゴン。超可愛い。

 

生まれたばかりでまだ目も開いてないが、鋭い角や爪が見えており小さいながらも獰猛なドラゴンであることを主張している。

 

オレンジ色だから「みかん」と命名した。

 

 

 

パッケージによるとみかんは【最強の捕食獣 ラグナロプス】という種類のドラゴンらしい。

なにせ最強の捕食獣だ。成長したら俺なんかきっとすぐに食べられてしまうだろう。

俺はとんでもないことをしてしまったのではないか。

 

 

 

もう一匹はこの青いドラゴン。超キュート。

 

だがみかん同様、鋭い爪やザラザラとした皮膚がドラゴンであることを主張している。

青いので「そら」と命名した。

 

 

 

そらは【死をつげる翼 ギギガガ】という種類のドラゴンらしい。怖い。

きっと育ったら俺はこの翼に死をつげられるのだろう。

 

二体とも大変危険なドラゴンのようだ。

生まれたばかりの今ならまだ、俺の手で簡単に殺めることができるだろう。

 

だが俺はこの二体のドラゴンを育て続けることにした。

これが正しいことなのか、間違っているのかはわからない。

しかし迷いはない。育つところまで育ててみよう。

 

ドラゴンは水に浸しておくとさらに成長するらしい。

 

 

 

今、二匹は水を張った洗面器の中ですやすや眠っている。ように見える。

 

孵化から48時間後

 

 

 

ドラゴンたちは目覚ましい成長を遂げた。

みかんは元の体長の1.5倍ほどに大きくなり、堂々と翼を広げた姿へ成長した。

あと爆乳だ。

 

このペースで育てば一ヶ月経たないうちに俺の手には負えなくなるだろう。だがそれでも構わない。

 

 

 

同じくそら。こちらも翼を広げて天を仰いだ雄々しい姿へと成長した。

生まれつき爪先にビニールがくっついているのが可愛らしいが、こいつはあの「死をつげる翼」なのだ。

赤く染まった目は殺戮者そのものだ。

 

二体とも、もうすっかりドラゴンだ。

だが、まだ足りない。もっとだ。俺はもっと先がみたい。

 

 

 

説明書を思い出せ、ドラゴンは暖かい方が早く大きくなると記されている。

水温だ。ドラゴンの育成には水温が重要なのだ。

 

少し暖めてやろう。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

数分後。

 

 

やってしまった。

 

たった数分の油断が悲劇を生んだ。

 

温めすぎたのだ。

 

 

 

ドラゴンが、ふやけた。

思ったよりだいぶふやけた。

そんなにふやけんの?

 

確かに説明書には書いてあった。

温度が高すぎるとドラゴンがふやけると。

正直多少ふやけることは覚悟の上だったが、ここまでふやけるとは思わなかった。

 

「ふやけるっつってもちょっと柔らかくなる程度だろ」

 

と思っていたんだ。

 

だが実際はどうだ。

ドラゴンたちは取り返しがつかない姿になった。

ほんの少し温める程度で良かったのに、コンロなんて使わなければこんなことには……。

 

慌てて火を止めて二体をすくい上げようとしたが、グズグズにふやけたドラゴンの体は完全に崩れてしまって二度と元には戻らなかった。

 

変わり果てた姿になってしまったみかんとそらの亡骸は、そのままキッチンの三角コーナーに捨てた。

 

説明書は正しかった。

俺は二度とこんな思いをしたくないし、皆にもして欲しくない。

 

もしもドラゴンのタマゴを手に入れる機会があったら、この記事を思い出してほしい。

決して温めすぎてはいけない。

ドラゴンがふやける。

 

おわり