みなさんは『カポエイラ』、または『カポエラ』と呼ばれる格闘技をご存知でしょうか。
地面に手をついて足を振り回す、ダンスのようなアレです。
先日、偶然入った定食屋にカポエイラについての本が置いてあり(その店の子供が習ってるんだそう)読んでみると、カポエイラは蹴りだけではなく、腕を使った攻撃や、投げ、目潰しや金的まである実戦的な格闘術だ、と書かれていました。え、そうなの?
どちらかというと格闘技は好きな方なんですが、カポエイラって『天上天下』でボブ牧原が使ってた、くらいのイメージしかありません。一体どんな武術なんだ!?
というわけでこんにちは、ライターのギャラクシーです。
今日は東京都目黒区にある「カポエイラ目黒道場」に来ております。
ここは、カポエイラ歴15年の渡部 健志さんが教室を開いているカポエラ専用道場。渡部さんは、以前在籍したグループではプロフェッソールの段位を修得したカポエリスタです。
今回はこちらで、実戦格闘術としてのカポエイラについてお聞きしますよ!
※プロフェッソール=空手でいう白帯・黒帯のように、実力によって与えられる段位。プロフェッソールは『教師』の意味
カポエイラって格闘技なの?ダンスなの?
渡部 健志
1976年6月8日生。京都教育大学でバイオメカニクス(運動力学)を専攻。2001年よりカポエイラを始め、2008年には「カポエイラ目黒道場」を設立。国内をはじめ、ブラジル、フランス、アメリカなど多数の国でイベントに参加し、交流を深める。格闘技では他に柔道初段の段位を持つ。
「こんにちは! 今日はカポエイラのことについて教えて頂きたいんです……が! その前に! 表記は『カポエイラ』が正しいんでしょうか。それとも『カポエラ』?」
「どっちも間違いではないんですけど、ポルトガル語の発音だと『カポエイラ』に近いかな」
「ではこの記事では以降『カポエイラ』に統一しますね。というわけで改めてお聞きします! カポエイラって格闘技なんですか?」
「格闘技です。ただ、ダンスとしての側面やゲームとしての側面も切り離せないので、ちょっと定義するのが難しいんです。流派や道場によって、どれをメインに教えているのかも異なりますから」
「元来は格闘技だというのは間違ってないんですね? では、あのぐるんぐるん回るような蹴りや、逆立ちみたいなポーズも格闘術として意味があるんですか?」
「もちろんです。せっかく道場にお越し頂いたんで、いくつか技をお見せしながら解説しましょうか?」
「わっ、見たい見たい!! ぜひお願いします!」
というわけで、目の前で技を見せてもらえることになりました。ちなみにパートナーは女性カポエリスタである奥さんの、睦美さん。
睦美さんは41歳だそうですが、このカラダすごくないですか? 特に腕が、「運動してる人」の健康的な細さ! カポエイラのエクササイズ的な側面も気になるところですが……それは後半にお聞きするとして、まずは技を解説してもらいましょう!
ケーダ・ジ・ヒン(逆立ち)
カポエイラと言えば地面に手をついて逆立ちのようなポーズをとるイメージですよね? あれ、実はこんな意味があったんです!
相手の蹴りをかわしながら……
逆立ちに移行
この体勢(ケーダ・ジ・ヒン)から2つの技への派生を見せてくれました
ひとつは、蹴り(打ち合わせしてなかったので奥さんマジ逃げ)
もうひとつはカニばさみに派生して倒します
ズデ~ン!
「逆立ちのような動きは、相手の攻撃をかわした直後に、そのまま反撃に移行できるんです」
「なるほど。ていうか、カニばさみで崩したりするとなると、ほんとにダンスではなく、格闘技ですね」
「カポエイラのダンスは、空手で言う“型”みたいなものと考えるとわかりやすいかもしれません。技に必要な考えや身体操作を、ダンスによって覚える……みたいな」
「新喜劇の池乃めだか師匠もカニばさみをよく使いますが、ひょっとしてカポエリスタ?」
「たぶん違います」
ハーボ・ジ・アハイア(後ろ回し蹴り)
続いては「カポエイラといえばこれ」というイメージがある回し蹴りを見せてもらいました。頭の位置にご注目ください。
ハーボ・ジ・アハイア
「風切り音スゲェェー! カポエイラといえばこういう蹴りのイメージですね!」
「これはハーボ・ジ・アハイアという蹴りです。頭の位置が特徴的でしょ?」
「あ!……頭の位置が……低い?」
「その通り。武器を持った相手と戦うことも想定されてるんで、頭部をできるだけ相手から離しつつ攻撃するんです。カポエイラに、低い位置からの回し蹴りが多いのは、それが理由ですね」
さらに頭を低くする時は手をついたりするそう。足首どうなってんだこれ
「思ったより実戦的な格闘技だった!!! ちなみに武器というのは、どういう……?」
「ナイフを持った相手とかです。あとカポエリスタ同士が戦う時は、靴にカミソリを仕込んだりしたという話も聞きましたね」
「ホエー!? 何でもありかよ!」
「もともとアフリカから連れて来られた奴隷が、ゲリラ的に使用した格闘技ですから。本来は何でもありなんです。流派によってはナイフ術を教えたりもするそうですから」
「確かに、本には『投げや目潰し、金的まである』と書かれてました。さっきカニばさみを見せてもらいましたが、他にそういった技ってあります?」
「いっぱいありますよ。タックルみたいなのもあるし。ただ、危ないんで真似はしないでくださいね」
※豆知識:ハーボ・ジ・アハイアは、ポルトガル語で「エイのしっぽ」という意味
ボカ・ジ・カウサ(崩し技)
続いて教えてもらったのが、レスリングの“タックル”のように相手を崩す技。ちょっと中国の心意六合拳に似てるような気がしますが、心意六合拳の知識が『デッド・オア・アライブ』シリーズ(コーエーテクモゲームス)のゲン・フーのものなので違うかもしれません。
懐に潜り込んで、ズボンの裾やふくらはぎなどを掴み……
相手の足を引きながら、頭で胴体を押す
ズデ~ン!
レスリングとか総合のテイクダウンと違い、“自分も一緒に倒れない”んですね。
足を掴まれてるから受け身が取りにくいらしく、撮影のために4回くらい尻を強打した奥さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ちなみに……
実戦では頭にヒザを食らわないように、左手(手前)で相手の蹴りを防御しつつ、右手(奥)でズボンの裾を掴み……
肩で相手のカラダを押して、倒したりするそうです
ズデ~ン!
その他 危険な技
他にも色々な技を教えてもらいました。
足を取られた時に目潰しを兼ねて引き剥がす、とか
「こういう技も道場で教えてるんですか?」
「いやいや、教えないですよ! 空手でも柔術でも危険な技は普通の道場では教えないんじゃないですか? 僕は本場ブラジルを含め、各国でカポエイラの交流をしてきたんで『こんな技もあるよ』という感じで教えてもらっただけです」
「ここまで見せて頂いた技は、重心を落として地を這うような動きのものが多かったですが、例えば飛び蹴りとか、上段の回し蹴りとかはないんですか?」
「あるにはあるんですけど、体勢が不安定になって軸足を刈られたりするんで、うちの流派だとあまり使わないですね」
「あ、それ何かで聞いたことがあります。対武器を想定した格闘技では、腰から上を狙う蹴りが少ないって。転がされたら終わり(撃たれたり、何かを投げられたりするから)というのが理由だとか」
「カポエイラでは基本的に姿勢を低くするんです。相手もその下に行こうとするし、こっちはさらに下に……となるんで、必然的に下段の攻撃が多くなりますね」
「なんか、名刺の渡し合いみたいですね」
次ページからは渡部さんにカポエイラの強みや歴史、そして女性の皆さんは気になるエクササイズ的な側面について聞いていきます。なぜならこれ以上 技の相手をしてもらうと奥さんの尻が破壊されるからです。
>>次ページ:カポエイラって強い? エクササイズとしてはどう?