「あなたを野菜に例えるとなんですか?」

 

 

大学四年の就職活動。1次試験のグループ面接でその質問は行われた。

 

「どなたからでも結構です、挙手制で」

 

先ほどまで面接官の目をまっすぐ見ていた全員が、少しうつむく。

僕は瞳を見据えたまま、スッと手を挙げた。

 

「じゃがいもです」

 

動じることは無い。

 

「何故ですか?」

 

「環境を選ばず成長し、多くの芽を出します。加えて、御社の○○の環境と△△の制度であれば~~」

 

事前に組み立ててあるから。

 

「ほお…」といった声を、しっかり聞き取った。

今日の面接は少し手応えを感じる、満足のいく出来だった。

 

 

 

帰り道、浮足立ったような気持ちから、学友の森田に電話をかけた。

 

 

「森田、ありがとう。マジで聞かれたわ」

 

「な? 言った通りだろ?」

 

ストレス耐性、機転、飾らない答え、何が知りたいのかは知らないが、答えられないという最悪な事態は絶対に避けたい。

事前にその会社を受けた人から情報を聞くのは、ある意味で当たり前のことだ。

 

 

「他の奴らロクに答えられてなかったわ。森田は何の野菜って言ったの?」

 

「ベタだけど、俺はきゅうりで例えたよ」

 

「ああ、栄養が無いことを逆手にとった感じ?」

 

「いや、『おいしいからです』って言った」

 

「え?」

 

「落ちたよ。俺は」

 

 

 

若干特殊な学部にいたので、志望する業界、会社が友達とかぶることが結構あった。

 

僕らが受ける業界は、就活大喜利みたいな「それ聞いて何の意味があんの?」って質問がよく出題されており、森田のように苦しめられている人も沢山いた。

 

 

ある日、1度だけ森田と同じグループで面接を受けた事がある。

部屋には僕と森田と、細い女性がいた。

 

「あなたをモノに例えるとなんですか? 挙手制でどうぞ」

 

また変な質問をされた。

モノは用意していなかったので即座に考える必要がある。何にしようか、どう理由付けしようかと考えていたら、隣の細い女性がバッと手を挙げた。

 

 

「私は例えるなら、タイツです。見た目より丈夫で、どんな形のものも受け入れることが出来ます!」

 

 

悪くない。準備していたのかもしれないが、手ごわい。

どうしようか……と考えていたら、森田がスッと手を挙げた。早い。もう思いついたのか。

 

前の会社ではダメだったが、彼も就職活動を通じて成長しているのかもしれない。

 

全員が森田の回答に注目する。

 

そして彼の口から、ハッキリと言葉が飛び出した。

 

 

 

 

 

「私は、スキー用のタイツです」

 

 

 

やりやがった。

 

やってはいけないことをやりやがった。

 

 

 

「”普通の”タイツより、更に丈夫で破れにくく……」

 

 

唖然とする面接官にアピールを続ける森田を見ていたら、きゅうりは他の野菜のビタミンを破壊するなんて話を思い出した。

 

ああ、コイツは確かに、きゅうりだな。

 

 

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