いないといけない責任から、逃げたかった。
社会人の頃、「明日お前来ないとみんな困るぞ」とか言われて、休日出勤をしていた。実際俺1人の有無でみんなが困ることは一切無いが、「俺がいないといけない」という精神状態になり、追い込まれていた。
全てが嫌になった8月の午後、会社を辞めた。責任から開放された事により「俺がいなくても影響が無い」仕事をしたくて、派遣に登録した。
10月22日
「この中の2名は駅で看板を持って誘導をして頂きます」
嫌だなあという空気が広がる。
派遣でやってきたOPEN前の婚活パーティ。駅徒歩2分の好立地。
「ランダムで決めました。今から呼ぶ2名は看板を持って外に出て下さい」
名前を呼ばれなかった事に安心する。
選ばれし2名は絶望した表情で、重い足を運んでいった。
外に出たくない理由が僕たちにはあった。
残ったメンバーに、白シャツとベストが配られる。これが今日の制服らしい。
1人1人名前を呼ばれ渡されていくのだが、僕だけが名前を呼ばれなかった。
嫌な予感が、フワッと耳の後ろの辺りを通った。
「すみません、名前を呼ばれなかったのですが……」
「あー、君は、駐輪場の管理だね」
?????
みんなと違う透明の制服を渡され、外に。
10/22 【台風21号】本州に接近 災害レベルの大雨警戒
https://weathernews.jp/s/topics/201710/220015/
来るわけねえじゃん。来るわけねえじゃん。台風の中チャリで婚活しにくる奴その時点で終わりだろ。
1台も自転車がない、駐輪場と言われなければわからない場所に連れて行かれ、説明を受ける。
「自転車が来たら奥の方から詰めさせて下さい」
うるせえ。今1台も無いんだぞ。駅徒歩2分が枷になるとはな。
トランシーバーを付け、レインコートを着て、外に立つ。こんなはずじゃなかった。”華やかなパーティ会場でのお仕事です”って書いてあった。なにが?
ものすごい風と横殴りの雨で、立っている事すらままならない。
ふと、僕宛てにトランシーバーが鳴った。駅前で誘導している連中からだ。
「駐輪場ってまだ空きありますか?」
ある。あるよ。めっちゃある。ありまくり。全部空き。自転車屋をこれから開きたいって奴が来てもいける。
「はい。空いております」
と返答し、少しテンションがあがった。ついに人が来る。
どうせすぐ荒れるのに、ちょっとゴミとかを拾った。
濡れてぐしゃぐしゃの前髪を少しわけて、笑顔を作った。
来なかった。
マジで何だったんだろうトランシーバー。嫌がらせ?
宴が始まって1時間。
空っぽの駐輪場は僕の心と同じ。
僕以外のみんなが順番に休憩に入ってる様子がトランシーバーから伝わってきた。
そうして宴も終わり、ゾロゾロと会場から人が出てくる。
トランシーバーが鳴り、「自転車で帰る方の手伝いをしてあげてください」と命令が発せられた。マニュアルじゃなくて俺を見てくれ。
俺はいないといけない理由が欲しかったんだ。