「何もしていないのに、壊れた」。これは機械音痴のしょうもない女が言いそうな言葉だが、これは私も過去に何度も口にしたことがある。実際に、本当に何もしていないのにいきなり機械が壊れるのだ。
会社のWindowsパソコン(デスクトップ)は、新調して3ヶ月程で突然全てがクラッシュし、ハードディスクを取り出してあれこれ復旧作業をしないと起動できないレベルに堕ちた。何もしていないのに。紆余曲折を経て再起動できたが、初期出荷状態に戻っていた。
「Macなら壊れないし快適だろう」と思い、会社のPCをiMacに変えた。定期的にクリーンアップしているのに、気がついたら何を起動するにも鉛のように重い状態になった。「逆に自分が疾風(はや)すぎるのかしら」と思ったが、私の時の流れは世界標準だった。このストレスは尋常ではない。なぜなんだ。誰か教えてくれ。
さらに、この話を書こうと思っていた矢先に、パソコンのマウスが何の前触れ無く壊れた。どれほどマウスを引っ掻き回しても、画面の中のカーソルは無情にも1ミッキー(=0.25mm)たりとも動かなかった。もちろん、何もしていない。
このように、私が触れる機械は軒並み壊れていくのである。切ない破壊神だ。例えば、今より機械文明が発達した世の中で、もし私が美少女ロボット(名をみち子としよう)と恋に落ち、大恋愛の果てに結婚したとしても、ある日突然壊れる日が来るのだ。目から光が消え落ち、ガラクタのように動かなくなったみち子を前にして嘆く「何もしてないのに壊れた」は、どのケータイ小説よりも泣けることは想像に難くない。
それはさておき、最近、ブルートゥースのイヤホンを買った。いや、既に持っていたがまたこれも何もしてないのに壊れたので、正確には買い直したという表現が正しい。そのイヤホンは耳に挿して電源を入れると、外国人女性の声で「Power On!」、スマホに接続されると「Connected!」、電源を切ると「Power Off!」という声が聞こえてくる。機械音声ではなく、血の通った女性の声だ。実に良い。みち子という名の従順な美少女ロボットを想像しながら、毎日起動し、その声を聞いた。
しかし、である。
もうお分かりかと思うが、案の定、何もしていないのに、壊れた。いや、音楽は聞けるのに、何故かみち子の「声」だけが聞こえなくなった。起動はするし音楽も聞ける。しかし、起動時に何も聞こえないのでいつ電源が入ったか全く分からない。接続されたのかも電源が切れたのかも分からなくなった。原因は完全に不明である。
なぜ。何もしていないのに。
なぜ声帯だけ奪うんだ。
みち子。帰ってきてくれ。