第34回「さよなら2017年」
OP/いとしいご主人様 ED/悲しみのラブレター
唄/森の子町子
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みくのしんの受賞作
仕事に行く前の嫌な気持ちが具現化したバケモノ
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こないだなんかも、ラーメン屋で「替え玉お願いします!」って言っただけなのに、店員に
「え! アンタ日本人!?」
と言われた。
何なんだ。
これって、もしあの時僕が替え玉を注文せずに店を出ていたら、店員は僕のことを外国人だと誤解したままになってしまっていたということだ。
もし僕が「替え玉いっときゃよかったかな〜」と不満げに腹をさすりつつ、悔いを取り戻すように最寄りのコンビニで肉々しいおにぎりを頬張っていたら、その裏でラーメン屋の店員は「うちのラーメンは中東人の舌も満足させる出来なんだ!」と小さな誇りを手にいれていたのだろう。
嗚呼…僕の「替え玉お願いします」の発音がネイティブだったせいで…
と思ったが、よく考えたら違う。
そもそも、最初にラーメンの食券を渡した時、店員の「麺の固さは?」の質問に、僕は「固めでお願いします」と答えたじゃないか。
おいおいおい。この時にすでに俺の日本語披露してんじゃん。この時の発音で母国語だと分かんなかった??
もしかして俺の「固めでお願いします」ってカタコトの発音なの?
「替え玉お願いします」を聞くまでは日本国籍得られない程度の修練度なの?
いや、マジでひょっとしてだけど。
俺、日本語お上手じゃないの?
大学1年生の頃、僕は福岡県の田舎からはるばる上福(注:九州人は福岡の都心に移り住むことを上京になぞらえて、ユーモラスにこう表現することがあります。九州ってマジこんなもんよ?)し、一人暮らしを送っていた。
僕としては念願のシティボーイになったつもりでいたし、福岡人としてワンランク上がったな〜みたいな感慨を覚えていた。
僕がいた大学は福岡にありながら県外からも入学者が多い大学で、同級生も全国各地から上福(注:九州外からの移住にも適用されます。決して福岡への道は決して下りではないのです)した人ばかり。
その中、生粋の福岡育ちでありながら都心に移り住み、真の福岡人となった僕は、「なあに、おい(注:九州の一人称。「俺」→「おり」→「おい」と訛ったもの、と僕は思っています)が九州のしきたりを教えてやるたい!」的なスタンスで学内に君臨するつもりだった。
そんな中、入学当初に同級生に言われたのが
「君の福岡弁、なんか変だよね」
である。
福岡生まれ福岡育ち、生粋の福岡人の俺に対して? な〜んば言いよっとか?(何を言っているのか?の意)
マジでさあ〜〜!もうこれだから福岡ビギナーは困るよねえ!
そりゃ福岡県外のモンはフィクションでの福岡弁しか知らんだろうから、違和感を覚えるだろうけどよぉ! そりゃあんまりだぜ。
そんな中、別の福岡出身の同級生に言われたのが
「確かに」
である。
確かに、て。
本当に、その福岡出身の同級生に言われるまで全然自覚がなかったのだが、どうやら僕の福岡弁は、マジもんの福岡人からすると妙に訛っているように聞こえるらしいのだ。
福岡県に生まれ育ちながら、福岡弁を使いこなせない男。それが僕だった。
当時は「まあ、方言なんて社会人になれば使いどころもなくなるし、むしろ福岡弁なんつーオワコン言語なんてとっとと切り捨てて、標準語がチキンと喋れるようになりゃいいや」と思い、福岡の大学に通いながらスカした都会人みたいにキレイな日本語を使うように意識した。
その甲斐もあって、今となっては、実家で親と話すのにもいちいち脳内翻訳を要する程度に、僕の中の方言文化は消え去った。
その代わり、全国どこでも通用する標準語を身に付けた。
はずなのに。
僕は日本語が上手ではない。
END