第31回「これからもラジオがんばルージュラ
  

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OP/いとしいご主人様 ED/悲しみのラブレター
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僕のカービィにはコピー能力が無かった。

幼少時代、僕の小学校では「星のカービィ スーパーデラックス」というスーパーファミコンのゲームが少し時期が遅れて大流行していた。
もちろんどこの学校でも起こっている事だと思うし、今も尚愛されているゲームの一つという事は言うまでもないので、今更カービィがなんたるかみたいな説明は省く。

当時そのカセットを持っているというだけでクラスの王になれていた。
何故そう思ったのだろう。おそらく、カービィを持ってるというだけでおかわり分の牛乳をそいつが優先的に飲んでいたを見ていたからだと思う。

僕はというと、いまいちピンときてなかった。
家に帰ったらポケモンもあるし、スーファミだってドンキーコング2をやらないといけない。
この僕がどくどくタワーを早いとこ攻略して、ドンキーを助けに行かないとマズイことになる…やべぇ!こうしちゃいれねぇイメトレだ!
なんて事をドンキーコング2の筆箱を見ながら頭空っぽにして考えていた。

でも、そんなの実は見え張ってごまかしてるだけで、ホントの根本はハッッッチャメチャに興味があった。

みんなが自由帳に書いてるカービィを盗み見して、教科書の端っこに小さいカービィも書いてたし
学校が終わると一人でカービィごっこをして家路を楽しんでいた。
そして、親にも買ってくれとねだっていた。

 

 

「駄目です」

 

 

キッパリ。
そりゃそうか。生憎こないだ中古のドンキーコング2をトップボーイ(ゲーム屋さん)で買ってもらったばっかだったし、
それにそこをどうにか!と言ってどうにかなるほど我が家は裕福じゃない。

わかっていたけど手に入らないと確信した瞬間、一気に元気は無くなるもので。
昨日まであんなに助けたかったドンキーコングもマジでどうでもよくなってきた。なんだよドンキーコングって、捕まるほうが悪い。ドジでまぬけなドンキーコングとはよく言ったもんだ。

「あんたそんなことより、明日大阪のあっちゃんが遊びに来るんだって!あっちゃんと遊んでもらいな!」

マジか。

あっちゃんてのは大阪の従姉妹で高校生のお姉さんだ。僕より歳が上だし女性という事でかなり緊張をする。

このタイミングであっちゃんか…

ええええーーーー???まじーーーー??いや好きだけど!
気使うし!えぇー!もぉー!!だって何話せばいいかわからんしなぁー!!!ちょっと仲良くなって慣れてきたら帰っちゃうし!!その繰り返しがなんとなく嫌なんだよなー!も~~~

 

-翌日

 

「みっくん久しぶり!大きなったなぁ!お母さんに聞いたで!みっくんカービィやりたいんやろ!お姉ちゃん持ってきたで!」

目ン玉が飛び出るかと思った。

「やったー!!」

当時小三の僕は嬉しさのあまり恥ずかしさを忘れて花が咲いたように飛び跳ねながらバンザイをした。そんな僕を見たあっちゃんも嬉しくなったんだろう。

「お姉ちゃんめっちゃカービィうまいで!」

そう言うと太陽の様な笑顔をしながらあっちゃんはノリノリでリュックサックから、ゲームボーイを取り出した。

…あ、違う。

コレは、あれだ。なんか、違うやつだ。何がどう違うとかは全然わからないけど、コレはきっと、違う。だってゲームボーイじゃん。

季節は冬。明日は東京にも雪が降るだろうなんてテレビで言ってるもんだから僕の家にはコタツが出始めていた。
リビングまで早歩きで向かい、ゲームボーイを一回床に置いて寒そうに肩まで毛布をかぶったあっちゃんは、バリバリにテンションが下がって立ち尽くす僕を見上げ

「どないしたん?一緒にカービィやらんの?」

と、心配そうに声をかけてくれた。

「…やる」

この時どんな顔していたんだろう。それでも子供の僕はそれなりに気を使い、興味津々ですアピールを繰り返し、
あっちゃんがやるカービィを、ボヤっと焦点を合わすこと無く隣でぼーっと見ていた。

僕の憧れていたカービィはスーファミで、カラーで、二人で出来て、色んなコピー能力があってと、ワクワクが押し寄せてくる内容だったのだが、
我が家に訪れて来たカービィはゲームボーイで、白黒で、一人プレイの、コピー能力の全く無い物だった。

僕がもっと歳が下なら「こんなの嫌だ!」って泣き出したりするんだろうが、そんな失礼なことは出来ないし恥ずかしいし、何よりあっちゃんに申し訳無かったんだろう。
それでも当時の僕にはあっちゃんの隣でゲームボーイの画面を黙って覗く以上のことが出来ずにいた。

あっちゃんも僕のテンションの変わり様に違う何かを感じてずっと無言でプレイするのだが、めっちゃうまいと自負するだけあってゲームは終わる事は無く、それは長いこと続いた。
だが、僕はこのままご飯なりで母親に呼ばれてゲームが中断されるまでやり過ごそうと思っていた。なのにそこで母が

「何?違うゲームしてんの?それならテレビの方(スーファミ)片すよー?」

あっちゃんの手が止まった。画面のカービィはボコボコと無情に攻撃され続けている。

「あっちゃん、カービィやられちゃ…」

くらいのタイミングで食い気味にブチッと電源を切られた。

僕は驚いてあっちゃんの方を見ると、そこには悲しげな表情というか申し訳ない様な表情で、そこに怒りみたいなものは一つもない様な、そんな感じなあっちゃんがいた。

やばい。どうしようと、思う間もなくあっちゃんがケロッと元気に

「なんやスーファミの方か~!違うんやったら言うてよ~!私コレしか持ってないんだー!」

そう言うと「おばさん今日のご飯何ー?」等を言いながら台所の方に行き、僕の元から離れた。

味わったことのない心のモヤモヤで張り裂けそうになった僕は、泣き虫ということも相まってその場でぐずってしまった。

その時の事はよく覚えてないけど、その場にいた母親とあっちゃんは心配そうにコチラを見たが、
泣いた理由も「思ってたゲームと違ったのを悟られないためにごまかしてたのがバレた」と知った二人は僕に大丈夫だよと笑った。

一緒にその後ご飯を食べて、食べた終わってカービィもした。

コピーさえない無いけど全然楽しくて、あっちゃんは上手で僕は下手だった。

すると全くクリアできない僕を見て

「コレ貸たるから!練習し!そんで無理やったら次あった時全クリしたるから!」

そう言って僕にソフトを渡して次の日、目が覚めたらあっちゃんは帰っていた。

それから必死にコピー能力の無いカービィをひたすらにプレイしてあっという間にクリアした。
それでもカービィって2週目ならぬエクストラステージというのがあって、それは敵が全体的に強くなってもう一週プレイ出来るというもの。

難しかったのもあるが、無理だったら次にあった時に全クリしてくれるとあっちゃんが言っていたのを思い出して、今でも何故かクリアせずにいる。

それから何度か会うこともあったがお互い思春期真っ只中で照れもあったりでカービィの話はもちろん会話も減っていって、最近では全く会うことも無くなった。

今あっちゃんに会ったら、コピー能力の無いカービィ。全クリしてくれるのかな?

ソフトは普通に無くした。

 

bye!!