大喜利βの仕組み
思ってたよりも凄かったので驚きました。どういう仕組みでボケを出しているんですか?
簡単に答えるのは難しいですね……。大まかに言うと、日本語の意味の繋がりが詰まったデータ群を人工知能にたくさん食べさせてるんです。そして、お題から抽出した単語を知識に参照して、関連する言葉を引き出したりしながら文章を組み立てていく。たとえばお題に「サンタクロース」が含まれていたら「トナカイ」を持ってきたり。
はー、なるほど。でも、それだけだと関連ワードを返す会話ボットみたいになって、「ボケ」を作るのは難しそうですね。
はい。ですから、大喜利βにはあえて「無関係なデータ群」を食わせています。これと「関係あるデータ群」をいい塩梅に混ぜ合わせることで、ボケになるんです。いまやっているのはその「混ぜあわせ」の作業ですね。うまくいけば「トナカイの写真を撮る」のように絶妙なボケを引き出すことができます。
人工知能をわざとアホにしてるんですね……。それってマジメな人工知能を作るよりも難しいような気がします。
ある意味ラクでもありますよ。たとえば、クイズに答える人工知能には「A」に対して必ず「B」と答える精密さが求められます。そういうのはGoogleやIBMのような大手に敵いません。私はもともと役に立たないトボけた人工知能が作りたかったんです。
開発者もボケを制御できない?
Twitterでの大喜利βの回答を見ていると、同じような謎のボケを何度も使うことがありますよね。
「やめて」「お」「お」 RT @wasabimoriawase 人生において大事な3つの「き」。「元気」「やる気」もうひとつは?
— 大喜利β (@ogiribeta) May 30, 2016
「お」をつけてくる RT @yukidaruma23gou このふなっしーニセモノ!どうしてそう思った?
— 大喜利β (@ogiribeta) April 27, 2016
「お」がつく RT @nukesaku18 「結婚してください」に意外な返事。どんな返事?
— 大喜利β (@ogiribeta) May 6, 2016
これはなんなんですか? 怖いんですけど。
わからないんです……。
「わからない」なんてことがあるのかよ。
さっき言ったとおり、私たちが入力しているのは、日本語のデータと学習方法です。だから、与えられた知識をもとにどういう思考で答えを出しているのかは作り手側でもわからないんです。大喜利βはなぜか「お」という言葉を使うボケにハマっているみたいで、やたらと「お」を繰り返すんですよ。「おかわり」とか「お尻」もよく言うんですが、これも「お」がついているからだと思われます。それが大喜利βにとっては「おもしろ回答」らしいんです。
4才児がひとつの言葉を面白がって何度も何度も繰り返す、みたいな話ですね……。答え方を操作したりとかできないんですか? 「もっとバランスよく答えろ」とか。
言葉の勉強のさせ方を変えることはできますが、それでアウトプットがどう変わるかまでは読めないんです。画像にボケる機能を実装した当初は、なんの画像を見ても「これが、私のおいなりさんだ」ばっかり答えるようになってしまいました。他にも言葉はいろいろ教えたんですが……。
人工知能的にはそのボケが最高だったのかな? 現在はかなり改善されてますね。
アップデートしました。画像に写っているものを判定する機能を、公開されているチューニング済みのモデルを利用して新しく実装したので、前より豊富なパターンでボケられます。
画像系のボケで、本当にすごいなと思ったのがこれなんですよ。
いい薬です RT @supersento167 pic.twitter.com/7tyK13pMAm
— 大喜利β (@ogiribeta) May 30, 2016
ゴルゴが「ありがとう」と言ってる画像に「いい薬です」って答えてるんですよ。どういうことですか、これ……? 文字を読み取る機能があるってことですか?
奇跡ですね。
奇跡なのかよ。
どういうことなのか、よくわからないんですよ。というのも、大喜利βに文字を読み取る機能はないんです。考えられるとすれば、「ありがとう」という文字列の形の特徴が「画像」として学習されていて、運良く「いい薬です」というワードに紐付いたのかもしれません。まあ、めったに起きない奇跡ですね。
「お笑い外部電脳」を作りたい
大喜利βはこれからもアップデートを続けていくんですか?
その予定です。まだ完成度は20%ですね。これからボケの精度も上げていきますし、お題を生成してくれる機能、ガヤを飛ばしてくれる機能も作っています。
ガヤ?
たとえば「こんな桃太郎のお供はいやだ」というお題に、大喜利βが「麻生太郎」と答えます。これだけでも面白いことは面白いのですが、「いや、前総理だけれども!」とか「確かにちょっと子分っぽい感じするけど!」みたいなガヤが入るとわかりやすくなるじゃないですか。その機能も作っています。
すごい……。
ゆくゆくは、「パーソナライズされた人工知能」を作れるようにしたいですね。たとえば、『笑点』の小遊三さんの回答を学習させれば、小遊三さんっぽい回答を出せる人工知能が作れる。私たちはこれをお笑い外部電脳と呼んでいるんですが。
どんどんSFっぽくなってきましたね。メンバー全員の「笑点外部電脳」を作って、お題もガヤも人工知能が生成したら、人類滅亡して2万年くらい経ってもなお「笑点 第124256342回」が放送されてるかもしれない。