〜ここからは『宝石の国』12巻までのネタバレが多く含まれます〜

 

 恐山です。

 

 今まさに12巻を読みました! なるほど、こんな物語だったとは……。

 なるほど……。

 

 なるほどなぁ~~~~~~~~~~~~~~~~。

 

 あ~~~~~~~~~。

 

 

 

 

 ウワーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

 ハァ……

 

 ハァ……。

 

 13巻がまだ出てない現時点での感想を書かせてもらいます。抽象的でとっ散らかってるし、13巻収録話までは読んでないからトンチンカンになってたらすみません!! いったん12巻の最後の話を一区切りとしたうえでの所感です! ネタバレ要素あります!

 

終幕後の世界

 フォスフォフィライト、本当にお疲れ様だわ! 宝石のみんなも、金剛先生も、あいつやそいつもみんな全員お疲れ様だわ。よう頑張った! それぞれがそれぞれにとっての最善をやり遂げたと思います。なんとなく伝え聞いていた「鬱漫画」という評価も、理解はできるけど自分の印象とは違いました。

 もちろん、いち「にんげん」の視点から見ていろいろ言いたくもなるのは分かるんですよ。「勝手なことしやがって」とか「裏切りやがって」とか「金剛先生の背中はエロすぎる」とか、言おうと思えばまあ言えちゃう。でもこの物語は「にんげん」が終わった後に始まっているわけです。人間的な道徳でその感情や行動に点数をつけていくことは筋違いというか、おこがましさを感じてしまいました。

 人間の歴史はとうに終わっており、宝石や月人は、言うなれば人類が遺した残骸のようなものです。あまりに過酷な状況と遠大な時間に晒されながらユルいギャグと同居して違和感がないのも、ここが終幕後の世界だからでしょう。ふつうの物語で天秤にかけられる「死」や「痛み」や「未来」がはじめから欠如しているのですから、現実味を欠いたモラトリアムが彼らの生そのもの。この特殊な前提があって、ヒューマニズムの定規をさしはさむ余地はない、と私は思います。

 にもかかわらず、私は『宝石の国』を、ヒトを超えた者たちだけの、人類には理解不能な物語だとは感じませんでした。それはなんなのか、ちょっと考えてみます。以下は私の勝手な解釈や連想をさらに含んだ感想になります。

 

人間という永遠

 人類が遺した残骸とは、抽象的にいえば「人間」という物語のことだと思いました。ホモ・サピエンスである私たちの一生は実に単純で、生まれて死ぬ、というそれだけのものですが、知性を発達させてきた霊長類はシンプルな事実だけで満足できませんでした。なぜか、せいぜい数十年の生に「意味」なるものを見出したのです。それは、個々に生成消滅していく命を「人間」というコンセプトで束ねた物語で……巨大な嘘のようなものでした。そして嘘は実在しないがゆえに永遠なのです。

 お坊さんが厳しい修行と祈りに一生を捧げてまで「無」を願うのは妙な話です。私たちは肉と骨と意識で構成された物質なので、何もせずとも死ねば無なのは分かりきっています。にもかかわらず、ただそうあるものとして動物のように生きることはできません。それは私たちが人間だから。解脱への道は、人間性からの解放を目指す道です。

 人間には「永遠」が組み込まれています。その意味で、私たちは宝石や月人と同様に無限の時間の中を生きてもいるのです。本作が絵空事ではなくある種のドキュメントとしても迫ってくるのは、このためではないでしょうか。最初この漫画のことを宝石の擬人化漫画だと思っていて、それはもちろん間違いではないのですが、別の見方をすると、彼らは概念上の「人間」を擬人化した存在でもあります。

 

空想される全てのものたち

 この寓話には「誰が仏に慈悲をかけるのか」とでもいうような皮肉が込められているように思います。

 一切はみな苦しみで、私たちは無に立ち返りたい。なのに人々は、まさにそれゆえに「意味ある」概念を無数に生み出してきました。無を願い、新しく仏像を彫る。ここに捻れた構造があります。

 フォスはまさにその皮肉に絡め取られた主人公でした。彼は死のない完全なもののひとつとして生まれながら、あらゆる煩悩にまみれ、人間と同じ道をちょうど逆走するように歩みました。そして、人間が遺した物語の残骸に最後の始末をつける菩薩の役割を負わされるのです。

 フォスのたどる運命はあまりに過酷ですが、人類ふぜいにはここから引き出すべき教訓などないでしょう。「かわいそう」というのもしっくりこない。「意味」を背負い「救われたい」と願う私たち人間は、概念の上にこのような犠牲を生み出さざるを得ないからです。

 むしろこの物語は人のためではなく、私たちの身勝手で空想されてきた全てのものたちへ向けた祈りのように感じられました。宝石の擬人化漫画に始まり、最後には「擬人化」というもの自体の業を垣間見た気がします。

 

 

 最後に好きな宝石を発表します。

 

 

 

 ボルツ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ちなみに筆者がこの原稿を書いているとき、市川春子先生による恐山のイラストが爆誕し、編集部チャットが大騒ぎでした。

 

 

嬉しいやらめでたいやら羨ましいやらでパニックです
市川春子先生、本当に最高のマンガをありがとうございます!! 一生大切に読みます!!!

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