どうやって観る/読む時間を捻出してる?
正直、これが一番聞きたかった話です。皆さん忙しいはずなのに、どうしてるんだ!?と。
まあ……3倍速で観るしかない。
というのは冗談としても、世の中には「絶対3倍速で観てるだろ」って人もいるよね。
映画系メディアの人とか、仕事で観るときは倍速らしいですね。
倍速で観て頭に入るのかな……。僕もたまに、シリーズ物のあまり期待してないスピンオフを倍速で観たりすることはあるけど。
すみません、私は一部のモンスターパニック映画では、サメとか出てくるまで完全に飛ばすことがあります。
倍速とかいうレベルじゃなくて、シークバーで飛ばしちゃうんだ。
そうです。サメが観たいだけだから。
いさぎよい。
そもそも最近は、あんまりインプットできてないんですよね。子供が生まれてからは、なかなか時間が作れない。
昔はもっと観てたんですね。
若い頃は、日付をまたぐレイトショーとか行き放題だったけど、子供がいると「映画館に行く」って難易度高いんだよ。
一緒に行くなら子供が興味ある作品に限られるし、一人で行くにしても「ここなら行ける!」っていう時間をパズルみたいに探さなきゃいけない。
映画館に行くなら、往復の移動時間込みで4時間くらい子どもを奥さん1人に預けなきゃいけないから、後ろめたさもあるよね。
なるほど……。
でも、この「時間ない問題」については、まきのくんが完全にソリューションを持ってます。
そうです。
え、なんですか!?
勤務地と家を、できるだけ遠くしてください。
これなんです。
どういうこと……?
片道1時間あれば、電車の中でドラマ1話観れます。帰りにもう1話、それを平日3〜4回繰り返せばだいたい1シーズン分観れるのです。映画も往復で1本見れちゃう。
ふつう、会社の近くに住みたいじゃん? でも考えてみてよ、もし会社の隣に住んでいて1日2時間浮いたとして、その時間でドラマが観れますか?
たしかに、「その分、家族サービスしなきゃ」ってなっちゃうかも。
そうそう。でも遠くに住んでると、通勤で強制的に一人の時間が取れるんですよね。
通勤してるだけだから、家族への後ろめたさもなし……と。
さらに都心から離れる分、同じ家賃でも良い家に住める。
良いことづくめだ……!
仮に勤務地が東京駅なら、横須賀、鎌倉、大宮とかが良いんじゃないですかね。乗り換えなしで1本で行ければ、座ったままずっとドラマを観てられるのでオススメです。
いいですね。……ただ、僕めちゃめちゃ電車酔いするんで無理かもしれない。
電車酔い!? そんな人もいるの!?
そしたらAudibleがおすすめですよ。
だいたい普通の長編小説が15時間ぐらいなんですけど、それを2.5倍速で聞いてます。
2.5倍!?
慣れれば十分聞ける速さですよ。そうすると1冊6~8時間なので、通勤の往復で3日で1冊聞けるんです。
あとは、「もう家に着くけどあと少しで物語が終わるなぁ」ってときは無駄に歩き回りながら聞いて完結させたりもします。
歩きながら聞けば健康にもいいですね。
Audibleのおかげで足腰強くなってきていて、このあいだは『ホモ・デウス』上下巻をずっと歩きながら全部聞きました。10時間以上。
ええっ!?
それはやりすぎ。
途中から疲れてきて、何言われても「うるせえな」っていう気持ちになったので、これはオススメしません。
僕も結構Audible使ってるんだけど、ジャンルの合う合わないもあるよね。自己啓発書とか、全然内容が入ってこない。
あとは登場人物が多すぎると誰がしゃべってるかわからなくなったりしますね。
最近聞いて良かった本とかありますか?
呉勝浩の『爆弾』が良かったです。ナレーターさんの熱演がすごくて、初老の刑事、中年の爆弾魔、新人警官とか、全員同じ人なのにめっちゃうまいんですよ。
ナレーターが自分にとって当たりかどうかも大事だよね。好きな本なのに「この声合ってないなぁ」ってときも残念ながらある。
逆に、紙の本を読む時間を確保するのは難しいですね。
骨太な本を読むときはどうしてますか?
初台にフヅクエっていう読書するだけの喫茶店があって、そこは良いですよ。
都内にいくつかあるよね。
六本木の文喫も良かったな。ああいう空間だと自然と読むモードになるというか、落ち着くよね。
時間が取れたときは、良い環境で読むのが良いんですね。ちなみに、映画はどうでしょう?
うーん……。これ以上はもう、ソリューションないかも。何かを犠牲にするしかない。
犠牲ですか……。
例えばギャラクシーさんは、めちゃくちゃアニメ見てるんですよ。
フリーレン巻き難しすぎワロタ。たぶん普通よりかなり長いマフラーが必要なんだと思う pic.twitter.com/FI9kyPR1i0
— ギャラクシー (@niconicogalaxy) March 7, 2024
ギャラクシー:姉妹メディア『ジモコロ』編集長。みんなの同僚。
昼ごはんとか、誰とも行かずにずっと一人で『フリーレン』を観てる。
ギャラクシーさんは、人付き合いを全て犠牲にしてアニメを見てますね。
何を捧ぐかなのよ、結局。
あ、心臓を捧げてる!
逆じゃない?
捧げましょう、何かを。
そもそもインプットって言葉どうよ?
それでは最後のテーマです。
インプットねぇ……。
やれ「コンテンツ」だ、「インプット」だ、エンタメ産業関係ない人でも盛んに言うようになったじゃないですか。なんでこんなに「インプット」が求められるんでしょうか。
インプットって言い始めたあたりから、だんだんおかしくなったよね。そんなに詰め込んでどうするの?って思う。
「人間」という筒にものを詰めれば「人間サマ」の出来上がりだ、みたいなことですよ。
冒頭で話したように、この4人は世間一般より遥かに多くの映画や本に触れているはずじゃないですか。だから「僕たちがなぜそんなにインプットしてるのか?」を考えてみれば、いろいろ見えてくるんじゃないでしょうか?
私の場合、子どものころから本で読んだ知識を人に話して「面白いね」って言われる経験をしていたことが影響してるんじゃないかと思います。
なるほど、そうやって承認欲求を満たしていたと。
それが裏返って、「インプット・アウトプットをしないとつまらない人になるんじゃないか?」「入れて出すサイクルがないと、自分は空っぽなのでは?」って不安になってしまったのかも。
自分が空っぽだ、という不安から何かを詰め込んでしまう……。
Twitterをずっと見ちゃうのもそうなのかも。
結局、「あれを観た」「これを読んだ」って一種のコミュニケーションツールなんですよね。それがないとコミュニケーションが出来ないから、インプットせざるを得ない。
コミュニケーションを犠牲にしてアニメを見ているギャラクシーさんみたいな人もいますけど……。
いや、むしろそっちが健全なのかも。純粋に作品を楽しみたいから観てる。我々のように、感想を発信しようとか、140字にまとめようとか思ってる方が異常なんだよ、本来は。
僕は結構ギャラクシーさんタイプですね。映画を観ることを「インプット」だとは思ってないんで。
まきのさんって、別に映画鑑賞が直接仕事の役に立ってるわけじゃないですもんね。
まあ、映画ライターとかではないからね。そういう損得抜きで、単純に楽しんでる。
インプットして、それを話して「面白いね」って言われる。つまり自分がベネフィットを得ちゃうと、やめられなくなるんだよね。次はどの作品でウケよう?って考えちゃう。
その繰り返しで「本紹介TikToker」とかが生まれるのかも……?
僕も『ストーナー』っていう小説を紹介して、池袋ジュンク堂にPOPまで出してもらったことがあるんだけど……
【💫オモコロ編集長原宿さん来店💫】
先日もご来店いただいていましたが、改めて本日お越しいただき、原宿さんにお会いできました👏#ストーナー(ジョン・ウィリアムズ著、作品社@sakuhinsha 刊)、原宿さん@haraajukku の長文おすすめコメントが書かれた当店限定帯をつけて販売中です✨ pic.twitter.com/byK77tfjKy— ジュンク堂書店池袋本店 (@junkudo_ike) November 10, 2023
そうなると、どうしても「次のストーナー」を探しちゃうのよ。
「次のストーナー」! なんて醜い言葉!
ウケたい気持ちのせいで、『ストーナー』的な純粋さからどんどん遠ざかって行っちゃう。
ちょっと話は変わるけど、小説や映画以外のアクティビティも十分「インプット」なのでは?っていうのは思いますね。たとえば薪割りしたことある人とない人だと、薪割りする場面を書いたときに説得力が違うだろうし。
たしかに!
宮崎駿とかそういうこと言いますよね。「アニメ作るためにアニメを見るな」みたいな。
まあ「経験したことしか書けない」もマズイっていう言説もありますが……。
そう思うと、私は読書量以前に人生経験が足りないのかもしれないです。普通の会社の風景も知らないし、ファッションも、車の運転も知らない。私の小説のなかに出てくる人は、ファッションもフワフワしてるし、フワフワの車に乗ってます。
加味條さんはインプットって言葉に何か引っかかってるんですか?
うーん……。作り手側はきっと、まきのさんやギャラクシーさんのように純粋に楽しんでほしい気持ちで世に送り出してると思うんですよ。それが僕みたいなその辺のサラリーマンに「インプット」と呼ばれて消費されてるのは、本質的じゃないのかなって。
作り手目線で考えるなら、もう「自分が作るものなんて消耗品だ」「生活費を稼ぐためだ」っていう割り切りも必要なんじゃないですか?
「インプット」として消費されるのがどうとか言ってるようじゃ、まだ覚悟が決まってない。
急にまっすぐの正論だ。
商業ベースに乗ったら「純粋な創作」なんて無いんだから、四の五の言わずに食らう!そして吐き出す!その繰り返しでさぁよ。強くなりたくば。
最後ちょっと範馬勇次郎になりました?
まとめ
【ここまでに出た話】
★ 映画や本は「数」じゃない。
☆ ネットに染まると、感想を考えながら観ちゃいがち。
★ 2回、目に触れた作品を観よう!
☆ 時間がないなら遠くに住め!Audibleを活用しろ!
★ それが無理なら何かを捧げるしかない……。
☆「インプット」って言葉に引っかかっても、四の五の言わずに食らえ!
……という話をここまでしてきました。今日はなんだか全員ちょっとずつ身を削って話している気がする。
結局、インプットって個人的なものなので、別に全部を公にすることもないんですよ。加味條さんも今後は年間300冊ぐらい読んでそうな顔していればいいんです。
そう、自分で自分を騙すくらいでいい。加味條さん、あらためて年間何冊読んでますか?
数えてません!
小島監督もボカシて100冊「ぐらい」って言ってたんだから、実際は12冊かもしれないし。
それはさすがにない。
作家がオススメの本を聞かれたら、それっぽい本を紹介するじゃないですか。あれももしかしたら全然読んでなくて、聞かれてから慌てて調べてるかもしれない。
そうそう、そこはもうブラックボックスで良いじゃないかな。
みんな夢を観たいんです。「あの作家さん、こんな本読んでるんだ!」って思ってもらえるように、文化のミッキーマウスを演じましょう。
皆さん、大丈夫ですか? この座談会に出たことで何かを失ってませんか?
ちなみに加味條さん、今後ミステリーを書くなら一つオススメがあります。冒頭に、読んだことない難しい本の引用を入れましょう。
良い。
あるある! 詩の引用とかよく見ますよね。
あれ読むと「この作者めっちゃ読んでるじゃん」って思いますけど、どうせ読んでないんですから。図書館で適当にかっこいい本を手に取って引用してるだけ。
さ、さすがに読んでるんじゃないかなぁ……!
まあ結局、どれだけ読んでるかは外からは見えないので安心してハッタリをかましましょう。
たしかに、客観的には見えないもんなぁ。
読めば読むほど脳が肥大化するとかだとバレちゃうけど、そんなこと無いですもんね!
その後、4人はたくさんの映画を観た……。
そしてたくさんの本を読んだ……。
(もちろん数は数えていない)
その結果……
脳みそが肥大化してしまった!!!!
(終わり)