■序・はじめに
拝啓、こんにちは。俺です。
突然ですが、日本には約18,000の山があります。
そして世界中にある全ての山は、
もう人間によって登りつくされてしまっているので、
登山家は山に登るさい、記録や目標なんかがないらしいのです。
そういった場合、登山家は「条件を付けて」挑戦します。
「冬季に」、「単独で」、「酸素ボンベ無しで」とか、
「このルートで」、「この若さで」など様々な条件を付けて、
その中で記録を作るのだそうです。
一方わたくしといえば、ゲーム機を全機種持ち、暇なときがあれば
オンラインモードで一人さびしく画面の向こうのプレイヤーと
対戦を繰り返しているのですが、その生活はまさに「怠惰」そのもの。
何一つ誇れるものが無く、「無」のままヨボヨボと死んでいくのも
悪くないのですが、やはりここはひとつ何かを大きなことを成し遂げて、
精神的に強くなることが大事なのではないでしょうか。
いつか聞いた前述の条件付き登山の話を思い返し、この夏行動に出てみました。
前置きが長くなりましたが、
今回「着ぐるみを着た状態で」という条件を付けて登山をします。
■1・巡り合い
はい、着ぐるみを手配してまいりました。かわいいですね。
試しに着ようと思ったのですが、どう頑張っても一人で後ろのチャックを
閉めることができませんでした。もこもこの手ではチャックをつまめないのです。
というわけで家が最も近いことでおなじみのオモコロスタッフ柿次郎を
わざわざ呼んで着せてもらいました。嫌な顔一つしない柿次郎はよく出来た男。
イエーイ!
ゲームだってできるぜー!
ゲームやってる場合じゃねー。
とりあえず着てみた感想は、「クーラーをガンガンにかけてる部屋でもむちゃくちゃ暑い」。
この状態で登山だって…?正気の沙汰かい…?
とりあえず明日の登山に向けて、準備も万端に備えたので、
体力を温存するために早めに就寝。おやすみなさい。
ぶるぶるぶる…明日雨降れ…。
※この後ちゃんと脱いで寝ました(2時ぐらいに)。
■2・当日
新宿から京王線に揺られて1時間。
「東京の山」の異名を持つ高尾山にやって参りました。
着ぐるみを着て登るには申し分ない標高。
幸い薄い雲が空を覆っているので、日差しは強烈ではありません。
何なら雨が降ってくれてもいいのに。帰るから。
高尾山と言っても、まがりなりにも山です。サポートをしてくれる人がいないと
やはり危険です。ということで旅のおともはオモコロスタッフ原宿さんです。
俺「日曜特集の撮影手伝って!」
原「行きます!」
俺「じゃあ高尾山集合で」
原「え…?」
上記のようなやりとりの末 同行してくれました。(表情が暗いのはそのため)
終始「帰りてー」と漏らしていましたが、それはわたしも同じです。
それでは早速かわいいウサギちゃんに身を包みたいと思います。
原宿さんに背中のチャックを閉めてもらい、覚悟完了です。
イエーイ!
高尾山には1~6号路に加え、一番きついとされる稲荷山コースの7通りの
登山コースがあります。どのコースにするか悩んだのですが、
沢沿いに歩く「6号路コース」に行くことにしました。深い自然があるそうです。
森林浴には持ってこいではありませんか。それでは出発です!!
6号路への道まで、一旦舗装された道路を歩くことになりました。
そして気づいたことが一つ。
「異次元レベルで暑い」
着た時点で薄々気づいていたのですが、「ここが煉獄か?」と思うくらい
体の内側までジワジワと蒸し尽くしてきます。中に着ていた普通の服はあっさりと
汗まみれになり、体に貼りついた不快感はまさにタカオズ・インフェルノ(地獄篇)。
ですがこの着ぐるみ行脚は始まったばかり。
わたしはまだスタート地点にすら立っていないのです…。
■3・6号路
6号路入口に到着しました。おお、山だ。山道だ。
イエーイ!
一応記念に一枚撮っておきましょう。イエーイ!
それでは早速登ります。この時点で体力的にかなりきついのですが。
6号路は全長約3.3kmで、所要時間はだいたい90分ほど。
また、別名「琵琶滝ルート」とも呼ばれており、その名の通り道中に
琵琶滝が望めるとのこと。そのあたりもしっかりとおさえていきたいですね。
ちなみに視界は黒目部分が網目になっており、そこからのぞけるのですが、
50%ほど視界は失われますし、何より頭部の内部は最初から少しクサイ…。
蒸し風呂のようなコスチューム、狭い視界、そして臭気と、
ヘレン・ケラーも裸足で逃げだすほどの三重苦を持ってして少しずつ歩きます。
するとやはり
すれ違う登山者は笑顔になります。
40代~50代のおじさんおばさんが割と興味を持ってくれて話しかけてくれます。
で、けっこう言われたのが着ぐるみを見るなり 笑顔で「死にますよ」。
初対面でいきなり死の宣告をされるのもなかなか味わえない体験です。
途中 祠があったので、お地蔵さんに旅の安全をお祈りします。
帰りたい帰りたい帰りたい…
原「帰りたい帰りたい帰りたい…」
それぞれの思いを胸に、登山は続きます。まだ10分の1ぐらい。
■4・緊急事態
しばらく進んだ時点で、わたしたちは恐るべきことに気づきました。
俺「そう言えば、水とかは?」
原「あ、まだ買ってない」
俺「え?俺もまだ買ってないけど」
原「え?じゃあ誰一人として水 持ってないことになるね」
俺「何それ?マジで言ってる?コース途中に小屋みたいな売店ある?」
原「無いだろうね…」
俺「マジ?水分補給無しで登頂するの…?」
そうです、水分を買うタイミングを逃してしまっていたのです。
引き返すなんてことはこの時点では完全に無駄足になります。
最悪すぎるでしょう。もう一度言わせてください。最悪すぎるでしょう。
蒸し暑さはというと、不快指数の上限はとっくに超え、
その状態がもはや普通になってきています。
さらにわたくし汗かきなので、体全体からのように汗が噴き出し、
服に吸いつき、乾く間もなくどんどん染み込んでいきます。
頭部パーツは内側にヘルメットが付いているので、それをかぶる形で
固定されるため、メガネをかけたままかぶることが可能です。
が、熱気でメガネが曇り、結局視界はさらに狭まってきます。いっそ死なせて。
そんな中、琵琶滝が見えてきました。
俺「…。」
原「…。」
俺「ふつう。」
原「とおい。」
普通で遠い。
■5・沢と殺意
進むにつれて、木の根っこが地面からせり出して歩きづらいコースも出てきます。
この状態での不安定な足場はかなりハードで、何度もつまづきそうになりました。
ベンチがあったので小休止。しかし水分が無いので座っているだけでも
体力が無くなっていきます。周りの人は相変わらず笑顔になってくれ、
さらに「がんばって!」というありがたい励ましの声も聞こえます。
これは頑張らなければ…!
そして沢沿いを順調に進んでいくと、沢の近くまで下りられそうなところを発見。
原「うおー冷たくて気持ちいい!」
…。
原「飲むのはちょっと厳しいけど、顔洗うだけでも全然変わるわー。」
…。
原「ウヒョ~!」
明確な殺意を覚えたのはこの時です。
■6・中盤戦
コース上には14のチェックポイントがあり、それらを経て頂上にたどり着きます。
チェックポイントと言ってもコースの地図や小さなベンチがいくつか
申し訳程度に備え付けられているだけでした。自販機置いてくれ…こういう登山者もいるんだぞ!
握手も求められます。どこに行っても着ぐるみは人気です。何のキャラでもないのに。
注目度も高く、「罰ゲームですか?」との声も。いや、趣味なんです。
深い大自然の息吹を目の当たりにし、ここが東京とはとても思えません。
矮小で畜生なわたくしさえ優しく包み込んでくれる高尾山。まるでお母さんです。
お母さ~ん!仕事の帰りポテチとコーラ買ってきてー!
昔よく言っていた言葉をふと叫んでしまいました。なぜだろう。
暑さで幼児退行が進んだところで、一刻も早く頂上に行かないと
乳児になってしまいそうです。普段の体力なら問題ないのですが、
やはり装備が装備なだけに本当につらい。つらすぎる。
そしてここで急な階段。沢を詰めたあとは階段地獄、みたいなことが
ガイドに書いてあったため覚悟はしていたのですが、ここに来てこの仕打ち。
助けてくれ!エスカレーターにしろよ!
しかし捨てる神あれば拾う神あり。
おねえさん「かわいい!がんばってね!」
はい!(ベホイミぐらい回復しました)
おばあちゃん「お~大変だね!がんばって~」
はい!(ケアルラぐらい回復しました)
子供の親「はい、チーズ!」
(内部ではドロドロの顔をしています)
頂上までもう少し!
■終・頂上からの景色
息も絶え絶え歩いていると、やがて視界が開け、人が増えてきました。
視線も集まります。まさか…ここが…。
おお…。
頂上だ…!
やりました。ついにやりました。90分程度の時間をかけ、
ついにわたしは!高尾山に登ったのです。こんな状態で!登りきったのです!
頂上からの景色はまさに雄大そのもの。
山々が競い合うように高く高く背を伸ばし雲を掴もうとしています。
その雲は、空全体を覆いつくし、強い日ざしを和らげてくれています。
さらに普段と違う状態で登った甲斐もあり、疲れ・苦しさ・喜びが混ざり合い、
なんとも言えない高揚感がわたしを包みこみました。
ずっとお供をしてくれた原宿さんもこころなしか笑顔が戻ってきています。
何だかんだで充実しているのではないでしょうか。
何とか頂上に無事辿り着いた達成感とともに、3人で記念撮影です。
オモコロスタッフのセブ山さん、おつかれさまでした。敬具