エマゴーの下書き 2022年7月24日更新分

 

タイムカプセルに入っていたのは、入れた覚えのない謎の瓶――。

 

果たしてこれは一体なんなんでしょうか?

誰が、いつ、何のためにタイムカプセルに入れたのでしょうか?

 

その謎を解き明かすべく、この人の助けを借りることにしました。

 

オモコロライターの加味條さんです。

僕の部屋に来てもらいました。

 

よろしくお願いします! 加味條さんはホラー記事も書いていましたし、こういうのにお詳しいかと思ってお声がけしました。

その記事は完全に創作なんで、助けになるかはわかりませんが、がんばります。

ではさっそく、この瓶についてなんですが……。

気になるのは、これは何か、②誰が入れたか、③なぜ入れたか、ですよね。まず①の「これは何か」ですが……

 

真ん中に大きく書いてある文字は「不葉」ですかね? ググってみても、特にそれっぽいものはヒットしないです。

不葉……。埋まってた場所は、葉っぱだらけだったんですけどね。

 

埋まってた場所

 

その周りに書かれてるのは漢字ですね。「天・荒・狂・雷……」

漢文ですかね?

いや、よく見るとそうでもなさそうですね。ランダムに不吉そうな漢字をただ並べたような印象です。乱暴な所見ですが、「新興宗教や新宗教のなんちゃってお経」って感じがします。

なるほど……?

ちょっと現段階ではこれ以上わからないですね。次に②「誰が入れたか」ですが、考えられる可能性としては、

  A エマゴーさんが入れたが、忘れている。

  B 空き家の元住人が入れた

  のどっちかかな、と思いますが、Aではないんですよね?

はい。さすがにこんなもの、忘れないかと。

であれば、Bの「空き家の元住人が入れた」の線が濃いですが、たしか犬を飼っている夫婦だったとか。

そうですね。ただ、僕は夫婦がいないときにタイムカプセルを埋めたんですよ。夫婦はどうやってタイムカプセルの存在を知ったんでしょうか……?

埋めたところが不自然になっていて、気付いて掘り返したとか、犬が掘り出してしまったとか、そういうきっかけでタイムカプセルの存在に気付いたという可能性は十分にありますね。

たしかに……。でもなぜこの瓶を入れたんでしょうか?

それは本人たちに聞いてみないことにはわかりませんね……。撮影のために不動産会社に許可を取ったとのことですが、そこで元住人については聞けませんでしたか?

特に何も言ってなかったので、もう一回聞いてみます。

お願いします。ただ、瓶に書かれた文字はあまり縁起の良い言葉ではなさそうです。もし元住人が意図的にこれをタイムカプセルに入れたとしたら、そこに何らかの悪意があったのかもしれません。彼らに直接コンタクトを取るのは、少し慎重にやった方がいいと思います。

そうですね……。

 

 

ちなみに……。あまり言いたくないですが、もし新興宗教などが絡んでいたら、記事に載せるのは難しくなると思います。それに、調べても何もわからないまま終わる可能性も高いです。それでも調べますか?

実は、調べなくてはいけない理由がありまして……。

理由?

はい、実はこの瓶を掘り出してから、変なことが起きるんですよ。

……?

 

 

アパートの外廊下に面してるこの窓なんですが、ときおり外に何かいるような気がして……。

何か、というのは人ではなく……?

わからないんです。気が付くと人影があって、ジッと立ってるんです。

 

 

こっちが気づかないふりをしていると、コンコン窓を叩くんですよ。

それ、不審者だとしたら、普通に警察呼んだ方がいいですよ。

いえ、それが、影が出たときにいつも外に出て確かめてみるんですが……何にもいないんです。

なるほど……。

 

外廊下。右に見えるのが、問題の窓。

 

そもそも窓の下には洗濯機があるんで、窓のすぐ外に人は立てません。それに僕が外に出るタイミングで逃げているんだとしたら、確実に足音が聞こえると思うんですよね。

だから「誰か」ではなく「何か」がいると。

「それ」が現れるようになったのは、瓶を掘り出した日からなんですよ。関係あるように思えませんか?

うーん……。そう言われれば、そうかもしれませんね……。

だから、瓶の正体をはやく突き止めたいんです。

 

 

■加味條による追記

 

今読んでいただいたものは、実際にエマゴーさんが書いた下書きの一部である。

私、加味條の目線で、内容に少し気になる点があったため、こうして追記をさせていただく。

 

この日、私はエマゴーさんに初めてお会いした。彼の暮らすアパートに招かれ、撮影に協力した。繰り広げられている会話については、ほとんどが実際に行われたものだ。

 

疑問を抱いたのは、最後の「怪奇現象」についてである。

窓の外に立つ怪異……。不気味な話だが、実際にはこれに関する会話は一切行われていない。推測にはなるが、怪異についてはエマゴーさん自身による創作だろうと思われる。

 

現実に行われた会話は、下記のようなものだった。

 

「ちなみに……。あまり言いたくないですが、もし新興宗教などが絡んでいたら、記事に載せるのは難しくなると思います。調べても何もわからないまま終わる可能性も高いです。記事にするなら、あきらめて違うネタを探した方がいいかなと思いますが……

瓶について調べることを、このような言い方でいさめたのを記憶している。完全な創作ならまだしも、実在の、謎の小瓶の正体を突き止めるというのはカロリーが高いし、思わぬ危険に巻き込まれる可能性もあると考えたためだ。しかし、エマゴーさんはこれに強い難色を示した。

 

そして少しの逡巡のあとで、彼の身の上についてポツポツと語ってくれた。いわく、コロナ禍で就職活動がうまくいかず、大学を卒業する年だが、進路が決まっていない。その焦りからだろうか、

「なんとしても記事で一発当てたいんです。ホラー記事ってウケるって言うじゃないですか。他のネタじゃなくて、このネタで大きくウケれば何か変わるんじゃないかなって」

「その想いはわかりますが、やはりウケる展開になるかはけっこう難しいと思いますよ……? それに『記事が一発当たれば何かが劇的に変わる』という過度な期待はしない方がいいかもです……

私が言葉を選びながら言うと、彼は少し考えこんだのちに、何かを思いついたように顔を上げた。

 

「たとえば、僕の身に何か……何か怪奇現象が起こってることにしてみたらどうでしょうか? 本気で瓶について調べると、加味條さんの言うとおり行き詰ったり、危険な目に遭ったりするかもしれませんが、リアルとフェイクを混ぜれば自分でコントロールしながら面白くできると思うんです」

「うーん、まあ、編集部にも言って、ちゃんと『#創作』タグ付ければいいと思いますよ。あと記事の頭に『フィクションです』って書くとか」

 

この時点でエマゴーさんの中には何らかのアイデアが浮かんでいたようだった。彼の目がギラギラと輝いていたのが妙に印象に残っている。

彼の「また相談させてくれ」という言葉を最後に、私は彼のアパートを辞し、この日の撮影はお開きとなった。

 

 

彼の残した下書きには、まだ続きがあった。

一部、未完成と思われる個所もあるが、そのまま掲載する。

 

 

エマゴーの下書き 2022年7月31日更新分

 

後日――。

 

あれから調査を重ねて、いくつかわかったことがあります。

また加味條さんに来てもらい、調査の結果を報告しました。

 

 

あれから、あの家の元住人について色々調べました。

「元住人」だとややこしいので、仮にAさんとしましょうか。

はい。Aさんの消息について、不動産会社に聞いてみたんですが、残念ながら何も教えてくれませんでした。そこで、あの家の近隣の住民に少し話を聞いてみたんです。それでわかったんですが、どうもあの家で、一家心中があったみたいなんです。

心中!? Aさん夫婦が亡くなったんですか?

いえ、それが、Aさんの不在中に、まったく関係ない別の家族があの家で亡くなっていたそうなんです。

……?

 

@当時の新聞記事(ここは編集部に相談する!)

 

Aさんとは本当に縁もゆかりもない家族だったみたいで。僕は知らなかったんですが……当時は怪事件としてマスコミでも結構取り上げられてたみたいです。

なぜそんなことが……。

それが今でも動機やつながりは何もわかっていないみたいでして。Aさん夫婦は、その事件の直後に転居しているそうです。

まあさすがに、そんなことがあった家には住めないですね。

加味條さんの方では何かわかりましたか?

 

@加味條さんが調べた資料

 

僕は例の瓶に書かれた文言について調べてみたんですが、ちょっと近しいものを見つけました。関西の、密教系を起源とする新興宗教がありまして……。名前は伏せておきましょうか。そこで使われている真言に「不葉」の文字がありました。

 

@資料の「不葉」の部分クローズアップ

おお!

ただ残念ながら、資料が少なくて意味までは分かっていません。それに、この真言の「不葉」が瓶の「不葉」と関係があるかもわからないですね。

それで言うと、ちょっと気になることがあります。先ほどの新聞なんですが、

 

@新聞記事 再掲

 

心中した一家の苗字が、K(伏字にしています)なんですよ。

結構、珍しい苗字ですね。

調べてみたら、この苗字ってほとんど関西にしかいないんですよね。

関西……? まさか……

はい。「不葉」の密教と、心中したK一家に何か関係があるんじゃないでしょうか?

 

そのときでした。

 

コツン…

 

コツン…

 

と、不意にガラスをたたく音が室内に響きました。

 

加味條さん、窓に!

 

 

……まさか、これがこの前言っていた?

出てみましょう。

 

 

……。誰もいない。

……見ましたか?

……はい。たしかに、今外に出る直前までガラスに人影が映っていましたが、ドアを開けた瞬間に消えたように見えました。

実は、最近”あれ”が現れる頻度が明らかに増えてるんです。

こうなったら、Aさんを見つけるしかないですね。もう一度不動産会社にあたってみましょう。

 

 

■加味條による追記

今読んでいただいた部分は、すべてがエマゴーさんによる創作である。

 

実際には、一家心中に関する会話も、密教についての調査も行っていないし、怪奇現象も起こっていない。

 

前回の撮影から数日後に、エマゴーさんに呼ばれて再び彼の家を訪れた。

そこで「記事に使うから」と写真を何枚か撮影したものが、下書き内に使用されている写真である。窓の外に立っている人影はエマゴーさん自身であり、撮影者は私だ。

おそらくこれが、前回の撮影時にエマゴーさんが思いついた展開なのだろう。

 

ちなみに、この下書き部分を読んで気になり「旧Aさん宅のある地域(埼玉県S市)で起こった一家心中事件」「関西を拠点とする密教系の新興宗教」について調べてみたが、どちらの件についてもそれらしいものは見つからなかった。

特に心中事件に関してはかなりセンセーショナルであり、実際に起こっていたとしたらメディアが放っておくはずもない。何も見つからない以上、エマゴーさんの創作と断定しても差し支えないだろう。

 

それとは関係なく、1つ、書いておかなければならないことがある。

この日、エマゴーさんのアパートに、ある異常なことが起こっていた。

 

それは窓の外に立つ人影ではなく、これだ。

 

 

鳥の羽根が、部屋中に散らばっていたのだ。

これらはすべて、前回訪れた際には無かったものだ。当然気付いてすぐに「これは何か?」とエマゴーさんに問いただしたが、

「何って、鳥の羽根じゃないですか」

とあっけらかんとした様子で返されてしまった。まるで「鳥の羽根が室内にあることが当然である」といった様子だった。

 

 

羽根自体は、おそらく作り物ではなく、本物のようだった。ニワトリの羽根だろうか? さらに室内にはうっすらと動物の臭いが立ち込めていて、小学校のニワトリ小屋を思い出した。この臭いも、前回訪れたときには無かったものだ。

 

 

玄関や、デスクの上にも羽根が散乱しており、明らかに異常な光景だった。

これらの写真はエマゴーさんにことわって撮影していたのだが、撮影している間も終始彼は「なぜ羽根なんかに興味を持っているのかがわからない」と当惑している様子だった。

「羽根はエマゴーさん自身が持ち込んだのか?」「いつからあるのか?」「なぜ片づけないのか?」など質問をいくつも投げかけたが、困ったような顔をするばかりで要領を得ない。さらに、羽根以外の話題を振れば、なにごともないように受け答えをしてくれて、それが余計にこちらの不安をあおった。

あまりに異様な状況に居心地が悪くなり、記事に必要だという写真を撮り終えたところで早々に部屋を発とうとした。

去り際にエマゴーさんに、

・部屋中に羽根が落ちている状態は明らかに異常である。

・それに異常性を感じていないのであれば、エマゴーさん自身も異常である。

という意味のことを言葉を選んで説明したうえで、医療機関を受診すること、心配ならお祓いを受けることを強く勧め、彼の家をあとにした。

 

 

そしてそれを最後に、エマゴーさんとは連絡が取れなくなった。

 

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