■編集部による注:

 

2022年8月15日、ライターの加味條より編集部に「エマゴーと連絡が取れない」との知らせがありました。

最後に加味條とエマゴーが連絡を取った日、および編集部がエマゴーとチャット上で連絡を取った日は2022年7月31日であり、下書きの最終更新日と一致します。

つまり、丸2週間、連絡が取れていないことになります。

 

オモコロライターと連絡が取れなくなることはよくありますが、加味條から「最後に会ったときの様子がおかしかった」と知らされ、念のため電話とチャットでエマゴーに連絡を試みましたが、どちらも不通でした。

彼がまだ学生であったことから編集部では彼の保護者の連絡先を控えており、家族にコンタクトを取ってみたところ、家族にもこの2週間連絡がないことが判明しました。

その日のうちに家族から再度連絡があり、彼のアパートの部屋も明らかに数日間以上放置されたような状態であったこと、この2週間大学の夏季集中講義にも姿を見せていないこと、アルバイト先の飲食店も無断欠勤していることが判明し、家族から警察に通報することになりました。

 

後日、家族から詳しく知らされたところによると、彼のアパート内は足の踏み場が無いほどに鳥の羽根が散乱しており、異様な獣臭さが立ち込めていたと言います。

 

以降に載せる文章は、本件に対しライターの加味條が追加で調査を行った記録になります。

 

 

 

エマゴーさんの失踪に何か手がかりがあるのではないかと、彼がタイムカプセルを掘り出したあの家を後日1人で訪れた。

編集部から聞いた住所は、埼玉県S市のもので、周囲は閑静な住宅街といった風情の場所だった。

 

「おじさん、この家のこと知ってるの?」

家の前で写真を撮っていると、背後から声をかけられた。声の主は小学校3~4年生と思われる少年3人組だった。夏休み中なのだろう、鞄も持たず軽装で、そのうちの1人は虫取りにでも行くのか大きめの懐中電灯を持っていた。

「この家のこと知ってる」とはどういう意味かと尋ねると、彼らは少しがっかりしたような顔を浮かべた。なおも聞くと、1人の少年が口を切った。

 

「そこ、お化け屋敷なんだよ」

 

「……この家に、何か怖い噂でもあるの?」

そう尋ねると、彼らは顔を見合わせる。ややあって、リーダー格と思われる少年が語り始めた。

「ここんちの前を通ったらさ、振り返っちゃいけないんだよ」

「振り返っちゃいけない?」

「そう。あっちから来てもこっちから来ても、通り過ぎてからこの家を見ちゃダメ」

振り返るとどうなるのかと聞くと、今度は別の少年が口を開いた。

「夜、この家ん中で目が覚めるんだよ」

目が覚める、とはどういうことだろうか。夢の中での話を指しているのか。

彼らから聞き出した話では、そうではないらしい。

いわく、この家を振り返って見てしまうと、その夜の就寝後に、体が痛くて目が覚める。そして、いつの間にかこの家の中で寝ていたことに気付くのだという。パジャマのまま、靴も履かずに、真っ暗でほこりっぽい畳の上に寝ているというのだ。

「どうやってそこまで行ったのかは、思い出せないんだよ。気が付くともう家の中にいるんだって」

「それは君たちの誰かが実際に体験したの?」

そう聞くと、彼らは再び顔を見合わせ、かぶりを振る。

「でも、マジでこの家で夜中に目が覚めて、はだしで帰って来たってやつもいるんだよ」

だがそれが誰かと聞くと「3組のよっちゃんの兄貴のクラスメート」だとか「5年生の誰か」だとか、伝聞の域を出ないようだった。いわゆる「Friend of a Friend」。都市伝説のたぐいのようだ。

 

そこまで話したところで、少年たちは去っていった。

ふと思い至ったのだが、おそらく少年の1人が懐中電灯を持っていたのは、この家を探検するためだったのではないだろうか。いざ来てみたら見知らぬ大人が家の前で写真を撮っているので、思わず話しかけてしまったのだろう。町のお化け屋敷は、夏休みの冒険にうってつけに違いない。

そんなことを思いめぐらせながら、少年たちの背中を見送る。彼らは、決して振り返らなかった。

 

 

再び家の様子を見ていたところ、人の視線を感じた。

見ると、少し離れたところからこちらを窺っている人影があった。

 

「あんた、不動産の人?」

目が合って、声をかけられた。聞けばこの家の近隣住民のSさんという方で、少年たちと話している声が聞こえて出てきたのだという。

「鍵がかからない窓があるみたいで、子供らが勝手に入って夜中まで大騒ぎするから困ってんのよ」

 

※顔にボカシを入れることを条件に、写真の使用を許諾してくれた。

 

思い切って「この家に来たあとで失踪した知人を探している」と事情を話すと、Sさんは何か得心した様子だった。

さらに聞いてみると、エマゴーさんが以前ここに来たのを見たという。一瞬、失踪後にここに来たという意味かと思ったが、どうやら最初にタイムカプセルを掘りに来た際に、撮影の様子を目撃しているという意味のようだ。

 

※下書き内で使われていた写真。

あとで写真を見返して気付いたのだが、たしかにタイムカプセルを掘る場面で使われている写真に、Sさんと思われる人物が映り込んでいた。

「何か騒いでるから、また子供たちかと思って見に来たら、髪の長いメガネのお兄さんに『撮影だ』って言われてねぇ。てっきり『テレビかしら?』なんて思ったから、よく覚えてるよ」

「あの……ここに住んでいたのは、どんな方だったんですか?」

少し迷ったが、元住人について聞いてみることにした。

すると彼女は少し難しい顔をして、切り出した。

「変な人だったね……。おじいちゃんとおばあちゃんの2人暮らしだったんだけど、拝み屋みたいなことをしてて

「拝み屋?」

「なんの宗教かはわからないんだけど、よくお客さんが来て、お経みたいなのを唱えてるのが聞こえてきて……。でも妙だったのが、お客さんがみんな来る前から妙にニヤニヤしてるのよ。ほら、普通、そんなとこに来る人なんて思いつめて暗い顔してそうじゃない?」

どうやら拝み屋家業は順調だったようで、お客さんはひっきりなしに来ていた。県外ナンバーの車が停まっているのも、珍しくなかったという。

「それに、お経に混じってときどき笑い声が聞こえてくるのよ。それも何だか変でしょう」

笑いながら拝み屋に依頼に来て、笑いながら行われる儀式とはいったい何なのだろうか。何を願って行われた儀式なのだろうか。

「今は転居されているようですが、どちらへ行ったかはご存知でしょうか?」

「転居っていうかねぇ……。もう亡くなってるわよ、2人とも

ここに来て、意外な事実が判明した。

「5年前ぐらいかしら。奥さんの方が病気しちゃって、亡くなって……。旦那さんは一人でしばらくいたんだけど、施設に入ることになったって言って出て行ったっきり」

「では、旦那さんはご存命なのでは?」

「それがね……」

いわく、旦那さんが出ていって数か月後に突然清掃業者が来て、家財道具を一切片付けてしまったのだという。さらにそのまま家も取り壊すことになった。

「解体の業者が来て、タオルなんか配って回って、囲いも作って……ってなってから、急に工事をやめちゃったのよ」

理由もわからないまま、解体業者は囲いを壊して撤収してしまったという。あとに残ったのは、解体途中のぼろぼろの状態の一軒家というわけだ。

なんとも、妙な話だ。

「妙といえば、ひとつ思い出したわ。ちょうどメガネのお兄さんたちが穴を掘ってたあの庭でね……」

「うんと前、まだ奥さんも元気だったころ、一度旦那さんの方が庭で火を燃やしてたのよ。ゴミでも燃やしてるのかなって思ったけど、乾燥する季節だったから、気が気じゃなくてねぇ。うちの人とやめてくれって言いに行こうとして、見ちゃったのよ」

家の方から庭にいる旦那さんに声をかけようとして、ふと彼が燃やしているものが目に入った。一斗缶の中で燃えているのは、大量のお守りや破魔矢、御札のたぐいだったという。

「ちょうど1月だったから、ほら、初詣とかでお守りを返す箱があるじゃない? あの中身をそっくり持ってきて、燃やしてるような感じだったからびっくりしちゃって」

 

◇ ◇ ◇

 

Sさんにお礼を言って別れる。

別れ際に、エマゴーさんが下書きに書いていた「心中事件」についても聞いてみたが、そんな事実はなかったという。あれはやはり、創作と思ってよさそうだ。

 

ここに来る前に、不動産会社に連絡を取り、家の鍵を借りていた。

Sさんの「鍵のかからない窓がある」という言葉も妙に引っかかった。もしかしたら、エマゴーさんは家の中にいるのではないか。

家の中に入ってみることにする。

 

 

古びた玄関のドアには、しっかりと鍵がかかっていた。鍵を開け、中に入る。その瞬間、ぎょっとした。家の中から漂ってきたのは、強烈な獣の臭い。そして……

 

 

羽根だ。羽根が落ちている。

エマゴーさんの家で見たものと、よく似ている。

やはり、中にエマゴーさんがいるのではないだろうか。

 

「エマゴーさん!」

家の奥に向けて呼びかけるが、一切の返答はない。

 

 

家の中は荒廃していて、解体工事の最中だったというはどうやら本当のようだった。一部の壁は剥がされ、トイレも撤去されている。

がらんとした空間に自分の足音が妙に響き、落ち着かない。

 

 

玄関を入って奥の和室だ。畳の上に、また羽根が落ちていた。

エマゴーさんの気配はない。再び名前を呼んでみたが、何の反応も返ってこない。

 

 

2階に上がる階段を見つけた。

獣の臭いは上から漂ってくるように感じるが、定かではない。日が暮れるにつれて、電気のない室内はどんどん暗くなっていく。

足元をスマートフォンのライトで照らしながら、上階へ向かう。

 

 

2階には、和室が2つある構造のようだった。

階段を上がってすぐの和室には、同じように羽根が落ちている。

 

 

もう一方の和室も同様のありさまだ。エマゴーさんの名前を呼ぶが、反応はない。耳を澄ませるも、特に何の音も聞こえてこない。

電気の通っていない室内は、急速に暗くなっていた。

 

心細さに任せて、家を出た。

 

 

 

■編集部による追記:

重ねてのお願いになりますが、エマゴーの行方について何かご存知の方がいましたら、下記のアドレスまでご連絡ください。

a.bigger.brother@gmail.com

※ご家族の連絡先になります。ご連絡には返信できない場合がございます。あらかじめご了承ください。

取材した地域については、実際に現地をご存知の方には伝わるように、という意図で一部のみを伏字にしております。物件の特定や、第三者が該当地域へ行くなど、地域住民に迷惑のかかる行為はくれぐれもご遠慮ください。

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<8月21日 追記>

記事公開の直前に、この記事が何者かによって編集されました。オモコロのシステム上、更新者が誰かの特定は難しいのですが、おそらくエマゴー本人によるものだと思われます。

追記されていた文章を、そのまま下記に掲載します。

 

 

 

 

引き継いでdしまった

年号なんて書いたから

開けるのをしっていた

 

/O9Mp0mNvwGc

 

 

 

 

探さないでください