「0-5で負けてるとき何考えてる?」など、いろいろと聞いてみた

ここまでで、「コールリーダーが何か」については結構わかってきた気がしますので、ここからはお2人に気になることをドシドシ聞いていければと思います。まずは、これです!

 


シーズンってそもそも何試合あるんですか?
だいたい年間40試合前後ですね。半分が地元、半分が遠征です。J1だと北は北海道、南は佐賀までありますね。
J2だと秋田から沖縄までになります。
沖縄……!
それに、試合は基本土日ですが、平日ナイターもちょこちょこあります。
大変だ。全試合に行ってるんですか?
できるだけすべて行くようにしてます。コロナ前は、3年連続で全試合行ってました。
すげっ。
僕も、「どうにかいけるようにする」が大前提ですね。行けなかったのは、仕事の融通がつかなかったときと、冠婚葬祭ぐらいです。それ以外で行けなかったことあったかな……。
去年1回、ワクチンの副反応で行けませんでした。

そればっかりは仕方ないですね。じゃあ仕事と冠婚葬祭以外は、全部行くと。
冠婚葬祭でも、遠い親戚の法事だとそもそも親から知らされないときすらありました。「どうせ試合でしょ」って。
家族の理解も大事なんだなぁ。

 

 

実は嘉納さんと髙橋さんはもともとお知り合いだったとか。コールリーダー同士って結構知り合いが多いんでしょうか?
関東のチームならほとんど繋がってますね。だいたいは日本代表の応援に行ったときに知り合います
たいてい、共通の知り合いがいるんですよ。そういう人が、試合後に一席設けてくれたりね。
そういうときって、コールリーダー同士で応援方法について情報交換とかするんですか?
「こんなときどうしてた?」って聞くことはあります。たとえば、2018年に湘南ベルマーレがルヴァンカップ(※)を優勝したんですけど、ルヴァンカップの決勝戦ってコレオグラフィーをやるのが定番なんですよ。
※ルヴァンカップ……毎年Jリーグとは別に、J1のチームを中心にトーナメントで争われる大会。
コレオって、あの人文字みたいなやつ?
そうです、サポーター1人1人が頭の上にボードを掲げて、文字や絵を作り出すやつですね。

2017年のルヴァンカップ決勝。川崎フロンターレとセレッソ大阪のコレオグラフィー(加味條撮影)

そのときは、セレッソ大阪のコールリーダーに「デザイン作るときにどの座席表使った?」とかいろいろ聞きましたね。地上波で全国放送されるんで、生半可なものじゃいかんぞ、と。
えっ、あれもサポーターが自主的にやってるの!?
クラブによっては違うかもしれないですが、基本サポーター発信です。デザインも、掲げるボードの設置もすべてサポーターが行います。このときはゴール裏だけで1万席あったので、有志200人で朝8時に集まって、1時間でがーっと仕上げました。
1万席……気が遠くなりますね。

 

 


うーん、いろいろありますけど……。
あー、「試合中、全然応援してないじゃん」とか言われるとちょっと悲しいですね。
どういうことですか?
ゴール裏のサポーターって、試合中飛び跳ねたり、手拍子したりしながら大声で歌い続けるので、結構肉体的にしんどいんですよ。でもコールリーダーはそういうことをしないんです。


「この曲をどこまで引っ張ろうか」とか「次どの曲に繋げよう」とか考えることが多いんですよ。試合の展開にしっかり合った応援になるように、スタンド見たり、時計見たり、ベンチ見たり、見なきゃいけないところも多いので……。だから、一生懸命はねて歌ってる人から見ると、何もしてないように見えちゃうんだと思います。
まさにそれです!「動いてないし歌ってないじゃん!」みたいな。コールリーダーが歌に熱中しすぎると、情報収集ができなくなるんですよね。
なるほど、試合中は次の展開を考えて頭がフル回転してると。
すごく良いプレーした選手や、倒れた選手のコールを入れたりとか、ピンポイントで対応することもありますからね。
失礼な話、試合中って選手の見分けつくんですか?
正直、自分の席から遠いと全然見えないんですよね(笑) スパイクの色で判断したり、周りと話し合ったりして、間違えないようにコールします。
湘南のスタジアムも、逆サイドだと全然見えないです(笑) 点取った選手が誰かわからないので、ゴールしたらすぐに盛り上がる歌を歌って、スタジアムDJの「○○選手がゴールしました!」っていうアナウンスが入ったときに選手をたたえる歌に切り替えたりしてます。
ゴール後の歌ってそんな仕組みだったんだ。
でも、それだとほとんど「試合を楽しむ」って感じではないんですね。
そうかもしれません。いろんなものを俯瞰で見ながら、応援のための情報収集として観てます
“仕事”だ。

 

 


では逆に「やっててよかった!」という瞬間はありますか?
何年かに一回というレベルなんですけど、自分の出した応援がスタジアムの空気を変えたときですね。
あー、わかります! 「応援がハマったな」っていう瞬間ありますね。
スタジアムの人たちの感情と、自分が出したチャントのメッセージが合致したとき、本当に空気が変わるんです。その空気でゴールや勝利につながりでもすると、コールリーダー冥利に尽きますね。
確かに、ちょっとわかる気がします。スタジアムのメインスタンド、バックスタンドの人って普通あんまり応援に参加しないんですよ。でも気持ちが昂る展開で、スタジアムの3面全員が手拍子始めたときの一体感ってめちゃくちゃ気持ちいいんですよね。

 

うちの場合は、ゴール裏の客席が低い位置にあるんですよ。だから、点とった選手が目の前まで走ってきてくれたり、試合後にあいさつに来てくれたりすると、しっかり目と目が合うんです。そういう瞬間はやっぱりうれしいですね。
報われる瞬間ですね。一番応援を頑張ってきたからこそ、選手の一番近くで感情を分かち合えると。

 

 


サッカーの試合って当然、5点差とか大差で負けちゃったり、勝ってたのに追いつかれちゃったり、メンタル的にきつい状況がありますよね? そういう逆境で、コールリーダーのお2人はどうやってメンタルを整えているのか気になります。
メンタル、整ってないです。イライラしてます(笑)
そうなんですか!?
0-5、0-6と連続でボロ負けしたときがあったんですよ。そういうときは、「とにかく俺らだけはやれることやらなきゃ」「選手がへこんでても俺らはやってたよねと言える状況を作らなきゃ」と思って、イライラを押し殺して全力で応援してました。
その気持ちわかるなー!

一生懸命応援してないサポーターが、一生懸命走ってない選手に文句言えないじゃないですか。だから、こっちも意地で応援を続けるんです。
意地か……。
たとえば、0-5になると「ひっくり返せるわけない」っていう割り切りもどこかであるんですよ。それでも、次につなげるために「1点でも返して意地見せて終われよ」という気持ちで応援します。やっぱり根底にあるのは意地ですね。
……そういえば、ヴェルディと言えば、2015年の岐阜戦(※)で0-3をひっくり返しましたよね?

(Googleより)

※2015年J2第7節。前半27分時点でFC岐阜が0-3でリードしたが、後半38分からの4得点でヴェルディが逆転勝利を収めた。

あの試合、前半僕がコールリーダーやってたんですけど、やることなすこと全部裏目に出るような状況で。太鼓叩いてた先輩から「お前今日”持ってない”から降りろ」って言われて、後半別のやつがコールリーダーやったんですよ。そしたら逆転しちゃって、個人的にはめちゃくちゃ複雑です。
試合中のコールリーダー交代とかあるんだ……。
後にも先にも、その1試合だけですね。悪い意味で印象的な試合です。
すみません、間違った扉を開けてしまいました。
大丈夫です(笑) もうネタにしてるんで。

 

 


さっきの話ですが、”持ってない”とかもコールリーダーに責任が来るんですね。
うーん……。応援がどこまで影響を持ってるかは、正直わからないですけどね。
それって、割とサポーターにとって永遠のテーマじゃないでしょうか? 「金も時間もつぎ込んで、体も酷使してチームを応援する――でもそれってどこまで意味あるの?」という問いは、結構方々で聞くように思います。そのあたり、お2人はどうお考えでしょうか?
僕は、90分の中で選手誰か1人が、一瞬でも、「サポーターの声が聞こえたから頑張れた」って思う瞬間があれば勝ちだと考えてます。もしくは、相手チームが「ヴェルディのサポーターが作る雰囲気の中だとやりづらいな」って少しでも思えば、やった甲斐があるなと。
なるほど……。
あとはサポーターに向けてというのも大きいかもしれないです。周りの人たちが、応援によって試合にもっと入り込めたり、一見さんが応援が面白くて「また試合に行こう」と思ってくれたり。
結局は自己満足のところが大きいんですよ、応援って。選手のために応援することを通じて、日ごろのストレスを発散できたり、スタジアムの雰囲気を面白がったりできるなら、十分やる意味はあるじゃないですか。そうやって続けていれば、例えば子どもたちが「ベルマーレの応援楽しかった」って思って、大人になってからもスタジアム来てくれるかもしれないですよね。
なるほど……。応援って、やってて楽しいんですよね。なんだかんだ。
勝ち負け以上の楽しさがあるのか……。ちょっと気になってきました。

 

<最後のページ:「仕事は何してるの?」読者からの質問コーナー>