ONE PIECEの元ネタ落語(こじつけ編)
ここからは、元ネタというには根拠が希薄なものを紹介します。
「落語ってどんなのがあるのかな〜」と噺探しをする際にヒントになるよ…程度にお考えください。
6巻:三千世界(こじつけ度:50%)
ゾロの必殺技「三千世界」です。
これは前ページでも説明しましたが、同じワードを使った都々逸がキモになる「三枚起請」という落語があります。
12巻:カームベルト(こじつけ度:100%)
グランドラインの仕組みを説明するシーンで、一本の海流が二本の無風の海域に挟まれているという図解が出てきます。
これは桂枝雀が考案した「オチの四分類」を解説するときの図解と酷似していますね!
これはまごうことなきこじ付けですが、「オチの四分類」という仮説自体は笑いを研究・考察するものすごい理論なので、一度調べてみてください。
24巻:ハンマーで指を打つシーン(こじつけ度:90%)
ウソップがハンマーで釘を打っている時に、間違えて指を打ってしまうシーン。なぜか打った指とは違う指が腫れている…という描写があります。
似たようなシーンが落語の「粗忽の釘」に登場します。粗忽者を端的に示す面白いシーンです。
【あらすじ】
スーパーおっちょこちょいな男が引越しをすることに。当然すんなり行くわけがなく、新居でうっかりどデケエ釘をぶち込んで、隣の家まで貫通してしまったり…とてんやわんや…。
失敗してばかりの粗忽者とそれに振り回される周囲の人間…という構図。ボケとツッコミの役割分担が明確なので割と分かりやすい噺な気がします。爆笑の連続なので聴いて損ナシ!
29巻:大蛇に飲まれる(こじつけ度:70%)
巨大な蛇に丸呑みにされて、蛇の胃の中でルフィとナミが再会するというシーン。
恋人同士という設定ですが、落語「うわばみ」に似たようなシーンがあります。
【あらすじ】
人間を丸呑みしてしまうウワバミ。命乞いする男を意に介さず、ペロリと平らげてしまう。
その後、先ほどの男の想い人である女性があとを追いかけてきた。男の行方を知るや、女性も自ら丸呑みにしてもらう。
ウワバミの胃袋の中で2人は再会を果たすことに…。
滑稽噺ながら結構壮絶なストーリーなので、どういう風に聴いていいか戸惑うかもしれません。「まあ単なる嘘話だしな…」という腹持ちで鑑賞すると良いのではないでしょうか。
31巻:うそつきノーランド(こじつけ度:70%)
「うそつき」と罵られながら無念の死を遂げるシーンが描かれています。
うそつきといえば、落語「うそつき弥次郎」ですね。
【あらすじ】
うそつき弥次郎とあだ名される稀代のうそつき男。
話す内容も『北海道に行ったらあまりの寒さに「おはよう」という挨拶が凍ってしまった。凍ったおはようは枕元で溶かして目覚ましに使っている』など、もうめちゃくちゃで…。
古典の風情を感じるような嘘が心地いい落語です。
誰かを騙す意図がないというか罪のない嘘というか…現代のセンスではちょっと思いつかないようなくだらなくて味のある嘘を一度聴いてみてほしいです。
45巻:ルフィとウソップの仲直り(こじつけ度:100%)
仲良しだった2人がほんの小さな行き違いから大げんか・絶縁してしまうシーン。
落語「笠碁」でもおじいちゃん2人がしょうもないことで大げんか・絶縁していました。
【あらすじ】
囲碁好きの爺さん2人がひょんなことから大げんか。お互いに「お前と囲碁なんか二度とやんない!」と絶縁してしまう。
…けれど、本音は2人とも仲直りしたくて…。
めちゃくちゃ可愛い落語です。意地を張るおじいちゃんと素直になれなくてもじもじしてるおじいちゃんの可愛いこと可愛いこと…。
囲碁盤を前に2人がパッ!と仲直りする瞬間があるんですが、見ていると顔の筋肉が勝手にほころんでしまうような名シーンです。大好きな落語。
48巻:国引き(こじつけ度:80%)
巨人オーズが昔国を引いていた…という国引き伝説を語るシーンがあります。
そういえば落語にも「松ひき」という噺がありました。こちらは国ではなく松を引くのですが。
【あらすじ】
とある所に粗忽者だらけのお屋敷があった。殿様も粗忽、側近のお供も粗忽。そんな殿様がある日、庭の松を引きたい(=植え替えたい、の意)と言い出して…。
大名が粗忽者という「元祖バカ殿様」とも言える噺です。
落語に登場する粗忽者らしく、終盤にかなり飛躍した「うっかり」が出てきます。冷静に考えると笑い事じゃないのでは…? という展開なのですが、「これはあくまで落語だから…」という心持ちで受け入れてくれたら…。
52巻:八咫の鏡(こじつけ度:50%)
海軍大将黄猿の技名です。本当の元ネタは三種の神器「ヤタノカガミ」なんですが…。
落語「松山鏡」には、この鏡の複製品「八咫の鏡の写し」が登場します。
【あらすじ】
親が死んでから十数年、1日も墓参りを欠かしたことがないという正直者の男。その孝行ぶりがお上の耳に届き、特別に褒美がもらえることになった。
なんでも願いを叶えてやると言われ、男は「死んだ父親にもう一度会いたい」と願い出るが…。
最近「誰も傷つけない笑い」という単語をよく聞きますが、この落語はまさしくそれなんじゃないでしょうか。
悪い奴も出てこないし、嘲笑するような笑い声も上がらない…ただただほっこりする噺な気がします。
爆笑できる落語か? と言われるとちょっと違うかもしれませんが、聞き終えた後はなんかいい気持ちになるんです。
70巻:ディアマンテ(こじつけ度:30%)
ドフラミンゴが「お前は天才だ」と褒めるのに、本人は「いやいや俺なんて…」と謙遜を繰り返す。
結局ドフラミンゴが折れて「じゃあ…」と言うと、「そこまで言うなら認めよう!」と言い出す、というめんどくさい性格を描いたシーン。
落語の「紀州」でも似たような奴がいましたね。
【あらすじ】
世は徳川幕府の時代。7代目の将軍が亡くなり、8代目を決めなくてはならないことに。候補は尾州藩主と紀州藩主の2人。
絶対に将軍になりたい尾州侯。その思いが強すぎたのか、鍛冶屋が刀を打つ「トンテンカン」という音も「テンカトル」に聞こえてくるほど…。
「将軍に任命する」と言われた時に即答するとちょっとダサいので「いやいや俺なんて…」と一回断ってから引き受けよう、と小狡い計略をたてる下りがあります。
なんか、人間の本質的なおかしみをテーマにしてるので向こう数百年もずっと面白い落語だと思うんですが、何より特筆すべきなのはそのクソみたいなオチです。
バカバカしすぎて初めて見たときめちゃくちゃ笑っちゃったんです。この落語のオチはマジでヒドくて最高です。
77巻:つけものバリバリ(こじつけ度:20%)
SBSにて、バルトロメオのバリアについての質問に対し、尾田先生は「この防御力はつまり500ツケモノポリポリバリバリというわけです」と答えています。これだけ書くとなんのこっちゃですね。
ツケモノポリポリバリバリといえば落語「たらちね」です。
【あらすじ】
独り者の八五郎の元に待ち焦がれた縁談の話が!
しかも、相手の娘さんは「若くて、美人で、嫁入り道具も全て取り揃えている」という奇跡みたいな展開。
しかし、彼女にはたった一つ、欠点があって…。
奥さんを迎える前に、八五郎が新婚生活を妄想してはしゃぐシーンがあるんですが、そこで「漬物ポリポリバリバリ」みたいなはしゃぎ方をするんです。これだけ書くとなんのこっちゃですね。
要は「どんな娘さんかな〜! 早く会いたいな〜! きっと可愛い娘だから、漬物だってポリポリと遠慮がちに食べるだろ〜な〜! でも俺は豪快にバリバリいっちゃうもんね! 漬物ポリポリにバリバリだね!ウッヒョ〜!」みたいにはしゃぐ感じ。
たらちねはこの新妻を迎える男の有頂天っぷりも一つの聞きどころなんですが、のちに奥さんのある欠点のせいで巻き起こるドタバタもまあ楽しい噺です。
83巻:つー!るー!(こじつけ度:5%)
鶴の姿をした敵が「つーッ! るーッ!」という分かりやすい声をあげながら突進してくるシーンです。
これは落語「つる」を元ネタにしているのではないでしょうか?
【あらすじ】
おっちょこちょいな男、八五郎が物知りの隠居さんに「なんで鶴はそういう名前になったの?」と質問する。
隠居は冗談がてらその由来を説明、八五郎は「面白い話だ」と他の人にも聞かせに行くことに…。
つるの語源を教える隠居が『「ツー!」ときて「ルー!」ってきたから「ツル」になったんだよ』というめちゃくちゃな嘘をかますシーンがあります。いいですね、この無責任なユーモア。
初心者向けのお手軽な落語なんですが、この「ツーっときてルーっときたからツルだ」という隠居さんのジョークを、八五郎が「面白いジョークだと受け取る」のか「本当の由来だと信じちゃう」のか、この解釈の違いで噺の雰囲気が結構変わります。個人的には前者の方が好きなんですけどね。
86巻:演る(こじつけ度:100%)
マザーカルメルが「聖母演(や)んのも楽じゃねえんだ」と言うシーン。
演じることを演(や)ると表記するのは立川談志が始めたものですね。うん。
91巻:お鶴・お菊(こじつけ度:10%)
キャラの名前で「お鶴」「お菊」が登場します。
お鶴といえば落語「八五郎出世」
お菊といえば「お菊の皿」です。
【八五郎出世のあらすじ】
主人公は八五郎という男。ある日、八五郎の妹がなんと殿様に見初められお屋敷に嫁いで行った。しかも、お世継ぎの男子まで出産するというまさにシンデレラストーリー。
そんな中、妹の「兄に会いたい」という願いを聞き入れた殿様が八五郎を屋敷に招待した。しかし、八五郎はそんな場所でどう振る舞っていいのかさっぱりわからずてんやわんや…。
この妹の名前が「お鶴」なので、ひょっとしたら元ネタにしているかもしれませんね。
この八五郎出世(別名:妾馬)という落語はまさに笑いあり涙ありというやつ。
「無礼な一般庶民が、偉い人に会うために無理やり作法を学んで挑むが全然うまくいかねえ」という落語界の鉄板シーンもあり、妹を思って涙するという泣かせる演出もあり、最後は出来すぎだろってくらいのハッピーエンドで終わるというほぼ無敵なフォーマットになっています。
【お菊の皿のあらすじ】
井戸から出てきて「いちま〜い、にま〜い」と皿を数えることで有名な幽霊、お菊さん。その姿を一目見ようと行ってみたら、なんとまあめちゃくちゃ美人!
その噂が広まって、いつの間にか江戸中の人が集まる一大観光スポットとなって…。
皿屋敷という怪談をパロディした落語なのですが、そういえば「井戸から出て皿を数える」というシーンもONE PIECEで描かれていましたね(シンドリーちゃん ONE PIECE46巻より)。
このお菊の皿(別名:皿屋敷)という噺はめちゃくちゃ面白いんですが、中でも「お菊の井戸」が観光スポットになるという飛躍した展開は必見です。
演じる噺家さんによって様々なアレンジがなされており、お祭りの縁日みたいになっていて「お菊さん饅頭」が売られていたり、花火大会が催されていて提供を読み上げていたり、さながらアイドル会場みたいな雰囲気に仕立てていたりと千差万別。
噺家さんの「笑わせよう」というサービス精神とオリジナリティがぎゅう詰めになっているシーンなので、このシーンだけ詰め合わせたコンピレーションアルバムが欲しいくらいです。
91巻:宝船(こじつけ度:80%)
食料の山を宝船と称して庶民に分け与えるシーンがありました。
落語で宝船といえば「羽団扇」です。
【あらすじ】
「どんな夢見てたの?」「夢なんか見てねえ!」とくだらない喧嘩をしている夫婦。するとなぜか天狗に捕まり、夢の内容を話すよう尋問されることに。天狗の羽団扇を利用してうまいこと逃げ出すと、そこは七福神の乗った宝船の上で…。
狂ったあらすじですね。
夢がテーマの落語なので、まさにめちゃくちゃなストーリーになっています。
余談ですが、その昔、この羽団扇という落語を元に「天狗裁き」という別の落語が作られたんですが、この落語がめちゃくちゃ面白いので、ぜひ一度触れてみてください。
爆笑する噺とはちょっと違うかもしれませんが、オチで「おぉ〜!!」と湧き立つような落語です。
93巻:幇間(たいこ)もちのヤス(こじつけ度:10%)
ヤスという名前の幇間もちが旧知の仲のように親しく話しかけてくるが、みんなその勢いに誤魔化されただけで正直誰もコイツのことを知らない…というシーン。
まさに同様のシーンが落語「鰻の幇間」にもあります。こちらは幇間もちが騙されるパターンですが。
【あらすじ】
お酒の席で客を盛り上げる幇間(たいこ)もちを仕事とする一八という男。ある日、街中でなんとなく見覚えのある男性に声をかけると、どうもそいつは以前会ったことのある客らしい。
精一杯ヨイショして昼飯でも奢ってもらおうと画策するが、その客のことがどうにも思い出せない。覚えてないと言うのも失礼だし、めっちゃ知り合いっぽく話してくるし…多分会ったことある人なんだけど…こいつは一体誰だ?
幇間もちという職業についてちょっと知識が必要な落語です。とはいえ、「たいこもち」という単語自体は現代でも使うしそんなに難しくはないかも?
ちなみに、その昔豊臣秀吉のご機嫌取りがうますぎてめちゃ出世した「曽呂利新左衛門」という人がいたそうです。太閤秀吉の機嫌を取り持っていたことから、機嫌取りがうまいことを「太閤もち→たいこもち」と呼ぶようになったそうです。本当かどうかはわかりません。
この曽呂利新左衛門という人は、めちゃユーモラスな人だったらしく、落語の元になった…とまで言われるような人(実在する人物かどうかは怪しいらしい)。
そんなわけで、僕は勝手に「幇間もち」をテーマにした落語を特別視してます。なんか…落語としての大切なルーツが潜んでいる気がして…。
中でもこの「鰻の幇間」は、悲しくもおかしい芸人の性というか定めというか…なんかそんな感じの風情を感じるので、大好きな落語です。
94巻:ミイラ(こじつけ度:15%)
敵が使用する非情な細菌兵器「ミイラ」が登場します。ミイラのように干からびるという症状が次々と感染する恐ろしい武器です。
次々とミイラになって行くという意味で落語「木乃伊(ミイラ)取り」を思い出しますね。ミイラ取りがミイラになる…という噺です。
【あらすじ】
吉原に行ったまま全然帰ってこないドラ息子。ラチがあかないのでお使いの者を出してつれ返そうとしたが、その使いの者も遊びに夢中になって帰ってこなくなる。
今度は腕っ節のたしかなとび職のお頭に頼むが、これもまたミイラ取りがミイラになって…。
難しい噺なのか、あんまり演じている人を見ることがないような気がします。多分。
とはいえ、「吉原なんかにたぶらかされるか! 絶対連れ帰るぞ!」と意気込んでおいて、まんまと籠絡されちゃう…とフリオチがしっかりしてるので、過不足なく面白い噺だと思います。
960話:鶴女(こじつけ度:30%)
「鶴女」という名前のキャラが登場します。
これは先述した落語「たらちね」に登場する名前と同じですね。奥さんの幼名が「鶴女」でした。
以上です!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。こじつけ気味ではありましたが、「そんな落語があるのね。ふ〜ん」とだけでも思っていただけたら幸いです。
今後もONE PIECEならびに落語ファンとして、麦わらの一味のご活躍を楽しみにしております。
それでは最後に、この記事を書いたことで初めて気づいたショッキングな事実をお知らせして終わりましょう。
まじかよ
(おしまい)