
みなさんには「いつまでも心に残り続けている小説の一節」はあるでしょうか。
僕にはあります。
それは、名作小説『夜は短し歩けよ乙女』から。
夜は短し歩けよ乙女
森見登美彦による長編小説。2008年刊行。
京都を舞台に、冴えない大学生「先輩」と、その後輩である「黒髪の乙女」の恋模様が描かれる青春恋愛物語。
自分がこの小説と出会ったのは、大学生のころ。
主人公2人の愛おしさには思わず抱きしめたくなるほどに、読後感が心地よかったのを覚えています。
「オタク、森見登美彦作品で語彙を増やす」
↑コレ、自分と同世代には共感してもらえるんじゃないでしょうか(「読者諸賢」とか)。

『夜は短し~』に登場する飲み物なら「偽電気ブラン」を思い浮かべる人も多いでしょうが、自分は「ラムネ」のほうが印象に残っています。
途中、渇きに耐え切れずに、ラムネを買って飲んだ。喉を流れ落ちるラムネは、夏の涼しさを濃縮した甘露の味と言うべきだった。たかがラムネで感極まって泣いたのはその日が初めてだ。
角川書店『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦著 p135より
このシーンをざっくり説明すると
・主人公の男が、馬鹿みてぇに熱い部屋で、アホほど辛い火鍋を食べる
・火鍋を完食したあと、外で飲んだラムネが最高すぎた
といった内容です(読んでください)。

文章とはなんてスゴいんだろう!
当時、僕はこの一節に、いたく感銘を受けました。
写真もイラストも使わず、文字の情景描写だけで「夏の涼」をここまで表現できるなんて…!
とくに太字にした部分なんかは最高です。
「夏の涼しさを濃縮した甘露の味」
ッくぅ~~~!
文章だけで、ラムネという飲み物が持つ魅力を最大限に引き上げていますね。
僕もWebライターという一端の物書きとして活動しているわけですが……
この小説のこの一節は、間違いなく、自分の心の指針になっているでしょう。

そして同時に、こうも思いました。
物書きならば、好きな小説の好きな1シーンを体験しておくべきでは?
一ファンとしてはもちろん、己の表現スキルアップのためにも。
これはもう、やるしかありません。
やるぞ!

改めましてこんにちは。この記事を書きし者、たかやです。
ご覧いただいてる通り、完全防寒の装いです。
いまは8月です。
ここから僕がやってくことは単純明快。
①クソ暑い部屋で、火鍋を食べる
②完食後、キンキンに冷やしたラムネを飲む
それだけ。

ちなみにこの日、東京は最高気温39℃という歴史的猛暑を観測しました。
気温分布が都心部だけDVで殴られたみたいにドス紫色に変色していたので、皆さんの記憶にも新しいんじゃないでしょうか。
さすがにこんな日は、冷房をガンガンに効かせた部屋で大人しく過ごすのが吉でしょうな。ハハハ。

暖房、オン。
作中では、天井からコタツを吊るした状態で(つまりクソ暑い)、火鍋を食べてました。
さすがにそこまではできませんが、作中のシチュエーションに可能な限り近づけます。

冷蔵庫ではラムネが冷やしてある
あ、ヤバ…。もう飲みたい…。

さて今回食べる火鍋はコチラ。
ふだん、激辛系の料理は好んで食べません。むしろ、かなり苦手な部類。
それでも、先輩のライター・かんちさんがこの記事でも絶賛してるように、『海底撈(かいていろう)の火鍋は美味しい』という噂は以前から気になってたので購入。

赤すぎる。怖い。
今日ほど「写真はイメージです」が「イメージであれ」と思ったことはない。

パッケージから火鍋の素を取り出しました。
輸血パックかってぐらいドス黒くて怖いですね。花椒や八角、クローブなどがゴロゴロと入ってるのが分かります。

トポポポッ
油の量、スゴッ!

用意する材料は豚肉や白菜、キノコ類といった通常の鍋と同じ。

具材投入
具材がまたたくまに赤く染まっていく。
火鍋に対してこう表現するのもいささか安直な気もしますが……
これほどまでに「血の池地獄」の呼び方が相応しいビジュも無いでしょう。助けて。

助けて。
具材、入れ過ぎた。
「 うしゃしゃ!具材、予算上限まで買い込んじゃお!」とか考えてた数時間前の自分をぶん殴りたい。

食べます

…………。
コッ
具材を冷まそうと顔を近づけた瞬間、あまりにもな唐辛子の刺激臭にむせてしまった。

それでもなんとか口に運ぶ……

はァァ!

ヴァァ!?

げぇッ!
うそ、火鍋ってこんなに? こんなになの?
……いやもう、辛いを通りこして、苦い。
激辛もイキすぎると苦みに変換される。どっちにしろふざけんな。

汁単体でも充分に辛いけど、具材が加わるとさらにその凶暴性が増します。

たとえば白菜。
白菜が持つほのかな甘みなんて当然のごとく打ち消され、辛味を喉に運んでくるだけの白い板に成り果てます。

あるいは長ネギ。
噛んだ瞬間、穴の中に含まれてた激辛の汁を「ピュッ」と発射してくる極悪のホースでしかない。
鍋で長ネギの存在を恨んだのは初めてだ。

食べ始めてから数十分しか経ってないのに、もう汗だく。

さすがにこの状況で水分を摂取しないのは命の危険に関わります。しかし、お茶も用意してあるのでご安心ください。
アッツアツの麦茶を。
悶絶する我々は熱い麦茶を飲み、さらに火炎にアブラ注いで悶絶した。
角川書店『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦著 p116より
原作では主人公たちは熱い麦茶を飲みながら火鍋を食べていたので…。原作へのリスペクトは欠かせないので…。

ふざけるなよ、森見登美彦
これまで飲んできたどんなお茶よりも不味い。喉がイガイガする。カス。カスの汁。

爆熱爆辛爆汗
火鍋(+麦茶)と暖房効果により、身体が内からも外からも暖められ続ける。
同時に、腹の底から、まるで猫が唸っているかのごとく、ゴロゴロと音を立ててくる。
うそ、もう…!? 翌日にケツと格闘する覚悟はしてたけども……。
火鍋や麻辣湯など、激辛系がブームの昨今だけど…
……ほんとに? みなさん、本当にこんなのありがたがって食べてるの? バカじゃねーの。

ハッ…! ハッ…!

ハッ…! ハッ…!ハッ…! ハッ…!

ハァァ…!
あァ…。いますぐ、あの透き通った水色の液体を飲み干したい。
なんならもう、容器の表面だけでもいいから、舐めさせてほしい。

それでも、攻略法も見つけました。
これも原作に書いてあったんですが、ごま油をつけて食べると辛さが幾分かマシになります。
具材の表面がごま油でコーティングされるので、マイルドな味わいになって食べやすい。 なんなら普通に美味い!
火鍋を食べるときには、ごま油とセットでいったほうがいい!
そして……

格闘すること約1時間、なんとか完食。
完食直後の顔
とても食事後とは思えない顔だ。

さぁ、あとはいよいよラムネを飲むのみ!

ガッ!

時刻は17時過ぎ。
外に出ると、昼間のうだるような暑さとは打って変わって、涼しい夏の夕風が吹いていました。

泣きそ……
うそ……うそうそうそうそ(泣)
夏の夕方ってこんなに涼しかったの?
「夕涼み」で泣きそうになったの、今日が初めてかも。

今すぐにでも飲み干したい衝動をグッと抑えて、せっかくなので近所の神社に来ました。

あハァ(泣)
は、は、は、は……。ついに、ようやく、ラムネを飲むことができる。
なんて…なんて綺麗なスカイブルー。
汗をかいてる容器すら愛おしい…。

栓を開ける
「夏の涼しさを濃縮した甘露の味」
果たして、森見登美彦先生が仰っていた通りの味がするのでしょうか。
これで違ってたら許さん。許さんからな。森見登美彦。

ん゛ぅ゛ぅ゛ッ゛!
…………。
………………。
………………………………。

登美彦(泣)
ラムネを喉に流し込んだ瞬間。「甘味」という名の多幸感が身体中を駆け巡りました。
同時に、頭のてっぺんから足のつま先に至るまで、皮膚感覚が「涼」を感じ取ろうと鋭敏に働き出す。
強すぎない炭酸は、まるで灼熱地獄から生還した自分への拍手に錯覚してしまうほど。
ラムネとは、こんなにも優しい飲み物だったのか…!

なるほどたしかに。「夏の涼しさを凝縮」という表現も頷けます。
いやむしろ、どう考えてもこう表現するほかない。
スゴイ! 森見登美彦先生、アンタやっぱすげぇよ!
たぶん、これがビールやハイボールだったら、ここまでの感動は生まれないでしょう。
当然、カプサイシンの効果を増幅させる水も違うし…。
ラムネなんです。激辛料理のあとの最適解はラムネ!!!
異論があるか。
あればことごとく却下だ!!!
以上
また今日も夏の一日が暮れていく
以上となります。
僕は今日、ラムネを文学的に味わうために、火鍋を食べました。
おそらく後日、尻から火を噴くことが確定してるとはいえ、大好きな小説の1シーンを再現できたし…。尻から火を噴くことが確定してるとはいえ、ラムネの美味しさも再認識できました。尻から火を噴くことは確定してますが、それでも、後々感慨深くなるであろう、夏の一ページになりました。
例年以上に僕は「夏の涼」を感じることができたのです。
ありがとう、森見登美彦先生!(なむなむ!)
後日譚

撮影から数日後
あ~、やっぱ黒髪の乙女は可愛いよな~。
……………。
…………………………あぁ

(火鍋、また食いたいなぁ…)
あれだけ苦しめられた火鍋ですが……
数日も経てば、また身体が欲することに気づきました。
火鍋、クセになる。

たかや









松岡

梨
めいと


雨穴
オモコロ編集部






