豚の角煮が好きだ。四角く切り落とした豚バラをやわらかく煮て出汁を染み込ませる。それだけでなぜこんなにうまくなるのか。
私は普段自炊をまったくしないが、豚の角煮だけは別だ。たまに豚バラブロックを買ってきて大量の角煮を製造し、数日かけて食べるのを楽しみにしている。
今年も、昨年末に仕込んだ角煮を正月の三が日のあいだ食べ続けて過ごした。幸福だった。
「好きな食べ物ですか。角煮です」
そんなことを方方で言っていたら、おみやげにラフテーを貰ったり、角煮の作り方を教えてもらえたりする機会が増えた。
そして最近、こんな情報を得た。
「秋葉原に、豚の角煮をカツにしたものを出す店があるらしい……」
行くしかないではないか。
炉端バル さま田の平日ランチ
来た。秋葉原駅の電気街とは反対、東側を出て、総武本線の高架下に沿って歩いて左手にある。炉端バル「さま田」だ。
すでに何人かの客が並んで入店を待っていた。私は列の存在に気づかず入店して店員さんに注意された。
やはり名物メニューは「角煮カツ丼」。平日ランチのみの限定メニューである。
木曜日の12時30分ごろに到着したが、5分も待たずに入店することができた。
メインの営業は夜であり、肉類を中心とした多種多様な居酒屋メニューが壁にかかっている。ふつうに夜訪れても楽しめそうだ。
「店長のイチオシランキング」の1位が「山盛りフライドポテト」になっていたのが少し気にかかったが。
ランチメニュー。角煮カツ丼以外にも唐揚げ定食やローストビーフ丼などもある。
角煮カツ丼は700円。しかしよく見ると「角煮カツダブル 950円」なるものがあるではないか。
私は油ものが好きだが、まったく大食いではないし、胃腸が強いわけでもない。重いものを食べた日はそれ以外何も入らない。
「絶対に並盛りで十分だけど、角煮は大好きだし、量が多いほうが記事的な画映えもしそうだし、ダブルのほうがいいんじゃないか……?」
脳裏にそんなスケベ心がよぎり、つい「角煮カツダブルで」と言ってしまった。
大ボリュームの角煮カツ丼ダブル
数分待って運ばれてきた「角煮カツ丼ダブル」がこれだ。
「おお……」
息を呑む。すごい。
平たくて大きい丼に白ごはん。その上にトンカツサイズの角煮カツが2枚。
さらにその上にはオムレツが乗っかっている。
カツの厚さは1センチくらいはあるだろうか。
見ただけで伝わってくるオイリーなインパクト。
ともかく箸をつけるしかない。
オムレツに箸を差し込んだら花が開くようにほぐれた。トロトロだ。
これだけでご飯一杯くらいなら食べられてしまうが、ここにさらに角煮のカツが2枚ついてくるのだ。
続いて角煮カツにも箸を入れる。
驚くほど簡単に切れてしまった。見た目はトンカツに似ているが、柔らかさがぜんぜん違う。よく煮込んだ角煮と同じホロホロ感。
口に運んでみると、うまい。味がよく染みたうまい角煮だ。それがさらに黄金色の衣に包まれているので、ご飯が進まないわけがない。
「なんだ、余裕で食べれるじゃないか!」
もっと重くギトギトしたものを想像していたが、かなり軽くパクパクと食べられる。
オムレツも角煮によく合う。あっという間に1枚目のカツを食べ終わった。
そのときの心境は上図のような感じであった。
「お腹いっぱいになっちゃった」
2枚目に箸をつけてすぐに上図の心境になった。
油モノは、後半における満腹中枢の上がり方がすさまじい。私には並盛りが完全なる「適量」であることを悟った。
しかし、角煮好きとしては絶対に残したくはない。なにより味はすごく好きだ。満腹中枢に追いつかれる前に箸を動かし、なんとか完食した。
あなたの角煮愛を試されるランチ
残り一枚の角煮カツを頬張りながら、先日見たネットニュースを思い出していた。
小熊を飼育していた男性が、成長して凶暴化した熊に食べられてしまった、というロシアのニュースだ。
今の私は、ある意味でそれに似ているかもしれない。私はこれまで自分のことを角煮好きだと言ってはばからず、多少の脂っこい食事も平気なつもりでいた。
しかし、それは小熊を相手にしているようなものだったのだ。
角煮というカロリーの塊が衣をまとったときに発揮するヒグマのようなバイオレンスを、無意識のうちに嘗めていたのかもしれない。
今度来るときは絶対に並盛りを頼もうと思う。
炉端バル さま田
住所:〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町3丁目21−6 第一ヤマコビル [GoogleMap]
ランチ営業:平日11時30分~14時00分
ディナー営業:17時00分~23時30分