
第43回「季節はずれの男」
OP/いとしいご主人様 ED/悲しみのラブレター
唄/森の子町子
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僕は朝、明治神宮前駅〈原宿〉でベンチに座りながら3本電車を毎日見逃している。忙しくなる一日へ向けて、束の間の休息の為。
9時40分に家を出る。
起きる時間は季節でまちまちだが、大体寒いこんな日は家を出る10分前に起きることもしばしば、
「もがああああああ」と嫌な気持ちを言葉に乗せ、近隣住民の怒りを買わない程度に叫んだ後は洗面所での用を簡単に済ませ、そうして着替えて家を出る。
寒い。
そう感じた瞬間にバッと走る。
1分くらい急いでもいないのに駆けた後は急停止してスッと歩き始める。何故、こんな行動を?
これはライフハックなのだが、人は寒い時に走ると体が暖まる。だからだ。それ以上の理由なんて無い。
強いて言えば駅のホームで電車が来るのをゆっくり待つことが出来るくらいだ。
ゆっくり歩けば徒歩10分で駅に着く。僕は9時53分の電車に乗りたい。
乗る電車はいつも同じ。変わらないホーム。最近はスマホなんかを見たりするから景色や人の顔なんて見なくなったけど、おそらくその時間のメンツはほぼ一緒。
同じ時間に家を出て、同じ時間の電車に毎日乗ってる人は少なくない。僕もそうだし。
その日々のルーチンの中で、人それぞれのこだわりがあると思う。
美味しいパンを朝食にサクッと食べたり、駅前の喫煙所でタバコをほふぅと吸ったり、朝早く起きてランニングする人とかもいるらしい。
僕もこだわりじゃないけど一つ決めているって言うか、そんなたいそれたことじゃないんだけど、いつもしてしまっていることがある。
僕は明治神宮前駅〈原宿〉で3本電車をベンチに座りながら見逃している。
これから始まる憂鬱な一日を充分に乗り切る為の束の間の休息だ。
コレが大事なんだ。たまにジュースを買ったりすることはあるけど、特に何もしない。
スマホを開いてTwitter見たり、漫画を読んだり、メールは来てるかなんて、そんな所。それと…特にコレは別になにも無いけど友達がいる。
僕は、10時6分、11分、16分、の3つの電車を逃すのだが、このホームに着くのが10時4分辺りでその時にベンチが空いてる事はあまりない。
なので6分の電車を逃す時は大体立って待っている。
6分の電車が過ぎる頃にはホームはガランとし、もちろんベンチもすっからかん。のはずなのだが、いつからかそこには一人の女の子がいることが多かった。
誰似って言うとパッチギの頃の沢尻エリカ。
まぁ、最高。そんなの発見したら気にならないはずがない。
出会い始めというかなんというか、意識したのがいつからかわからないけど、その沢尻エリカは僕より先に座っていて背筋をピンとして、
コロコロみたいなぶ厚めの本を読んでいた。見た目とは裏腹にとても普通で何故か千代田線のホームに馴染んでいた。
毎回ホームに来るたんびに見かけ、僕がいつも乗る21分の電車にも乗らずにいる。何をそこにこだわるんだろうか?お前が言うなって思うかもしれないけど、
「そこでなにずっと本読んでんの?」
「…え?」
しまった。つい口が滑って失礼なことを言ってしまった。…とまぁこんな風に最初声をかけた。
「あ、いや、ごめんなさい」
「…」
やっちゃたな…たまにこういう事あるんだよ。疲れてる時だ。確かに最近疲れもあってちょいと寝不足だった。
…気まずいな。もうこんなんだったら11分の電車に乗ろう。
「いや、大丈夫です。本を読んでるのはここが落ち着くからです」
「…そうなんですね…なんか…さっきはすいません!…いつも気になってて…あ、そういう意味では無くて!」
「いえいえ、確かにこんな綺麗でもないホームで空気の悪そうな中、本を読んでるのは確かにおかしいですものね」
彼女の笑顔はとても美しく、当時の自分のたじたじを思い出すたんびに何をキモくしてんだと腹が立つ。
僕らはそこで、何時からいるのか?とか、いつ帰るか?とか、そういう会話はすることが出来ずになんとなく最近あったことなど話していた。
仕事の愚痴からテレビの話、ネットでみた面白い動画だったりをその場で共有してた。いや、僕から一方的だったか。
沢尻エリカは携帯を持たない。
一度連絡先を聞いたことがあったが「ごめんね、そういうの持ってないんだ」と申し訳なさそうに断られた。
なので僕が勇気を出して色々アクションを起こさない限り、僕は毎朝電車を3本見逃してる間しか彼女に会うことが出来ない。
僕が休みの日に明治神宮前駅〈原宿〉に行けばもしかしたら永遠無限に君と会話が出来て、あわよくば外に出てランチを食べたり出来るのかい?
そう思って何度か休日に駅を訪れたが、ベンチで大きい本を一生懸命読む君は居なかった。
その次の日の事。もう出会ってから半年が経とうとしている時。
「はあ…」
「なんだか元気がないですね?」
なんだかも無いよ。君にもっと会いたいのにここでしか会えないのが辛いんだ。
君はどこに住んでるの?休日は何をしてるの?好きな食べ物は?兄妹は?お仕事は?年齢は?名前だって…僕は君の何も知らないよ。
少しずつでいいから君を僕に教えてくれないか…?
…なんて言えるはずもなく、
「なんかねー…最近仕事がさ」
「いつもの言ってるあの方ですか…」
いや、そうじゃない。なんとなく言っただけだ。今日はそんな生産性の無い愚痴で終わらせたくない。
あぁ、どうしたら良いんだ。適当に相槌を打っている自分が嫌だ。ほら…もう…時間が無い。
「うん…あ、のさ。今日はその話じゃなくてさ、君の事…少し…」
プシュー…
11分の電車が到着した。間の悪い電車め。
…あ
このせいか。僕らがこの距離感なのは…
二人はこの、時間きっちり訪れる電車の音で話が流れて、それが発車するのと同時に別の話をしていた。
元から朝の数十分で色々聞くってのが無理だったんだ。だからこれはそもそも「無し」だったんだ。
「ごめん。今日はちょっと、早く行く」
「え?」
僕はそう沢尻エリカに伝えて16分の電車に乗り込んだ。
今まで近いと思ってた君が実は遠い所に居ると感じたその時、僕の中での何かがちぎれ、宛もなく仕事をほっぽり出して何処かへ行く勇気もなく、僕は普通に出勤した。
それからは明治神宮前駅〈原宿〉で待つことをやめて渋谷で生ジュースを飲んだり、
家の最寄りで適当にパンを買ってもっさり食べたり、タバコを苦く吸ったりと、慣れないことばかりして時間を潰していた。
今日もいつものベンチで君は本を読んでいるのだろうか。
…
…
まだ、明治神宮前駅〈原宿〉で1本電車を逃すことが出来る時間…
僕の悪い癖だ。勝手に盛り上がって勝手に冷めて、あっちからしたら意味わかんないだろう。僕は、何なんだ…?
いつものベンチに1週間ぶりに戻ると、16分の電車を待つ人混みで直ぐにはわからなかったが君は、いつも通り、ベンチに咲いていた。
「久しぶりじゃないですか」
彼女は少し不機嫌だったが僕は久しぶりに会えた君に笑みを隠せずにいた。
「そうだね。なんか、ごめんね」
「別に大丈夫です。この本も随分読み進めてあと数ページです。あなたが来なかったから…」
「え?」
「本…読んで良いですか?」
「あ、うん」
「私ね。この本まだ読み終えてないけど、好きな章があってね」
そう言うとおもむろに彼女は今までずっと読んでいた本を読み始めた。
乗らない下りの電車の音や人の話し声で、か細い彼女の声は隠れていく。
僕はただただ微かに動く君の唇をじっと見つめて聞こえない声を追うことしかできなかった。
時刻は21分。ゆっくり電車は止まっていき彼女の口も次第に止まっていった。
プシュー…
「第9章…この本で私が一番好きな章…電車、来たね」
僕はたじろぎながらも背中を押されて車内に入れさせられた。
もうこれでお別れなのか?誰のせい?俺のせいか。嫌だ…けど…でも…
「あの、さっきの本…どういう意味…?」
そこで告白したりとか、そういうラブでロマンスでドラマティックなことは出来なくて、本当に疑問に思ってることしか聞けなかった。
それでも彼女はその問に僕の目を優しく見つめて答えてくれた。
「会いたかった」
そう言うと扉はうまい具合に閉まり、電車が動きゆく中でホームに残る君をただ見ることしか出来なかった。
それから沢尻エリカ似の君とは会えないでいる。
僕もその路線を使わないようになって今どこで何をしているかわからない。
元気にしてるのだろうか。また会うことがあるのなら、もう一度第9章を僕の前で読んでくれるだろうか。
僕は、とりあえず元気です。
bye!!

かまど
みくのしん
ARuFa
ダ・ヴィンチ・恐山







